第160話
第160話です。
9時になると文化祭が始まった。
うちの高校では田舎ゆえなのか、近くの海で採れた魚や畑で採れた野菜を地元の人が売るブースも存在しており、そこだけを見たらただの市場に見えなくもない。ただ、それ以外の点で言えば都会の文化祭と何ら変わることはない。それは実際に大阪に行って見てきた俺だからこそ言えるセリフだ。
シフトもそこそこに10時以降は抜けるという事を伝えたら、利根里さんにやたらとショックそうな目で見られてしまった。なぜなのかは分からないが、俺には先輩から託された任務があるのでそちらを優先せねばなるまい。
俺の主な役割は裏方仕事。途中で抜けることもあって、人数の集計や、会計等などリアルタイムでの作業が必要なものは避けたのだ。
料理に使う食材を運んだり、時々調理にも駆り出されながら作業をしているとメイド姿の利根里さんがやってきた。
「碧染くーん。途中でシフト抜ける理由って何なのー」
「気になるの?」
「そりゃあ気にもなるよ!」
「そうかな」
そう言いつつ、俺も他人が特に理由も説明せずシフトを抜けると言われたら確かに気にならないこともない。
だから仕方なくというか、渋々というか、まぁ別に言ったところで減るものでもないしな、と思いながら俺は利根里さんに抜ける理由を話す。
「知り合いに文化祭の案内をしないといけないんだよね」
「知り合い?家族とか?」
「いや、友達?」
「何で疑問形なのさ」
少し訝しそうにこちらを利根里さんは見つめてくる。
「友達、だと俺は思ってるけど、向こうがもし思ってなかったら嫌だからさ」
「いやいや、友達じゃない人に案内を頼みたくないでしょ」
「そうかな?」
「そうだよ」
利根里さんは自信ありげにそう答えてくれる。だが、アスナさん達の案内をしてくれと頼んだのは先輩であって、決して彼女達本人に案内を頼まれたわけではないの。俺達の間には仲介役が存在していたのだから、また少しニュアンスが違う気がする。
「まぁ、そうだと信じて案内に専念するよ」
ただ、利根里さんはアスナさん達の存在を知らないのだから、もう友達だという設定で十分対応しきれるだろうと判断する。そしてまた作業に戻るのだ。
利根里さんは相変わらず俺の作業を見てくるが、はたしてこの子もこの子でシフトは大丈夫なのだろうか?
ちらりと現場の方を覗いてみると、利根里さんがいなくなったことによってメイドの人数が足りなくなるという致命的な状況を引き起こしている。
「利根里さん?戻らなくても大丈夫なの?何かみんな忙しそうにし始めてるけど」
そう尋ねてみると初めて現状を把握したのか「ヤバっ!?」と言って大急ぎで現場に戻って行った。すると忙しさゆえに出ていたスタッフ陣営の声は、利根里さんの復活によって段々と落ち着きのあるものにへと変化していく。
「利根里さんが優秀過ぎる……」
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