第15話
第15話です。
「それで、久しぶりに俺の事を屋上に呼び出してどうしたんですか?」
目の前で腕を組みながら、自信ありげな表情を浮かべている先輩にそう聞く。
先輩の背中には大きめのギターケースも背負われているので、大方それ関係の話なのだろうけど。
「後輩くん。私はついに親の説得に成功したのだよ!」
「ほう?」
「つまりだね、高校卒業から5年間の間だけ音楽で食べていくためのチャンスをくれるということなのさ!」
「5年ですか。長いようで短いですね」
そう言うと先輩はビシッと俺の方を指さしながら「よく気づきました!素晴らしい!」と言って俺を褒めてくる。別に褒められる事でもなんでもないのだけど。
「5年は人生をかけるにはあまりにも短い。それはその通りだね。そして、人生をかける準備を始めるのが高校卒業からだと、遅いということでもあるのだよ」
「でしょうね」
「だから私は1人で考えた。寝る間を惜しまずにちゃんと健康的な生活をしながら悩んだ!」
「健康はいいことです」
ツッコミ入れつつも先輩は特にそのことに対して何かを言うことは無い。言われたら言われたらで、俺がめんどくさいからそれでいいのだけど。
「遅いなら今から始めてしまえばいいじゃないか、とね?」
「まぁ、至極真っ当な考え方ですね」
「うんうん、画期的なアイデアでしょ〜?」
俺の言う事を全く聞く気がない事が分かりつつも、一応先輩の相手は続ける。一応先輩だしね。先輩としての威厳は少ないけど。
「それで、何をするんですか?」
「そう、まさにその事について話そうと思っていたのだよ」
「ふむ」
「私はまず考えた。どうやったらみんなに認知されるのか。それは歌が上手いのは当然だとして、色んな人の心を私の歌で動かせれば、必然的に私の事が広まるのではないかと。しかし、ラジオに出れるわけでもなければ、テレビなんてもっと無理。じゃあ、こういう時後輩くんならどうする?」
急にそう振られて少し驚きながらも、俺は俺の思い付く平凡かつそれでいて一番可能性のありそうなものを答えた。
「SNSですか?」
「そのとーり!」
ビシッとまた指をさしながら、先輩はニッとイタズラを思い浮かんだ男児のように無邪気な笑顔を浮かべた。
「TwitterにInstagram、YouTubeを駆使しまくれば少なくとも音楽好きの人の目くらいには止まるはず!そしたらそこから段々と繋がりが出来て……みたいな感じだね!」
先輩がそう言うのだ。多分繋がりはできるし、先輩が卒業するまでの1年と数ヶ月を使えば、かなりいいところまで行ける気がする。
「あとはね、やっぱり上京するのが、一番チャンスが多くて可能性があると私は思うわけだよ」
「そうですかね?SNSなら場所とかはあんまり関係ない気がするんですけど」
そう聞くと「甘いね。チョコよりも甘いね!」と言われる。少しイラッとしながらも、その事は隠しながら俺は何が甘いのかを聞いた。
「SNSはあくまで認知されるための手段。関西圏のここも悪くはないけど、デビューとかを考えると、やっぱりレコード会社の多い東京に行かないと色々不便なんだよ」
「あー、そういう事ですか」
割と真っ当な理由に納得しながら俺はこくりと一つ頷く。
確かに音楽で食べていくのなら、デビューは絶対的な条件。それを一番成しやすいのは、やはり東京か。となると、
「先輩」
「ん?」
「上京するための資金集めも今から始めときましょう」
そう言うと先輩は目を大きく見開く。
「本当だ、お金!」
「という事で先輩はバイトをまずは探しましょう。音楽云々はその後です」
そうアドバイスすると先輩はこくりと頷いて「早速探してくる!」と言って去ってしまった。
結局ギターは使われず、俺は1人黄昏時の屋上に残された。
ぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!次回は28日です。