第156話
第156話です。
高校の最寄り駅に戻ってくると、のそのそとしたゆっくりな歩調で俺達は学校に向かった。
木材等の重い物も買い込んでいるのでかなり肩に負担が掛かる。
「ちょっと持とうか?」
俺が額にたらりと汗をかきながら肩で息をしていたためか、利根里さんは心配そうにそう提案してきた。ただ、こちらにも男の意地というものがあるし、それにこれだけのものを女の子に持たせるのもさすがにいかがなものかと思う。
だから首を横に振って「大丈夫だよ」と言うとまた前を向いた。
「学校に戻ったらすぐに帰らないといけないね」
「だね。何気に買い出しで動いた俺達の方が、トータルの忙しさで言うと一番なんじゃないかな」
「あははっ、かもね〜」
「何かご褒美が欲しいくらいだよ」
何気なく俺はそう言ったつもりだった。会話を潤滑に進めるための油としての役割として、ちょっとした笑いのネタになるかと思って。けれど利根里さんはそこではたと足を止めたのだ。どうしたのだろうと思った俺はゆっくりと振り返る。
「どうかした?」
「碧染くんはさ、ご褒美があったらいいんだよね?」
「んぇ?あ、あぁ。まぁ、あったらいいかなってくらいだけど」
「なるほどなるほど」
そうブツブツと呟いた後に利根里さんは顔を上げると俺の事を見据えた。
「それならば、私から碧染くんに何かご褒美を上げましょう!」
「……え?何で?」
「ほら、ご褒美をあげたら、また一緒にデートしてくれるかもしれないでしょ?」
「俺……犬か何かだと思われてる?」
◆◇◆◇
教室の扉を開けて中に入るとクラスメイト達が全員同時にこちらを見た。そして俺達だと認識するとわらわらと近付いてくる。
「木材ってあるか?」
「おぉ。買っておいたぞ」
「リボンってあるー?」
「それは利根里さんが持ってるよ」
「寿司はー?」
「食べた」
俺は1人ずつ順番に捌いて5分もしてからやっと俺は開放された。
「疲れた……」
体を投げ出すようにイスに座ると作業を進めるクラスメイト達の事を見た。それぞれちゃんと自分の仕事に取り組んでいて、浮かべる表情は活き活きとしている。対する俺は先輩達のサポートの方にかなり回っているので、先輩達の事になると活き活き出来るが、それ以外だと死んだような表情しか出来なかった。
端的に言ってメイド喫茶は既視感が凄いんだよなぁ。
そんなのアスナさんの文化祭でアスナさん本人によるメイド姿を見てしまったからに他ならないのだが。
にしてもこちらでもするとは思わなかった。しかもメイド姿に扮する女子の方がノリノリという事実。いや、別にそれが悪いわけではないのだけど。
「ご褒美は膝枕にしますか?」
利根里さんが俺の隣でみんなにも聞こえる声量でそう尋ねてきた。当然利根里さんレベルの可愛さの子がクラスの一男子生徒にそんな魅力的な提案をしていたら、他の男子からは視線だけで殺されそうなほど殺気に満ちた目で睨んで来る。
さっきから文字通り視線が痛い。
「利根里さん、ご褒美の件は一旦保留で。今日のところはもう俺は帰るよ」
「えぇ。もう少しだけいよーよ」
「嫌だ。帰る」
「ぶー、わからず屋ぁ……。しょうがない。私も帰ろっと」
なぜか教室に残るではなく、俺と同じ帰るという選択肢を取った利根里さんにクラスメイト全員は驚きの目を隠しきれていなかった。
いや、俺も驚いてるんですけどね?
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