第150話
第150話です。
アスナさんと2人で部屋を出る。
時刻は8時と特別早いわけではないが、この当たりを歩く人の数は比較的少ない。まぁ、駅の辺りに行けば人の数も必然的に増えるだろうから、今のうちに静かな時間を楽しむのがいいだろう。
「ふあぁ……」
隣では眠たそうに大きなあくびをしてアスナさんが歩いている。銀髪はゆらりゆらりと揺れ、時折日の光が反射した。
「眠たそうだけど、文化祭で寝ない?」
「……分からん。裏で寝てるかも」
「でもシフトもあるんでしょ?」
「あったな。……シフトさえ無けりゃ、誰にも気を遣わずに寝れたのに」
大きくため息を吐くと、アスナさんはちらりとこちらを見る。何だろうと思ってどうかしたのかと尋ねると、スマホを出してきた。
「寝そうになったら電話していいか?」
「別にいいけど……何で?」
「話し相手がいたら寝なくて済むだろ」
「あぁ」
アスナさんの言葉に俺は納得するところだったが、すんでのところで踏みとどまった。その役目は果たして俺がすべきなのかという疑問が生まれてしまったのだ。
そして、その疑問を外に出さずに自分の中で留めていたらよかったものを、何も考えずに出してしまったのが俺の過ちだろう。
「俺以外にもクラスメイトの人とかもいるんじゃ」
「知らん」
「え?」
「私は……クラスメイトの顔と名前が一致してない」
「あ、あぁ……」
「だから会話なんて芸当、まともに出来るわけがない」
そんな言葉にどう返したらいいのか分からず、俺は静かに前を向くことにした。こういった内容の事にはあまり深入りしないことがいい。地雷を踏まなくて済むからな。
「それで、電話しても良いか?」
「あ、はい。どうぞ沢山してください」
「ん。じゃあ眠くなったら電話する」
それだけで満足だったのか、アスナさんは小さく鼻歌を歌い始めた。曲は『START Again!!!』。どうやらお気に入りらしい。
先輩の作った曲がメンバーにちゃんと受け入れられていて、俺はその事にどうしようもなく嬉しく感じた。
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