第146話
第146話です。
「少しだけ……寝る」
そう言ってアスナさんはアバターの周りをブロックで囲み、自分の立つところに光源となる松明を置くと、コントローラーをソファの上に置いて目を閉じてしまった。
猫耳のフードを深く被っているせいで寝顔はよく見えないが、心地の良さそうな寝息だけはずっと隣から聞こえてくる。
家主に寝られてしまうと客でしかない俺はどうすればいいのか分からなくなってしまうが、ひとまずは起きるまで作業を進めることにする。
拠点近くにあった海岸から砂を拝借し、アスナさんが用意してくれたかまどでガラスに加工する。それを更に板ガラスに加工し、拠点の家にはめた。
二階建ての造りにして、主な作業スペースを一階に。二階をリスポーン地点と決めると、次は地下作業に移る。
室内の片隅に地下へと繋がる階段を作るとそこから大きな空洞を掘り開けた。光源を設置して、敵が出てこないようにすると俺はチェストの設置をした。
「だいぶ様になってきたかな……と」
アスナさんが寝てしまっているので完全な独り言でしかないのだが、見せたくても寝ている人を無理に起こして見せるというのも気が引ける。
もしここで俺も寝落ちしてしまったらどうなるのだろうかと一瞬頭の中をそんな考えがよぎるが、すぐにそうならないために起き続けるのだと改めて自分に鞭打った。
「ふぅ……起きないと、起きないと」
頬を抓りながら俺はまた画面に向き直る。
コントローラーのスティックとボタンを慣れた手つきで一切見ることなく操作していると、不意に肩に重力が乗っかった。
内心焦りながら、でも慎重に首を動かして俺は自分の肩に乗っかったものを見た。
すぐ目の前には象徴的な猫耳のフード。そして、その隙間からは水のように流れ出る銀髪の髪の毛だ。この角度からは綺麗に通った鼻筋と、長いまつ毛も見える。
「アスナ……さぁん。起きてください……」
この状況下は正直言ってあまりよろしくない。いい匂いがずっと隣から漂ってくるし、頭が乗っているせいか、アスナさんの体も俺の腕に当たるし。……本当に免疫が少ないからやばい。
ただ、免疫が少ないからといって俺の思い通りにアスナさんが起きてくれるとは限らないのだ。何なら先程よりも深い眠りについているような気がする。
肩に乗る重さは先程よりも増している。頭以外にも体の分が増えているせいだろう。
「集中……できない」
一旦俺もコントローラーを置くとアスナさんの体を起こさないように動かした。正確には動かしたかった。
「え、ちょっ!?」
「んん〜」
俺の事を抱き枕か何かだと勘違いしているのだろう。動かそうとすればするほど、アスナさんは俺に腕を回して強く抱き締めてきた。ここまで強く抱き締められると解こうにも解けない。むしろ解いてしまうと逆に起こしてしまう気がする。
「どこにも……行くな」
寝言でアスナさんはそう言いながら俺の方に最終的には倒れ込んで寝始めた。
俺の膝の上では可愛らしく幼い寝顔を見せる。
「……可愛いって」
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