第140話
第140話です。
「え、えっと……俺は一体どうしたら」
既に玄関で靴を脱いでいる段階で引き返せないところにまで来てしまっているのだが、実際ここまで来たら来たで本当に何をすればいいのか分からない。
「とにかくリビングに来い」
廊下を奥まで行ったところにある扉の付近でアスナさんは手招きしながら俺を呼ぶ。
ゆっくり産まれたての子鹿の様な足さばきで一歩ずつアスナさんの元に近付いた。
「ほ、本当に俺はここにいても良いのでしょうか……」
「いいに決まってるでしょ。私が誘ったんだし」
「それは……そうなんだけど」
確かに誘われたのは俺だ。俺なのだけど、女子から誘われたからといって、一切緊張せずにいられるわけではない。というか、女子の家が普通に初体験なのだ。もう脳内が訳分からないぐらいパニックになっている。
「ひとまず座れば」
「あ、はい」
「飲み物は何がいい?」
「おまかせでお願いします……」
「じゃあハイボールで」
「何でっ!?」
「うそうそ。ただのコーラにしとくよ」
冷蔵庫をパタっと開き、中からコーラのペットボトルを取り出すと、ポトポトとコップに注ぎ始める。
それなりに入ったコップをアスナさんは両手に一つずつ持つと俺の隣に座る。そして片方を俺に渡してくれたので俺はゴクリと一気に飲んだ。
シュワリと弾ける炭酸が喉で踊る。
爽やかな甘みが脳を落ち着かせ、溶かせ、冷静にしていった。
「ふぅ……」
「おいし」
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