第13話
第13話です。
後輩くんに私の作った曲を聴きたいと言われてから、私はメモ帳とシャーペンを持ち歩くようになっていた。曲の歌詞を書き込むためだ。
歌詞などというものはいつ思い付くか分からないし、何より何がきっかけになるのかも分からない。
だから、今こうして降ってきた歌詞を必死にメモしているのだ。
「うーん……いいと思ったんだけど、いざ書き起すと何とも言えないねぇ」
1人でぶつぶつと呟きながら、私は校舎一階にある自販機へと向かった。
財布を取り出して小銭を少し取り出すと、適当に投入口に入れる。そして、微糖の缶コーヒーのボタンを押し、落ちてきたコーヒーを下から取ると私は近くのベンチに座った。
時は放課後で、空は茜色に染まり始めている。
少し離れたところから聞こえる野球部の掛け声に、中庭の端にある大きなガラス張りの食堂前では、ダンス部が反射する姿を見ながら踊りを練習していた。
「青春……部活」
気づけばそんな事を口にしていた。
今まで私とは無縁だった事。部活なんて入っても続けられる気がしなかったし、何よりも誰かと仲良くできる気がしなかった。
後輩くんは年下という点において、一応ちゃんとわきまえているところがある。だけど、同級生等になってくるとそうもいかない。
もし、必要以上に私について何かを聞かれたら?踏み込まれようとしたら?多分、その場でなくとも、家に帰って布団に潜ったら発狂するくらいにストレスを感じると思う。
だから、みんなが想像するような青春というものを享受することは無かった。いや、到底できるような性格ではなかったのだ。唯一と言ってもいいのは、屋上でサボっていたことくらいだろう。だけど、そんなものも他人から見たらただのサボりでしかなくて。
だから、私には到底見れない景色だったのだ。
だけど今こうして私の口からは『青春』という経験した事の無い、夢物語の単語が出てきたのだ。
「私は、私にとっての憧れを……歌いたいの?」
◆◇◆◇
先輩が屋上に来る回数が減った。
いや、先輩だけでなく俺自身も減ってはいるのだが、間違いなく先輩よりかは訪れるようにしている。
「碧染くんどうしたの?」
「いや、何でもない」
隣を歩くのは、今は少し離れた席の利根里さん。
カールの巻いた明るい茶髪のボブは少し揺れている。
「そう?ならいいんだけどさっ」
片足で少し離れたところにジャンプすると、利根里さんはピシッと体操選手の様なポーズを取った。
相変わらず何をしても可愛く見えるのだから、利根里さんはずるい。そりゃ色んな人に告白もされる。なにせ容姿だけにととまらず、性格まで良いと来たのだ。もはや非の打ち所がない。
「そうだ、この後ちょっとカフェにでも行かない?」
「え?カフェ?それまたどうして」
「いや、一緒に行きたいからだよ」
至極当然のようにそう言われてしまうと「はぁ」と頷くことしか出来ない。
拒否権も何も俺には無いようです。
しばらく歩き着いた少し小高い位置にあるカフェ。
海辺の近くにあるカフェなので、テラス席に座れば綺麗な夕日と海が見える。
「じゃあ、私はコーヒーとパフェで。碧染くんは?」
「俺はコーヒーだけでお願いします」
一通りの注文を終えると、ふと前を見た。大きな瞳と目が合う。
「どうしたの」
そう尋ねると目の前に座っている利根里さんは「んー、別に〜」と言って、はぐらかすように夕日の写真を撮り始めた。「お、綺麗に撮れた」と喜びながら言うその姿は少し子供っぽい。
「ご注文の品のコーヒーとパフェです。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」
しばらくの間写真を撮り続けている利根里さんを見ていると、店員さんがそう言ってコトリとコーヒー達をテーブルの上に置いた。
「美味しそう〜」
あからさまに顔を明るくしながら利根里さんはスプーンを手に持ち、プスリとパフェに刺した。そのまま上に持ち上げて口に入る分だけを掬うと、パクリと食べてしまう。
「ん〜、美味しぃ」
とろけるような笑顔を顔に湛えながらそう言う。
「それは良かった」
そう言いながら俺はコーヒーに砂糖とミルクを入れると、少しかき混ぜた後にズズりと一口口に含んだ。
苦味と甘さが口に広がり、絶妙なバランスでマッチする。
「甘いものの後には、少し苦めのコーヒが一番♪」
そう言いながら俺とは対照的に、何も入れていない黒いコーヒーを飲んだ。
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