第138話
第138話です。
「もう帰るのか?」
隣を歩きながらアスナさんはそう尋ねてくる。
「そうするつもり。あんまり遅くまでいられないからさ」
「ふーん、そっか」
こちらを見るでもなくただ真っ直ぐ前だけを見てアスナさんは歩みを進めた。
そこから会話は次第に少なっていく。
別に会話が嫌になったわけではない。むしろ言葉はもっと交わし続けたいくらいだ。けれど、このまま話し続けるとここを離れるのが惜しくなってしまうから、だから俺は言葉を発さない。
俺より半歩前を歩くアスナさんの髪の毛が左右にゆらゆらと揺れる。銀色が陽の光を反射して眩しい。
「なぁ、京弥」
唐突にアスナさんは声を発する。ほんの少しだけ俺の方を見ながら。
「私の家、来ないか?」
ほんの数秒の空白。たったそれだけだったが、俺にはそれがあまりにも長く感じられてしまった。その1秒が、2秒がとても。
「ゑ……?」
「古文になってるぞ」
「おっと失礼。改めまして、え……?」
今家に来るかと誘われたのか?この俺が?女子の家に?
頭の中では女子、家、いい匂い、緊張、ご両親に挨拶という単語がぐるぐると回っている。
ご両親に挨拶は少し違うな。
とにかくだ、今の俺の顔は間違いなく真っ赤だ。
「な、何でまた急に?」
「ん、私の家だったら明日の朝ゆっくり帰れるだろ?」
「え、朝?」
「うん、私の家に泊まっていけばいいだろ?」
「正気?」
「私は正気だ」
「で、でもご両親にも迷惑がかかるんじゃ……」
そうだ。そうなのだ。俺達だけの都合で泊まることなど絶対に出来ないのだ。その事に気が付けばアスナさんも踏みとどまってくれるはず……だと思っていたんです。甘かった……。
「それは大丈夫。私、一人暮らしだから」
「何でぇ……」
「親が独り立ちは早い方がいいってことで一人暮らしさせられてる」
「あ、そういうこと……」
一人暮らしなんて一番予想外なところを持ってこないで欲しかった。
「よしっ、今日の私は自由解散らしいし、今から行くぞ」
「えっ?」
「いざゆかん、我が家へ!」
珍しくテンション高めのアスナさんに連られながら俺達は学校を出た。
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