第137話
第137話です。
日も段々と傾き始めて、一日目の文化祭も終盤に差し掛かった。初日のラストスパートというのか、売上を少しでも伸ばそうと、生徒達は朝や昼頃に比べさらに熱気だっている。
ただ、俺やアスナさんはそんな事はほとんど関係無く、自分達の進みたいように文化祭を楽しんでいた。
「京弥は晩ご飯はどうするんだ?」
「電車もあんまり多くないから、早めに帰って向こうで食べるかな」
「ん、そうか」
その回答に喜ぶでも悲しむでもなく、ただ単に淡々としたやり取りを続けるだけ。
まぁ、それがアスナさんとの会話の基本なので特に何がどうとかはない。
コツコツとローファーが廊下の床を蹴る音と、パタパタとスニーカーが床を蹴る音だけを聞きながら俺達は最後にどこのクラスの出し物に行くでもなく、年中無休の自販機にあえて向かった。
校内の数ヶ所に設置されているうちの一部。基本的にはあまり人のいない隅のところに俺達はいた。
当然文化祭のように人が大きく動き回るイベントの最中でも、人があまりいないのは変わらない。
それぞれ自分の飲みたいものを買うと、近くの階段に腰掛けた。
アスナさんは炭酸飲料を買ったらしく、キャップを捻るとプシュッといい音を鳴らしながら炭酸の気がほんの少し抜けた。辺りには甘いぶどうの香りが広がる。俺もそんなアスナさんを追いかけるようにキャップを捻った。買ったのはコーヒー飲料。比較的マイルドで非常に飲みやすく人気の高い商品だ。
こくりと頷き口に一口含みながら俺は喉を動かしてそれを飲むと、ほんのりと広がる苦味と甘さに舌鼓を打つ。
「美味しい」
「安定してるよな」
「まぁ、企業努力というものでしょう」
「私は炭酸系はなんでも好きだけど、やっぱりこれは飲むと少しテンションが上がる」
「好きなものでテンションが上がるのはよくわかるよ」
なんて話をしながら俺達は、この高校のホームページに上がっている文化祭の動画を見ていた。生徒会が頑張って映像を撮っていたらしく、有志による出し物等の映像は切り抜きだけでなく、簡単な編集も既にされていた。
当然画面にはアスナさんを含めた俺のよく知る3人が立っている。
一曲目にはみんながよく知る有名な曲を弾き、二曲目にはついに先輩の努力の塊とでも言うべき最初の曲が流れ始めた。
『START Again!!!』と先輩が強く叫んだ後に、メグさんによるドラムで曲は始まる。基本的にハイテンポかつ、高音なこの曲。実際に歌うとなればかなり高難度なもので、其れを楽器も弾きながらやるとなれば難易度は相当なものだ。ただ、先輩はその様子を微塵も感じさせない。むしろ観客の俺達に『ちゃんと、ついてきてる?』と心配するような素振りまで見せる余裕っぷりだ。
改めてこの人にはセンスというか、才能というのか、とにかくそちらに秀でたものを感じるのだった。
「やっぱりあの人、化け物だよ」
ふとアスナさんがそう声を漏らす。俺は無言でそれを聞き流すと、アスナさんは特に何かを求めるでもなく言葉を続けた。
「START Again!!!の曲自体を作り始めたのは当然私も知ってはいた。ただ作り始めたのは私達がバンドを組む前かららしくて、当然その時にはドラムのこともベースのことも頭にはなかったみたい。だけどいざ完成させてみたらあのクオリティだ。あの人はあとから何でも組み込めるチートに近いような要素を隠し持ってる」
そう言った後に「ふふっ」と笑うと「私はあの人に見つけてもらえて本当にラッキーだった」とこぼした。
「あの人に見つけてもらった」……か。
確かにそれは俺にも言えることなのかもしれない。
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