第12話
第12話です。
進路選択。それは将来通う大学を選択し、将来の職にも影響が出てくる、高校生活の中でも一大イベントの一つだ。
多くの人はこのイベントを楽しみだと思うことは無い。特に2年生になってくると、いよいよ来年の受験も視野に入れなければならず、余計に慎重によく考えなければならない。
だから、私の選択は両親や担任には到底納得して貰えるものではなかったのだ。
「分かったよ!もういい!」
勢いよく教室の扉を開くと私は廊下に出た。廊下に出てすぐの所には、次に控えている三者面談の親子がいる。がっつりと目が合ったが私は気にせずに駆け出した。
誰もいない所。1人に……1人に今はなりたいからっ。
駆けて駆けて駆け抜けて、気付かぬうちに私は重い重い金属の扉の前に立っていた。
一学期の頃から来ていたからか、癖でここに辿り着いていたらしい。
「癖って……怖いなぁ」
ノブに手をかけると私はギィっと音を立てながら扉を開けた。二学期も後半に差し掛かっていて、風が吹けば潮の香りと冷たい空気が運ばれてくる。
少し身震いをしながら私はブレザーを一度羽織り直した。
「おやおや、珍しい。お客さんですか?」
最近ではもう聞き慣れてしまった声。今は初めて出会った時と立ち位置が逆転している。
「私はお客さんじゃないよ、後輩くん」
「分かってますよ。冗談です先輩」
私は「ふふ」と笑いながらベンチに腰かけた。「はぁ」と溜息をつきながら、私は後輩くんの方を見る。
「ねぇ、何があったのか聞いてくれないの?」
「聞いて欲しいんですか?」
「そりゃあ、女の子ですもん。男の子には心配してもらいたいものよ?」
「そういうもんですか。じゃあ、何があったんですか?」
ほとんど私が誘導したようなものだが、そこは気にせずに話し始める。
「進路選択でね、親と喧嘩した」
「そりゃまたどうして?」
「音楽でやっていきたいって言ったら、無理に決まってるって言われたの」
「あー、音楽ですか」
少し驚いたような声で後輩くんはそう言う。
「音楽……先輩は何でまた音楽を?」
「んー、カッコイイからっていうのと」
「それと?」
「……私の作った曲で人の心を動かしたかったから……かな」
「なるほど」
後輩くんはそう返してきてからしばらく黙り込んだ。後輩くんも無理だと思っているのだろうか。確かに、かなり無謀には近いと思う。正直に言って音楽という世界で生き残るには実力はもちろんなのだが、半分近くは運なのだろう。
運が無いとそもそも曲を出せる環境に身を置けるかすら怪しいし。
そう思案していると、後輩くんはカタンカタンと金属のハシゴを下りてきた。
「俺は、先輩の曲聴きたいですよ」
「え?」
「だから、先輩の作った曲を聴きたいって言ったんです」
言葉はもう出ない。
ただ、後輩くんにこう言われたのだ。
先輩がやらないと後輩くんに示しがつかないだろう。
(私の曲で泣かせてやる!)
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