第126話
第126話です。
「い、一等……です」
景品の手渡し等を行っていたスタッフの生徒が、カランカランとベルを力無く振り鳴らした。
周囲はざわめきから歓声が上がり一時騒然としていた。
「取れたね」
「まぁ、取れるかもって算段が既に頭の中にあったわけだしね。それにお互い百発百中だし」
「なら取れるのがむしろ普通か」
「だね」
アスナさんと小さくそんなやり取りを交わしながら俺達は一等の景品を貰う。
「にしても、本当にこんなの京弥が持ってても使い道無くない?荷物にしかならないでしょ」
「まぁ、そうかもしれないけどどうしても欲しくてさ」
「飾るの?」
「ううん、プレゼントにと思って」
「誰に、って聞くまでもないか。カオリさんでしょ」
アスナさんはそう言いながら腕を組む。
「三分の一は正解かな」
「三分の一?」
「そ。あとの残りはさ、先輩以外の2人だよ」
そう言って俺は目の前に立つアスナさんのことを見た。
急に見つめられたことに驚いたのだろうか、ぴくりと体を跳ねさせながら「まさか私なの?」と信じられないように言う。
「そうだよ。あと1人はもちろんメグさん」
「……私達のバンドメンバー全員か」
「うん。なんかさ、初めにこれを見た時に3人に似てるなって思って。だからいっそのこと手に入れてプレゼントしちゃえばいいかって思ってね」
「……安直だな」
「あはは、耳が痛い」
笑いながら俺達は紙袋に入れられた景品をもう一度覗いて見た。
「どこら辺が似てたの、全部大きさとかも違うけど」
「うーん、一つは体の大きさ」
「ふーん?」
「あ、あとは表情かな」
「表情?」
そう言ってアスナさんはもう一度景品の猫達を見ようとした。
「朗らかなな表情をしてる猫と、ツンケンしたような猫。あとは少しおどおどしたような表情の猫。何だかそれが3人に見えてね」
「なるほどねぇ。というかツンケンってまさか私の事じゃないよね」
「……ま、まっさかー」
びっくりするくらいに雑な棒読みをしてしまったせいでギロりとアスナさんに睨まれる。
目付きが鋭い分背筋が凍りそうな程に怖い。
「……はぁ、否定はしないけどさ。確かに私はツンケンしてるし、カオリさんは朗らかして包容力あるし、メグさんはオドオドしてるからさ。だけどもう少しオブラートに包めよ。一応私も女の子だぞ」
「は、はい……」
そこに関しては激しく反省しつつ俺達は次の教室に向かった。
と言っても隣はただの空き教室。いわゆる休憩スペースとして開かれている場所だ。机と椅子があってそこでご飯を食べることも出来るし、壁にはマップと美術部と写真部の作品も飾られているので決して暇にはならない空間だ。
文化祭自体が始まってまもないせいか、まだ中には誰もおらず完全に2人の貸切となった。
紙袋を開けながら俺は一番小さい黒猫のぬいぐるみをアスナさんに手渡す。
「はい、これ」
「ん、さんきゅ。半分は私のおかげだけどね」
「それはものすごく助かりました」
「それでいい」
満足気に笑いながらアスナさんはぬいぐるみを両手に持ってじぃっと見つめた。
「……まぁ、確かに私に似てないこともない……かな」
「そっか」
「うん。まぁ、その……正確には分からないけど、気に入ったよ」
「うん。それなら嬉しい」
最後にぬいぐるみの頭を優しく撫でると背負っていリュックに大事そうにしまった。
こんなに気に入ってくれるのならこの子も本望だろう。
そう思いながら俺は静かに1人笑う。
「あ、そうだ……私達だけが貰うのもなんか嫌だし、京弥にもまた何かあげるよ」
「いや別に俺は……」
「じゃあ預け物をするから一生保管しといてくれ」
「あ、はい」
どうやら俺には拒否権というものが無くなっていたらしい。
また笑うと俺達は立ち上がり、次の目的地へと向かい歩みを進め始めた。
ぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!次回は6日です。