第118話
第118話です。
流れる景色を眺めながら私は曲の構想を練り始めていた。
正確にはぼんやりとした輪郭だけ。
私には作曲をするほどの技術がまだない。いずれは出来たらいいとは思うのだが、あくまで出来ても鼻歌での簡易作曲までだ。
作るとしたらどんな物語を詞で紡ごう。
私の思い出を?
見た事のある景色を?
私の気持ちを?
想像すればするほど完成したあとの達成感を味わうのが楽しみになってくる。
海の景色にベンチに座った記憶。東京の街並みに夜電話して話したこと。初詣に食べたアイスの味。
どれもこれも歌詞にして音に載せるには申し分のない物語だ。
「うーん、あとは曲の作り方だよなぁ。パソコンでやった方が楽なのかな」
たまにSNSを眺めていたらコンピュータで楽曲作成している動画を見ることがあるので間違いではないと思うのだが、おそらくあれはソロで活動する人の場合なのだ。
それに対して私には既にメンバーがいる。ドラムやベースはあの2人にも色々と意見を聞くのが普通だろうし、勝手に作るというのも如何なものかと思うのだ。
となるとだ。私に出来るのは歌詞作りと、鼻歌で作った主旋律のみということにならないだろうか?
ふむ、そうなると私はその主旋律のレベルを上げないといけないわけだ。
「ハードル高っ……」
思わず頬を引き攣りそうになるが、あのバンドを引っ張って行くのは私だ。私がこの程度で挫けてはいられない。
それに後輩くんにはかっこいい私を見てもらいたい。そりゃ女の子として可愛い面も見てもらいたいけど、だけどそれよりも先にかっこいいところだ。そうしたら今よりももっと敬ってくれるだろう。ふふふ……。
悪い魂胆を持ったデビルカオリがチラリと顔を見せながらにししと笑うので、それを押しのけながら私は寝ている後輩くんの方に意識を向ける。
「よく寝てる……」
柔らかい寝息はこちらまで落ち着かせてくれた。
「応援しててよね……」
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