第111話
第111話です。
ギターソロのイントロから始まり、その後に合わせてくるようにドラムのビートが刻まれていく。
自分の鼓動と一体化するようなビート。私はそんなメグさんのビートに惹かれたのだ。
ちらりと斜め後ろに目を見やってメグさんの様子を見てみると、先程までの少しオドオドと自信の無さげだった表情から今ではクールでどこか生き生きとした表情に変わっていた。
かっこいい。
そんな感情を彼女に抱きながら私は曲の詞を口にしていく。
◆◇◆◇
曲が終わり私達は少し汗をかいた額を拭いながら後輩くんの元に寄った。
「どうだった?」
「いや、先輩達本当に今日初対面ですか?もっとグダグダするものだと思ってたんですけど、想像以上に合うもんだからかなりびっくりしてます」
「た、多分それはお互いの演奏をTwitterで先に見てるからだと思います」
「いや、にしてもですよ」
本当にすごいと思ってくれたようで後輩くんはずっと息を漏らしながら感心していた。
「実際そいつの言う通りあんたらの技術自体は申し分ないな。正直言って想像以上だった」
「お、褒められた」
「良かったですね」
私とメグさんはお互いの顔を見合って笑い合いながら喜ぶとオーナーがそこでまた口を挟んでくる。
「ただやっぱりリズムとメロディだけじゃ音楽ってのはどうしても味気ないな。これならメロディだけの方が正直マシだ」
「そ、それは確かに叩いてて私も……そう思います」
「ち、ちょっとオーナーさん!なんでそんな酷いことをいきなり!」
「事実だからだ」
「だからって……」
「まぁ、そう露骨に落ち込むな。俺が話してる前提はメロディとリズムだけじゃ味気ないってことだ」
「それがどうなんですか?」
「あんたらは味の薄い料理はどうやって満足できるものに変える?」
そう質問されて私は少し考えた後応えた。
「調味料をかけるか何かを足すか?」
「そうだ。足すんだよ」
「え?」
「見てた感じあんたら別にツーピースのバンドを組むわけじゃないんだろ?それなら穴の空いた所にベースでも弾けるやつを突っ込んでみろ。格段に土台がしっかりするぞ」
「あぁ、ベースか……」
バンドにおいてドラムと同じく重要な役割を担う楽器。メロディを引かない分素人目には地味に見えるかもしれないが、かなりかっこいいポジションだ。
そして私達にはそのベースが足りないとオーナーは言った。
「つまり、ベースを探せってことですか?」
「簡単に言ってしまえばそういうことになるな」
「で、でもそんな簡単に見つかるものでもないでしょ……」
少しため息をつきながらそう呟くとオーナーは面白そうに笑いながら話を続けた。
「世の中って不思議なもんでなぁ、今このライブハウスでバイトしてる奴の中にベースが弾けて入れるバンドを探してるちょうど都合のいいやつがいるんだよ」
「えぇ!?何でそれを先に言わないの!?」
「まぁ、それはいいじゃねぇか。それよりも実際そういう奴がいる。つまりだこれはスカウトチャンスってわけだ」
「あ、あぁ、確かに」
「売れるバンドマンはなチャンスを掴み取る力も凄いんだよ。当然こんな形のチャンスもな?」
オーナーはそこで一度言葉を区切ると再度私たちを見すえる。そして深く息を吸いこう言い放った。
「あんたらは、どうする?」
ぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!次回は6日です。