第110話
第110話です。
コンクリート製の階段を降りながら見えてきた扉に手をかける。防音性らしく分厚く重い扉だ。
中に入るとまずは受付があり、奥の方を見てみればスピーカーや機材の設置されたステージが見えた。
まだ誰も活動していないらしく人の気配も無い。
「これって、今更だけど勝手に入って良かったやつ?」
「どうなんでしょう。でも鍵は空いてましたし。メグさん分かりますか?」
「ば、場所にもよると思いますけど、お昼からバンドが演奏してる場所も沢山あるので多分入るの自体は大丈夫だと思います。ただ何もすることは無いよってだけで」
「なるほど」
つまりはここの雰囲気を楽しむしかすることが本当に無いわけだ。ふむ、となると時間の無駄にもなりかねないがどうしよう。
そう3人でどうしようかと悩んでいるとステージの端にある扉ががちゃりと開いた。驚いた3人はバッとそちらの方に視線を移す。
「何か物音するなと思ったら客か」
「あ、す、すみません、バンドが演奏してないって知らなくって」
後輩くんが代表して出てきたオーナーらしき男の人にそう言うと男性は「あぁ、そう」と言って近くの機材を触りだした。
「今日は夜からだからな。そりゃバンドの奴らもいないよ。まぁ、夕方になりゃリハのために来るだろうけどそれまでは特に何も無い」
「ですよね」
「何だい、あんたらはバンドの演奏見に来たのか?」
「いや、と言うよりもこの2人がバンドを組むって話になってて、それでライブハウスとかにも今のうちに慣れとこうって」
「あぁ、そういう事」
頷きながらオーナーは私達の事をまじまじと見る。
「あんたら、時間はあるのか?」
「え?」
「だから時間だよ、時間」
「あ、ありますけど……」
「よしっ、じゃああんたらの楽器を教えてくれ」
「楽器?私がギターで、メグさんがドラムです」
「そいつは?」
「俺はただの付き添いです」
「あぁ……そうなのか。ま、いい。ちょっと待ってろ」
なぜ楽器を聞かれたのかは分からない。ただオーナーは私達のことを置いてまた裏に戻ってしまった。
呆然と立ちつくしながらオーナーが帰ってくるのを待っていると扉が開く。帰ってきたオーナーの手に持たれていたのはギターだった。
「あんたがエレキなのかアコースティックなのかは知らんが、基本は同じだ。ほら、これ使ってみろ」
そう言って渡されたのは私が使うアコースティックギターとは違うエレキギター。
「つ、使うって?」
突然渡されたのでどういう意図のものか分からずそう聞くと、オーナーはさらにステージの方を指さしながら話し始めた。
「あそこにドラムもある。あんたら、ギターとドラムなんだろ?今日はどうせ夕方まで誰も来ないし、少しくらいならライブハウス慣れも出来るだろうよ」
「いいんですか?」
「おう、音響のテストも兼ねてついでにやる」
「な、ならお言葉に甘えさせていただいて。メグさん行こっ」
私は未だ少しオロオロとしているメグさんの手を引きながらステージの上に立った。
こうして本物のステージの上に立ったのは初めてだが、上から見ると意外に広く見える。後輩くんも後ろの壁にもたれながら私たちのことを見ていた。
「じゃあ何弾く?私たち合わせたことってまだないけど」
「そ、そうですね……あ、そうだ。あの曲はどうですか?」
「あの曲?」
「カオリさんがTwitterに弾き語りで上げてた曲ですよ!弾き語り調にしてたからだいぶ穏やかな感じになってましたけど、あれって元々ロックですからいけます!」
「わ、私はいいけど、メグさん叩ける?」
「一応その弾き語りを見た後に練習はしてるので大丈夫です」
「じゃあそれでやってみようか」
こうして初めてメグさんの生演奏と同時に初の合わせアンド初ステージという三つの初を体験することになったのだ。
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