第10話
第10話です。
「俺はだね……その、利根里さんが……一番可愛いと思いま……す」
『えっへへ〜、私かぁ。嬉しいね、何かはっきりこう言われるのって』
「そりゃよかった。俺のメンタルライフは残り僅かだけどね」
『んふふ〜、私のメンタルライフは全快だよ!』
カラカラと笑いながら利根里さんは同時に『あっ』と言う声が聞こえてくる。そして、それと同時に俺のスマホの画面が微妙に変わった気がする。
「ん?」
『あ』
画面越しに目が合った。ぱっちり二重の利根里さんの顔。ノーメイクとは思えないほどに整っている。
『あ、あわわ、わわわわ!』
「と、利根里さん?」
『えいっ!』
俺が声をかけると同時にスマホの画面は先程の状態に戻った。どうやら利根里さんがビデオ通話状態を解除したようだ。
『み、見なかった事にしてくれないかな?』
「嫌だよ?めちゃくちゃ記憶に刻んでおくよ?」
『えぇ〜!?恥ずかしいじゃん!部屋も入り込んでたし、着古した部屋着だし!それに、ぬいぐるみを抱いてたの見られちゃったし……』
「ぬいぐるみ?」
どうやら利根里さんはぬいぐるみを抱いてたらしいが、カメラの死角になっていたのでそこまで俺には見えなかった。
『うん、昔お父さんに買ってもらったクマのぬいぐるみ』
「へぇ」
『もふもふでね、可愛いんだよ?この子さえいれば1人でも寂しくないしね』
「利根里さんってもしかして1人苦手?」
『……わ、悪い?』
少し恥じらうような声でそう返される。
「いや、悪くはないよ?むしろ可愛い」
『ち、ちょっと!?さっきクラスで誰が可愛いかを言う時はあんなに恥じらってたのに、何でここではそんなにサラッと言えるのさ!』
「サラッと?ふふふ、結構今恥ずかしいんだけど」
『まさかの自爆!?』
電話の会話とは思えないほどの声量で喋りながら、俺達は気づけば深夜帯に入ろうとしていた。
「もうそろそろ寝ようかな」
『うん、明日も学校だしね』
そう言ってから俺達は明日ある授業だけ確認すると、俺達は電話を切った。
◆◇◆◇
「後輩くーん」
「何ですか?」
「お腹、空いたよぉ」
キュルキュルと少しお腹を鳴らしながら、先輩は俺に近づいてきた。可愛らしく「何か食べ物ない?」と下から目線で聞かれる。
「いや、何もないですけど」
「本当に?ポケットの中にはビスケットが一つじゃないの?」
「いや、スマホが一つだけですけど」
「ぶー。しょうがない、今日は早退してご飯でも食べに行こうかな」
「ダメですよ?」
そう言って先輩の行動を制限すると、俺は先輩の手を引く。
「おおっと?どうしたんだい、急に積極的になって」
「いや、食堂にでも行こうかと思いまして」
「ほう」
「そこならおにぎりでもパンでもお菓子でも、何でも売ってますから小腹を満たすことくらい造作ないですよ」
「なるほどね」
納得したように頷くと先輩は俺の横に立った。学校内で先輩と一緒に歩くのは何気に初めてかもしれない。少し周りからの視線は気になるが、大半の生徒は気にしていないようだ。
「何食べよっかな……」
隣ではブツブツと先輩が呟いており、どうやら全く人の視線は気になっていないらしい。というか、気づいてすらいないのかもしれない。
人の食に対する執着心はすごいなと思いながら、俺は見えてきた食堂の扉を開いた。
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