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特別な魔法


「おやおや、思いの外早かったじゃないか。メルタくん」


 家具たち全員を無事手懐けてから、しばらく雑談に興じていると、ガチャと鍵の開く音がしたので部屋の外へ出てみた。

 そうしたらすぐ下を見るとだらしなく寝そべりながら読書中のヘルーテがいた。



「……ここ、廊下ですよ?」

「うん、そうだねぇ」

「お腹冷えますよ」

「そうだねぇ」

「じゃあ、いつもの部屋にいきましょうよ」

「そうだねぇ」

 と、言いながら一ミリも動く気配がない



「テーブルくん。この人ど突いてくれる?」

 メルタが部屋に向かって話しかけると、凄まじいスピードでテーブルが部屋の中からヘルーテの油断しきっている横っ腹へ突進していった。

「ぐふぅ……!!」



 テーブルに突進されたダメージで涙目になりながらお腹を抱えて呻く。


「痛いじゃないかぁ!よくも生みの親である私に力一杯突進したね?!ヘルーテさん、驚きだよ!え、何?メルタくんのほうが優しくて好きだって?君だって散々意地悪していたらしいじゃないか。虫が良すぎるだろう?」

 ぎゃいぎゃいとヘルーテが騒ぐ。テーブルもヘルーテに文句があるかのように体を軋ませてどんどんとジャンプする。


「ヘルーテさんって、この子たちと喋れるんですか?」

 大きな声と物音でテーブルと喧嘩している魔術師に質問を投げかける。


「喋れる。ってその前によくもこの子に突進させてくれたね?仲良くなったのは喜ばしいけれど、酷いじゃないか」

「すみません。なんか仕返ししたくて」

「いっそ清々しいね」

 ぷくぅと頬を膨らませながら立ち上がり、ヘルーテの作業部屋に移動する。




「家具のみんなとは仲良くなったのだよね?どうだったかな?」

 作業部屋のソファーでくつろぎながら、メルタに家具たちの様子を聞くことにした。


「はい。みんな良い子っていうのは分かったんですけれど触っていないと意思疎通は出来ません。あと、絨毯くんはお散歩したいみたいなので家の周りお散歩させても良いですか?」

「おお……そこまで打ち解けたのだね。お散歩は良いけれど、一日三十分が限度だよ」

「何でですか?」

「あんまり外に出ると君がここにいることがバレてしまうからね。それは出来るだけ避けたいのさ」

「なるほど…………後で言い聞かせておきます」

「ありがとね。他の子の様子も聞いて良い?」


「棚くんは絶対働かないという強い意志を持ってるみたいです。作り主に似たんだと思います」

「あれ?遠回しにディスられてる?」


「あ、僕、ずっとベッドくんに落とされていたと思っていたんですけれど、実は寝ている時に掛け布団ちゃんを蹴っちゃったらしくてそれで掛け布団ちゃんに落とされてました」

「あれれ?しかもスルーされてる」


「テーブルくんはお聞きした通りだと思うんですけれど、ちょっと意地悪でとっても優しい子です。タンスくんと仲良しみたいで連携攻撃が上手なんですよ!」

「うん。自分が殺されかけた連携攻撃を褒めるところが素敵だよね」

「ありがとうございます!」


 そして皮肉が通じないところが天然なんだよなぁ、メルタくん、と喉元まで出かけたが、そこはぐっと我慢した。





「そういえばヘルーテさん」

「なんだい、メルタくん」

「僕、今まで物に命を吹き込む魔法なんて聞いたことがなかったんですけれど、魔術師特有の魔法なんですか?」

「ちょっと違うかな。でも知らないのは無理ないだろうねぇ。その魔法を使えるのは私だけだから」

「そうなんですか?!」

「うん。魔術師にはね、ひとつだけ特別な魔法を持っているのさ。私の場合、物に命を吹き込む魔法、『アニマメイク』私の他の魔術師も持っているよ」

 ヘルーテはにっこりと笑うがメルタは顔面蒼白だった。


「…………僕、そんな魔法持っていないですよ?!魔術師になれないです!」

「だいじょーぶだいじょーぶ。そんなのおまけみたいなもんだからさ」

「本当ですかぁ?」

「私が君に嘘をつくわけないじゃないか」

「それは僕に一度も嘘を吐いたことがない人だけが言える台詞です」

 越してきてから一週間しか経っていないが、もう既にこのクズな魔術師は意味なく嘘を重ねている。そして実害を被ったりする。重要なことなのでもう一度言うが、意味なく嘘を重ねている。そして実害を被ったりする。


「本当の本当に大丈夫なんですよね?!」

「本当の本当に大丈夫だよ。とっておきがあるからさ」


 非常ににこやかで人好きのする笑顔だが、あまりの頼りなさというか、いい加減さに、ここへ弟子入りしたことを今更ながら後悔するのだった。

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