少年とゆかいな仲間たち 其の二
手懐ける最初の相手は絨毯に決めた。
なぜなら一番危険性が低く、普段も宙に浮かんでいるだけなのだ。
あれ、家具ってどう手なづけるんだ……?
動物はまだ分かる。餌をやるとか、一緒に遊ぶとか、ブラッシングなども良いかもしれない。
……家具に餌なんてないだろう!一緒にどうやって遊ぶんだ!コミニュケーションを取れるかさえ怪しいのに!
意気込んだはいいものの、初歩中の初歩でつまづいてる気がする。
いや、でも、きっと恐らく、意思疎通くらいは出来るはず!感情ぽいのは感じ取れるし!
「じゅ、絨毯くん……?」
できるだけ優しく声を掛ける。くん付けで良いのか?しかし、話しかけないことには始まらない。
反応がない。まるでただの家具のようだ。
「…………なんで?!いっつも浮いてんじゃん!なんなら部屋中を飛び回ってんじゃん!」
越してきてから一週間のストレスも相まって思いっきりキレた。
「もう!やだ!家具は動き回るし、ヘルーテさんはクズだし!やっぱりみんな僕のこと嫌いなんだ!じゃなきゃ殺されかけないし!家族にだって嫌われてたし、家具たちにだって……もうやだぁ!」
うるうると目に涙を浮かべ、力が抜けてように床へとへたり込む。
目に浮かぶ涙を見て動揺したのか、絨毯が浮上した。
「何さ。君だって僕のこと嫌いなんだろう?構わなくていいよ。大体にしていきなり来た僕が悪いんだからね。君だって好きに浮いていたいだけなんだもんね。それなら浮かんでいたら良いよ。他の君たちもそうなんだろう?僕のこと気に食わないんでしょう?ごめんね。そりゃあ、ベッドくんにしてみれば何が悲しくて僕を寝かせてあげなくちゃいけないんだって話だもんね。タンスくんと棚くんだって僕の荷物なんか持っていたくないだろうし。テーブルくんだって僕なんかに使われるの嫌だよね。たださ、部屋の端っこでいいから寝かせてくれないかな?荷物も端に寄せるから」
ぶつぶつと悲しげに、家具たちにさえ遠慮するネガティブ思考を垂れ流しながら、荷物を端に寄せた。
恐らく、長年に及ぶ虐待がメルタの自己肯定感を異常なまでに低くしているのだろう。
メルタの垂れ流すネガティブ思考を聞いた家具たちはおどおどし始めた。
真っ先に動いたのは絨毯だった。
テーブルと何か示し合わせた後、メルタにテーブルが膝カックンを仕掛けた。
「うわっ」
体勢が崩れるところを見計らって絨毯がメルタを掬いあげる。そしてゆっくりと丁寧にベッドの上に下ろす。
メルタが驚きのあまり声も出せず目を白黒させていると掛け布団が覆い被さってきた。
「君も動くんだね…………」
力なくぽつりと呟けば、掛け布団は体を起こしメルタに巻き付いてきた。
「んっ、何?!やめてよ!」
掛け布団の中でもがくと簡単にメルタは解放された
そして掛け布団から出てみれば、ベッドの周りに家具たちが勢揃いしていた。
「な、何。新手のいじめ?」
とことんネガティブ思考のメルタに家具たちは抗議するようにガタガタと横に体を震わせる。
「なになに、怖いよ!わ、わかったよ。すぐ出て行くからこれでいいでしょ?」
メルタが怯えながらそういえば、何か不服だとでもいうようにより一層震えを大きくさせる。
「うぅ……怖いよぅ…………」
怖い怖いと呟けば、家具たちは震えるのをやめてそぉっとメルタに寄り添うようにくっつく。
「ふぇ?」
家具とくっついていると家具の考えていることが、感覚的に伝わってきたのだった。
ゆっくりと入ってくる情報を咀嚼し飲み込む。
…………
「君たち、構って欲しかっただけなの?!」
それにしては随分と過激すぎやしないかな?!
殺されかけたんですけど?!
文句と未だに入ってくる情報で頭がいっぱいになり混乱するが、これだけは言いたかった。
「嫌われてなくて良かった。ありがと」
はにかみながら言えば嬉しそうに家具たちは体を軋ませるのであった。