人気者?ハルツィナさん
王都上空。
ふわふわゆっくりと箒で飛ぶ三つの影。
「結構飛ぶの上手ねえ。よく飛んでたの?」
「は、はいっ、いいえっ」
「ふふ、どっちかしら?」
くすっと笑われてぼっと頬を赤くする。
緊張して声が上擦った上に変な返しをしてしまった。
「あ、えと、違くてあまり飛んだことはないです……」
「あらあ。じゃあセンスがあるのね」
間延びした独特のテンポがイマイチ掴めないものの、不思議と気まずさは感じない。
「あ、そうだわ。メルタって呼んでもいいかしら?」
「はい。えとハルツィナさん、今日は……」
「いーわよ、そんなに畏まらなくて。なんならハルって呼んでくれていいわ」
「ハ、ハルさん」
普通の会話のはずなのにメルタの心臓が大袈裟に跳ねる。
「今日はわたしと一緒にシュシュンで奉仕作業よ。そんなに身構えなくていいわ〜、フロイデもね」
「ありがとうございますわ。ハルさま」
「あ、アベルと団長には上手くいって言っておいたから安心してねえ」
うふふと笑みを溢すハルツィナ。
フロイデはヘルーテへの手紙を送るにあたってハルツィナに相談していた。ハルツィナは手紙を送ることに賛成してくれたので、団長と副団長との交渉を任せたのだ。
あまりいい顔はしていなかったようだけれども、都合よく解釈して半ば強引に手紙を送った。そうしたら案の定怒られた。
怒られるのは慣れっこなフロイデは、自分が怒られることでメルタやヘルーテの助けになれるならいいかしら、くらいにしか思ってない。
規律違反などのペナルティーとして課せられるのが町での奉仕作業。町へ行って清掃したり、外壁を補修したり、花壇に花を植えたり、子どもたちと遊んだりするのだ。
ちなみに奉仕作業回数歴代トップはヘルーテ。次いでハルツィナとヘルザである。ヘルザはヘルーテに巻き込まれる形だが。
ヘルーテがいなくなったせいで、長らく奉仕作業仲間がいなかった。久々に一緒に作業する人がいてちょっとテンション上がってたりしている。
メルタも奉仕作業仲間にならないかしら。なんて期待している。
もちろん、あまり褒められたことではない。
「そろそろ着く頃よ。あのあたりに降りましょ」
三人で穏やかに飛行しているとシュシュンに到着した。
「シュシュンは水源豊かなお酒のおいっしい町なのよ!」
興奮気味に話すハルツィナ。何を隠そう無類のお酒好きである。
「さあ、行きましょう!早く終わらせてバーにでも行きましょ」
「ほどほどになさってくださいませ、ハルさま」
止めつつも形だけで、お酒が絡んだ彼女はなかなか止まらないことを知っている。
「やぁねえ。交流よ、交流。魔術師団として親睦を深めなくちゃ」
そんな建前をのたまいつつ、真っ直ぐ街中へと進んでいく。
「今日は何をなさいますの?」
「広場の花壇の整美よ。草抜きと新しいお花を植えるの」
「楽しそうですわね!」
「なんの花を植えるかは決まっているんですか?」
「決まってるわよ。種もあるわ」
「咲くのが楽しみですわね!」
「ええ。早く行きましょ」
それから少し歩いて花壇のある広場に着くと、わらわら〜っと子供達が集まってきた。
「とつげきー!!」
「あらあら」
ハルツィナに向かって真っ直ぐ突っ込んでいく子供達。
「糸魔法・綿生成『コットンメイク』」
呪文を唱えればもこもこもこーっと綿が子供達を優しく受け止める。
「わた!」
「わただー!」
きゃっきゃっと笑い声が上がる。終始置いてけぼりのメルタとフロイデ。
「ぼくたち、突撃をするならもっと隙を狙うのよ?」
「なんで突撃のアドバイスしてるんですか??」
「いいかしら?まず相手の様子をよく見るの。それから油断しているところを狙って突撃よ。でも周りの人に迷惑をかけないようにね」
「あい!」
子供達の元気な返事を聞いて笑みを浮かべるハルツィナ。
いやだから、なんで突撃のアドバイスを??
ぽかんとしてるメルタをよそに、ハルツィナは子供達と少し言葉を交わしていた。子供達が一際大きく頷くとバラバラに駆けていった。
「あれどこに行っちゃったんですか?」
「ふふふ。内緒よ」
いたずら気に笑うハルツィナ。それから仕切り直すようにパンと両手を鳴らした。
「さあ、張り切って作業するわよ!水分補給忘れずにね!」
ハルツィナが高らかに声を上げて作業を始めた。
「ハルちゃん、また奉仕作業かい?」
「ハルちゃん、またこれ直してくれんかねぇ」
「よー、ハル。いつも精が出るな」
「あらあら、ハルちゃん。いつもありがとうねえ」
「ハルちゃん、相談があるんだが」
作業を始めてからというもの、道ゆく人たちに何度も声を掛けられている。ハルツィナは一人ひとりに言葉を返す。
街の人から好かれているのが良くわかる光景だった。
「あんた、初めて見る顔だな。新入りさんなのかい?」
「あっはい」
ハルツィナに話しかけていた男がメルタに気付き声をかけた。
「もしかして久々の新人魔術師さまかい!」
「いえっ、えっと、僕は魔術師補佐官です」
しどろもどろに答えるメルタに対して男は豪快に笑った。
「いきなり話しかけて悪かったな!補佐官さまというと、将来的には魔術師さまになるんだろう?応援してるぜ!」
「あ、ありがとうございますっ。頑張ります!」
心がふわふわと湧き立つ。どこかむず痒いようなちょっぴり恥ずかしいような気持ち。応援していると言われただけなのに、すごく嬉しい。すごく嬉しくて頑張るぞーっと気持ちが湧き立つのだ。魔術師になってみんなで誰かのために頑張りたい。
そしていつかはヘルーテさんとも……
そこではた、と思った。
ヘルーテさんは魔術師としてまた働く気はあるんだろうか。そもそも危険人物だし、団長曰く何か良からぬことを企んでいるらしいし。いや、その企みは僕が全力で諦めさせるつもりだけれども。ヘルーテさん、働くの嫌いそうだよなあ。
ヘルーテさんの企みを諦めさせたとして、その後は?その後はどうする?
漠然と一緒に過ごせると良いな、なんて思っていたけれど、ヘルーテさんはそう思ってないかもしれない。
「メルタ?どうかしたの?手が止まってるわよ」
「……あっ、すみません」
いつの間にか話しかけてくれた男はいなくなっていて、ハルツィナが心配そうにメルタを覗き込んでいた。
「大丈夫?具合が悪くなったら言うのよ?」
「大丈夫です。すみません」
取り繕うように笑いながら、作業を再開する。
けれども、ふと湧いた不安が腹の底でトグロを巻いていた。




