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魔術師と家出少年の取引




 家出少年、もといメルタは考えていた。

 どうしたらここに置いてもらえるかと。

 ごもっともな指摘を受けて項垂れてはいたが、めげてはいなかった。とことん頑固者なのである。


 確かにいい人ではなく、どころか世界最悪の大罪人だったりしたが、それはそれでいいと思えた。なぜなら、かの大罪人の関係者となればメルタの家族は刑罰の対象とはならずとも、会う人々全てが彼らを罵倒し、石を投げられる延々と抜け出せない生き地獄くらいは味あわせられるからだ。メルタと同じように。

 だからこれはメルタなりの家族への復讐なのだ


「よし決めた。君をここに置く」

「え?!」

「何をそんなに驚くんだい?置いて欲しいと頼んだのは君だろうに」

「そ、そうですけど、もう少し渋られるかと思って」

 今度はどうアプローチしようかと考えていたら、先ほどまで追い払おうとしていたのとは裏腹に、あっさりとここに置くことを宣言された。

「うん。追い返すつもりだったけどやめにした」

 うふふ、と可愛らしく笑む。何も知らなければ、純真で愛らしく映りそうな笑顔だったが、生憎、ヘルーテのこれは良いことを思いついた企みの笑みである。


「もしかして僕の境遇に同情してもらったとか」

「うん?同情はするけれど、別にそれが理由で置くんじゃないよ」

「他に理由なんて……あるんですか?」

 メルタはやっぱりこの人、人間じゃないなんて思いながら、他の理由を尋ねる

「あるよ。取引をしようじゃないか」

「取引?」

 嫌な予感がメルタの頭を過ぎる。


「私は君をここに置いてあげる。その代わりに君、魔術師になってくれないかい?」

「ま、魔術師?!」

 職業魔法適性において一番稀有なのは、職業魔法適性を持っていないことである。なぜなら適性を持たないというのは、どんな魔法も扱えるということに等しいからである。

 職業魔法適性を持たない万能の魔法使いを魔術師とし、その力は国の安寧のために使われてきた。

 本当に稀有な存在の為に、幼い頃から擁護され英才教育を受けてなるものなのであった。


「僕は鍛冶屋の職業魔法適性を持ってます!だから魔術師にはなれません!」

「大丈夫だよ。適性なんてのはあくまで適性なんだから、別の適性の魔法であろうと使えはするんだよ。死ぬほど訓練しなきゃいけないけれど」

「そうなんですか?!」

「ああ。知らないんだ。まあ、知られてないことだし、そもそも、そんなことするのはほとんどいないだろうからねぇ」

 にっこりと笑いながらメルタを歓迎するように玄関の扉を開けた。

「立ち話もなんだし、家にあがりたまえよ。ゆっくり話そうじゃないか」




 家の中に入るように促され、魔法を使って浮遊するヘルーテの後についていく。

「あの、なんで歩かないんですか?」

「んー、呪い?」

「ふぇっ?呪い?」

「うん。ほら私ってば大罪人じゃない?」

「なんで明るいテンションなんですか……」

「それで、何個かの罰のうちの一つが、歩くたびに激痛の走る呪いなのだよ」

「大変ですね……」

「だから困るのだよ。急なお客さんは」

「す、すみません…………」

「ふふふ、別に気にしていないよ」

 文句こそ言っているものの、本当に気にしていない様子で部屋に入りメルタに椅子を勧める。


「失礼します……」

 勧められた椅子は煤けていて腰を掛けたら壊れるのではないかと思われたが、予想に反して丈夫だった。


「ごめんね。飲み物は水しかないんだ。曰く、お前のような者なら、水でさえも上等だって。嫌われたものだよねぇ?」

 自虐のような軽口に、メルタはなんと返して良いか分からず困惑する。



「早速本題なのだけれど、いいかい?」

「はいっ」

 メルタはゴクリと生唾を飲み込み、椅子に座り直す。

「それでは。メルタくんをここに置く条件として、魔術師になることをあげた。その理由は、君を弟子にして魔術師として育てることで、名誉挽回しこの状態を改善するため。少なくとも、次から客人に紅茶くらいは出せるようになれるだろうね」

 指をピンと立て、堂々と語る。


「魔術師になることは君にも利点がある。魔術師になったら、エリートの王宮付きの魔術師団に入れて、ご家族のことを見返せるし、贅沢な生活を送れる。素敵だろう?君が世界に見せつけてやるのさ。いくら家族と違う職業魔法適性だからって馬鹿にすんなよ、魔術師にだってなれるんだってこと」

「……!」


 今度はメルタが心を動かされたようだった。

自分のように虐げられきた者が最悪の大罪人のところで力をつけ下克上するのなんて痛快だろう。


「よろしくお願いします……!」

「ふふふ。よかった。脅すことにならなくて」

「へ?」

 爽やかな笑顔に似合わない発言に目が点になる。


「ん?だって私の家にあがったら、ほぼほぼ反逆者だと見做されて国の精鋭たちが君を襲ってくるよ?私がメルタくんは間違って迷い込んでしまった憐れな少年を保護していただけです、っていえば話は変わるけれど?」

「そ、それって………… 」

 いつのまにか逃げ道は断たれてしまっていた。



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