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フロイデの回想

 フロイデは考えていた。

 後輩二人の仲を保つためには、どうすべきかと。

 二人の言い争いを間近で見た結果、根本的に気が合わないコンビのようだ。彼ら彼女らのヘルーテに対する姿勢も真逆と言って良いし、魔法に関する考えも、魔道具作り方もかなり違う。紅茶の好みもクッキーの好みだって正反対に近い。

 とりあえず、各々一番食いつきの良かったクッキーとマフィンを側にそうっと置いておく。ヘルザにドヤされ喧嘩を止めた二人は、黙々と集中して作業をしていて、気づいていないようだった。

 まあ、お腹が空いたらきっとお召し上がりになるでしょう、なんて呑気に二人の様子を眺める。

 アベル副団長からの命で昨日からメルタを見張っているが、出されたものはちゃんと美味しそうに食べるし、挨拶とお礼も言えるし、ヘルーテの弟子とは思えない程のいい子である。


 ヘルーテさまは一体何を考えてらっしゃるのでしょう……

 十四年前からヘルーテが何を思っているのかわからなくなってしまった。十四年前の事件が起こったその時から。


 昔のヘルーテは良くも悪くも純粋な女の子で自らの好奇心の赴くままに、周囲を引っ掻き回すような子だった。

 ヘルーテの頭の回転が速すぎて、フロイデには何をどうしようとしているのか理解が追いつかなかったが、彼女の紡ぐ音が言葉が、楽しくてわくわくしていることを伝えてくれる。フロイデにはそれだけで十分だった。

 だから事件が起こった時のヘルーテを思い出すと、心臓がぎゅうっと締め付けられる。あの一切光のない瞳、全ての感情が抜け落ちたような表情。決めたことを淡々とこなすようなそんな無機質さが、泣きたくなるほど切なくて堪らなかった。

 それは事件終結後も変わらなかった。ヘルーテの表情から一切感情を汲むことが出来なかった。昏く沈んだ瞳の彼女が言われるがままに追放されるのをただ見ていることしかできなかった。


 事件の起因の詳細は知らされていない。恐らく国王様と団長しか知らないだろう。

 国のツートップが知らせない方が良いと判断したのなら、二人に忠誠を誓う者としてただ従う。しかし勿論、ヘルーテが凶行に及んだ理由を知りたくないわけじゃない。むしろ知りたくて仕方がない。

 そんな思いも虚しく、十四年が経ってしまった。




 カーテミアル王国は三大大陸のうちのアルル大陸というところにある。

 十四年前そのアルル大陸のおよそ三割が荒野と化す。そしてアルル大陸に属する十六カ国のうち首都集中砲火の後四カ国が壊滅状態へと陥る。更に魔法帝国ユーベルの魔力発力所が破壊される。

 負傷者計、五万二千七百二十二名。

 死亡者計、一名。

 これらがヘルーテ一人によってもたらされた被害の全貌である。

 ヘルーテが魔術師団に捕えられた後、アルル大陸裁判所は、ヘルーテの単独の犯行とし死刑判決を下す。カーテミアル王国王宮付魔術師団には、所属する魔術師が大罪を起こした責任を問い、多額の賠償金の支払いを命じた。


「じゃあ直そっか」


 判決直後にヘルーテが言った言葉である。


「物を壊すのは不本意だったのだよね」


 表情は無のまま、口調はいつも通り。


「ああ。別に直せば良いって問題じゃないのは分かってるから」


 そして呪文を唱えた。


 街が破壊される前へと姿が戻っていく。崩れた壁も倒れた柱もひび割れた地面も、全てが壊される以前に戻った。


 悪魔のように暴虐の限りを尽くし、神のように街を復元する。魔法至上主義のこの世界でもいきすぎた魔法に、誰もが恐れ怯えた。

 彼女を死刑に処そうなどという猛者は現れず、大罪人が野放しになろうというところで、魔術師団団長・トロイメンがヘルーテの魔力を奪い、荒野へと追放した。

 カーテミアル王国王宮付魔術師団は大きな罪に問われたが、迅速な対応で大罪人を捕らえ、無力化・追放したことで、辛うじて面子が保たれた。

 それでも信頼は失墜し、その後しばらくは信頼回復のため他国のご機嫌伺いにあちらこちらと走り回った。


 その後抜け抜けとヘルーテが仕事するからご飯くれ、と交渉してくるのは別の話。






「ルリィさん!」

 久々に十四年前の記憶の中にいたフロイデは、メルタの声で急に現実へと引き戻され、すわ、喧嘩か?なんて思ってしまった。

「なんなのです?」

 ルリィの声の柔らかさにどうやら喧嘩ではないようだと胸を撫で下ろす。

「魔力変換の魔法の装置だけを作るっていうのはどうですかね?」

「と言いますと?」

「魔道具を作る上で一番時間とコストがかかるところって魔力変換のところだと思うんです。なので、魔力変換の装置だけを作って配るのはどうでしょうか」

「……もう少し具体的な話をお願いしますのです」

「僕の魔法で作る魔道具には魔力変換の魔法が組み込まれてないんです。僕の魔法だと一個の魔道具に一つしか魔法を組み込めないので。なので基本魔力変換の装置を外付けしてるんです」

「外付け?なら余計に動力部との接続が必要でコストがかかってしまうのです」

「そうなんですけど、接続コードをなくすことが出来たら……」

「あ、あのう、良かったらわたくしにも分かるように言っていただけると嬉しいですわ?」

 恐る恐るフロイデが言ってみると、メルタはニコッといいですよ!と言った。

「魔道具は道具に魔法陣を付与することで作られる、と前にも言ったと思います。ですが、魔法陣にも職業魔法適性があるので、使える人と使えない人が出てしまうんです。そこでヘルーテさんが魔力変換術式を確立させました」

「メルタさんはサラッと言ってますが、すごいことなのですよ?!」

 メルタの説明の途中でルリィが割り込んできた。

「それはそれはもう革命的な術式だったのです!それまでの絶対的とも言える職業魔法適性による壁を取り払ったのです!長い魔法の歴史の中でも職業魔法適性に関わらず、魔法を使える術式はヘルーテさんの魔力変換術式だけなのです!!その功績で王様から叙勲を賜っているくらいなのですから!!」

 熱を帯びたルリィの語りにメルタもフロイデも気圧される。

「へ、ヘルーテさまが、すごいことは十分存じてますわ」

 少々顔を引き攣らせながらフロイデが言うと、まだまだ喋りたりなさそうにしているが、口を閉じた。

「え、えっと、説明の続きしますね。道具に魔力変換術式の魔法陣を付与したことによって、どんな人でも使える魔道具になったんです」

「なるほどですわ」

 フロイデが納得したようにポンと手を打つ。

「でも僕の魔道具は魔法を重ねがけ出来ないので、部品ごとに魔法を掛けているんです」

「?」

「皆さんの前でお見せした思い出し帽覚えてらっしゃいますか?」

「ええ。もちろんですわ」

 元気よく頷くフロイデ。

「思い出し帽は、帽子の部分に記憶を読み取る魔法を、ブローチの部分に映しだす魔法を別個に掛けているんです」

「それでは魔力変換術式はどこに掛けられているんですの?」

「魔力変換術式が掛かっている糸を縫い付けてあるんです」

 ちょっと得意げに話すメルタ。フロイデは情報をゆっくり咀嚼して飲み込むとこてんと首を傾げた。

「それを一つの呪文でできるものなのですの……??」

「普通は無理なのですよ」

 と、そこで再びルリィが口を挟んできた。

「普通では無理なことを覆すのが魔術師の特権、特別な魔法、なのですよ」

「やっぱりすごいですわ!メルタさん」

 どこか恨めしそうに言うルリィとキラキラな笑顔で褒めるフロイデに、メルタは困ったようなそれでいてちょっと苦しそうなそんな笑いしか返せなかった。


「魔力変換術式についてはわかりましたわ!メルタさんはそれで何をしようと思っていますの?」

「はい。無線魔力変換器を作ろうと思います!」

 高らかにメルタはそう宣言したのだった。




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