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フロイデという魔術師

「音楽家さん……ですか?」

「ええ!魔術師兼音楽家ですの!」

 兼業ってありなの?

 堂々としてるし、もしかしたらアリなのかも?

「しかもこの楽器って魔道具なんですか?」

「そうですわ。ヘルーテさまがより遠くに響くように手直ししてくださいましたの」

「手直し……?元々は魔道具ではなかったんですか」

「そうですわ。ここのところをご覧ください」

 フロイデの指が指す先、ラッパの部分を一周するように複雑な模様が刻み込まれている。

「これが音を倍増させる魔法陣なんですの」

「直接魔法陣を刻み込んだんですか?!これ?!付与魔法は?!付与魔法はどこに行ったんですか?!」

「付与魔法よりこっちの方が楽だからとおっしゃっていましたから〜」

「楽だから?!」

「だめですの?」

「だめですよ!」

 魔法陣で魔法を使うには魔力を通すために特殊なインクが必要だし、そもそも魔道具を作るには魔法に耐えうる素材の道具に、魔法陣を付与するのである。それをショートカットするのは楽器を壊しかねない危険な方法なのだ。

 そのことを身振り手振りをしながらメルタが一生懸命フロイデに教える。

「あら、そうなんですの。でも魔法陣を書く紙は普通の紙、じゃなくて?」

「紙は何でもいいんです。インクが染み込むことで魔法に耐えられるようになりますから」

 もちろん、楽器、しかも金属楽器にインクが染み込むわけがない。だから付与魔法が必要なのである。

「メルタさん、魔道具にするには、元々の道具が魔法に耐えられるものでないと壊れてしまうとおっしゃいましたわよね?」

「はい」

「この楽器は普通のものですから、魔道具にはできないと思うのですけれど」

「え?」

「これはとても魔道具にできるような楽器ではなかったということですわ。無理を言ってヘルーテさまに手直ししていただいたんですの」

「そ、そうなんですか?」

「ええ」

 よく了承したなヘルーテさん。メルタのイメージからいくと面倒臭いから嫌だ!と尊大に言い放つ姿が思い浮かぶ。

「ぼ、僕に直せるかわからないですけれど、頑張ります……」

「ありがとうございます!メルタさん!」

「じゃあ一旦ヘルザさんのところへ戻りましょう。ルリィさんの工房をお借りして、そこで整備をします」

「わかりましたわ!あ、お茶会のお片付けをしなくちゃ。先に戻っていてください、メルタさん。お片付けが終わり次第、ヘルザさまの執務室へ伺いますわ」

「はい。あ、じゃあ、この楽器お預かりしますね。工房へ持っていきます」

「よろしくお願いいたしますわ!」

 つられて笑顔が溢れてしまいそうになるフロイデの明るさに、なんでヘルーテがフロイデの頼みを了承したか分かったような気がした。


 


 


「でけえ荷物だな」

  ヘルザの執務室へ着いてルリィの工房を借りる許可をもらった。

「別に工房を貸すのはいいんだけどよ、あんまり散らかすとルリィがキレるから気をつけろよ」

「わかりました。ありがとうございます!」

 ぺこぺこと頭を下げながらケースをよたよたとなりながらも運び終えた。

「つか筋肉つけろ筋肉。そんくらいの重さでよたよたしてるって大丈夫か」

「す、すいません…………」

「魔法もいいけどよ、魔法ばっかに頼ってたら使えなくなった時困るのは自分だぜ」

「はいっ」

 元気のいい返事にヘルザは少しだけ苦笑いする。

「あとはフロイデが来んのか?」

「はい、後からいらっしゃいます」

「おう、わかった。来たらそっちの部屋に連れてけば良いんだろ?」

「はい、ありがとうございます!」

 にこにこ、ぺこぺこしながらメルタは工房へと入っていった。


 十数分後、ヘルザの執務室にフロイデがやってきた。

「ヘルザさま、クッキーとマフィンですわ。どうぞ皆さまでお召し上がりくださいませ」

「いつも悪いな。メルタがルリィの工房にいるからそっちに案内する」

「いえ、大丈夫ですわ。ルリィさんの工房ですわよね、一人で行けますわ」

「待て待て。菓子類を持ち込んだらルリィがキレるからやめてくれ。一回全ての持ち物出せ」

「?大した物は持ってませんわ」

「いいから」

 りんご味の飴が五個、桃味のが三個、ぶどう味のが四個、さくらんぼ味のが六個で、計十八個。

 あとはハンカチに、懐中時計に、手鏡と櫛だった。

「あら!みかん味と紅茶味の飴を補充していませんでしたわ!」

「こんだけあれば十分だろ!てか、なんでこんなに持ってんだよ?」

「妖精さんにお渡しするためですわ!」

「…………は?」

 いい歳にもなって何言ってんだこいつ。

 予想外のワードにヘルザの思考がそこで止まった。

 魔法も魔物もいる世界ではあるが、そんな世界でも妖精さんは御伽話の存在だ。

「妖精さんはイタズラ好きですけれど、歌を歌うのがいっとうお上手なんですの。妖精さんの大好きな飴をあげるとお礼に歌を歌ってくださるのですわ。一度でいいから聞いてみたいものですわ!」

「そうかよ…………その妖精さんって、誰に教えてもらったんだ?」

「ヘルーテさまですわ!」

 あいっつ…………ほんとマジで、面倒事しか増やさねえな!

 ヘルザはヘルーテへの殺意を新たにした。

 ちなみにヘルーテは十三、四歳の頃、三つ下のフロイデに気分転換に幼い頃読んだ御伽話を話しただけである。

「ヘルーテさまはなんでもご存じですもの!尊敬しますわ!」

「フロイデ。言葉には気をつけろ。あいつは大罪人だ。俺ら魔術師団が尊敬するだなんて言えねえんだよ。言っちゃいけねえんだ」

「国王さまはヘルーテさまを気にかけていらっしゃいますわ?」

「国王様は良いんだよ!」

「そういうものですの?」

「そういうもんだ。ほら、飴は預かってるから、メルタのとこ行ってこい」

「わかりましたわ」

 てくてくとフロイデが工房へと歩いていくのを見守っていると、突然くるっと振り向いた。

「ヘルザさま!」

「なんだよ」

「もし、わたくしがいない時に妖精さんがいらしゃったら、代わりに飴を差し上げてください!」

 ヘルザは天を仰ぎ、ため息を吐いた。

「わかったわかった。飴は渡しておくから、行ってこい」

「ありがとうございます!ヘルザさま!」

 大輪の花のような笑顔のフロイデに、少しだけ苦笑いをこぼしながら、ヘルザは頷くのだった。


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