ぷんぷんっ!
頼れる絨毯くんに見捨てられてしまったメルタではあったが、なんとかアイヒルフェンに言われていたことを達成することができた。
かわいい子犬のような魔物かと思ったら、口から光線を発射されて死にかけたり、毒蜘蛛の魔物の罠に掛かって死にかけたり、肥大化した両腕のハンマーで手当たり次第に直径一メートルのクレーターを作る体長五十センチのネズミの魔物に殺されかけたりしたが、なんとかやり遂げた。
諦めない心って大事。
ていうか僕、何回死にかけた?
ていうか危険生物が王都中心部で保護されてていいの?
「危険生物じゃねーよ!絶滅危惧種だって言ってんだろ!つーか、もう日が暮れかけてるじゃんか。はー、ヘルーテの弟子の割には手際が悪いしびびりかよ、メルタ」
「ご、ごめんなさい……」
「まー、食われなかっただけいいか」
ぼそっと聞き取れないくらいの声で呟いたが、メルタの耳にはしっかり届いた。
「やっぱり食べられる可能性あったんですか?!生き物は食べられちゃったら死ぬんですよ?!」
「だ、大丈夫だって。ちゃんと人間は食べないようにって躾けてるし。するとしても甘噛みなくらいで。てか、逃げたら食われるってちゃんと注意書きしてただろ?」
「してありましたけど……」
魔物たちから逃げ回っていたせいでぐっしゃぐしゃになってしまった『まものとなかよし』を広げてみる。
「あと、この檻どうすんだ?ちゃんと片付けろよ?」
「だってだって、檻外したら秒で食べられません?!」
「ちゃんと躾けてるって言ってんだろ。そんなに信用ないかね、アイヒルフェンさんは?」
ないです……と正面切って言えるほどメルタは強くなかった。
「ま、明日はもっと上手くやれよなー。ほれ今日の昼ごはん」
「ありがとうございます…………」
時間的には夕ご飯な気がするが、ありがたく受け取る。わあ、ほかほかだあと微笑んだ。
………………。
「……………………って、僕明日もこの子たちにごはんあげるんですか?!」
「うん」
「え?!」
「え、じゃねえよ。明日だけでいいからさ」
「わかりました……」
ほっとしたけれど、怖いのには変わりない。メルタはガックリと肩を落とした。
「頼んだからなー。帰んぞー」
「あっ、僕絨毯くんを迎えに行かないと……」
「絨毯くん??」
「はい。今屋根で寝てると思うんですけれど……」
「は?……ああ、ヘルーテのやつか。何、外に放してたのかよ?」
「えっと……はい」
「はーん。変わってんなメルター」
「え、そう、ですか?」
メルタの瞳が不安げに揺れる。
人と変わっていると言われることは、職業魔法適性を受け継げなかったことを思い出して、また拒絶されるんじゃないかなんて思ってしまう。
「僕、変わってますかね?」
恐る恐る、出来るだけ声は震えないように尋ねた。しかし、アイヒルフェンはそんなメルタの心情なんか知らないので、あっけらかんと答えた。
「ヘルーテの魔法を信じるところとか?」
「えと……すみません、アイヒルフェンさん。言ってることがよくわからないんですけれど…………」
心臓がなぜだかどっくどっくと嫌な音を立てる。
「だーかーらー、ヘルーテのアニマメイク?だっけ。あれを信じるやつなんてあんま見たことなかったからさあ。普通ビビんだろ?物に命を与えるって。いくら特別な魔法だって規格外過ぎるんだよ。だからぶっちゃけあいつのこと物を友達と思い込む頭イカれてるやつかなって思ってたし」
「え?」
ごくごく冷静に言葉を続けるアイヒルフェンにメルタは耳を疑い、急にアイヒルフェンが冷たい人間に感じた。
「ヘ、ヘルーテさんはイカれてなんかないですよ。そ、そりゃあ、平気で嘘吐くし、基本人任せで、意地悪で、嫌がらせをして喜ぶような人ですけれど、で、でも、優しいんですよ。優しいんです。なんというか、友達想いで、細かいとこに気づいてくれるし、頭良いし、魔法上手だし、僕の自慢の師匠なんでず。だがらヘルーテじゃんのごと、悪ぐ言わないでください〜」
「わ、悪かった。あたしが悪かったって。な、泣くなよお、メルタぁ」
魔物にあって怖かったり、昔のこと思い出して不安になったりしてメルタはちょっと情緒不安定だった。そしてアイヒルフェンのショッキングな言葉で涙腺が決壊した。
「ヘルーテは、うん、そうだな。いい奴ではあるな。それに今は頭がイカれた奴だって思ってねーって。なあ?一旦落ち着こう。ほらお菓子食べるか?飴もクッキーもあるぞ?」
ひたすら背中を撫でながらポッケからお菓子を差し出す。
「おいしーぞ。食べなきゃ損だぞ」
「ありがどう、ございまず」
アイヒルフェンの困り顔を見て、我に返ったメルタは涙を強引に拭ってなんとか泣き止んだことにした。決してお菓子に釣られたわけではない。
ずずっと鼻を啜りながら、控えめにすみません、とつぶやいた。それと同時にぐうううう、と盛大にメルタの腹の虫が空腹を訴えた。
「よっし、食堂いこーぜ。さっき渡したやつは明日でも食べれるし、あたしが奢ってやんよ。だから泣くなよ?な?」
こくり、とメルタが頷くのを見てメルタの手を引きながら食堂へ向かった。
「……アイヒルフェンさん」
「な、なんだよ、ヘルザ」
「メルタのこといじめないでくださいよ」
「いじめてねーって……」
食堂へ行くとたまたまヘルザも来ていて、アイヒルフェンはちょっと顔色を悪くした。
「泣いてるじゃないですか、こいつ」
「だって泣くなんて思わなかったんだもん…………」
「泣いてないですっ」
「いや、泣いてるじゃ……」
「泣いてないですっ!」
「でも……」
「泣いてないですっ!!」
「やかましいぞ、貴様ら!」
三人で話しているとアベルまでやってきた。
「全く。食事くらい静かにせんか……おい、また新人を泣かせているのか……」
「う」
「あまり虐めるな。まだ来てから何日も経ってないし、慣れてないことの方が多いだろう」
「だからぁ、悪かったって……」
「メルタ、今度虐められたらヘルザか俺に言え。代わりに団長に伝えてやる」
「えっ?!ちょっ、まっ!それはやめてくんね?!」
「だっ、大丈夫ですよ、アベルさん、ヘルザさん。ちょっと魔物が怖かっただけで……すみません、情けなくって…………」
「そうか。まあ徐々に慣れていけよ。アイヒルフェンがいない時の魔物の世話は新人がやることになってるからな」
「え」
メルタの顔がさあっと青ざめた。
「言ってないのか?アイヒルフェン」
「てへっ、ちょっと忙しくってぇー」
「へへへ、ヘルザさん……」
「後でコツくらいは教えてやるよ」
「そんな…………」
明日だけだって言われたのに!明日だけだって言われたのに!!
アイヒルフェンさんに奢ってもらった夕飯を食べながら、しょぼんと肩を落とした。
メルタくん、またぼくのことわすれやがったな。もうあしたはたすけてやんないっ!ぷんぷんっ!!




