激おこ絨毯くん
びゅおおおおおおおおおおおおおおおっ!
どこからか風の切る音が聞こえて、気づいた時にはふんわりとしたものに包まれて空に漂っていた。ラーオルグが小さく見える……と思ったら激しく揺れ始めた。
「わえあっ!?」
ひしひしと絨毯くんの怒りが伝わってくる。こんなふうにされるのは出会ったばかりの頃でもなかった。
「!!!!!!」
「ごめん、ごめんなさい。絨毯くん!何でそんなに怒って……わああああ、ごめんなさいごめんなさいぃ!」
彼は、一昨日の朝にヘルーテを家に送った後その日のうちに、王宮職員の寮に帰ってきた。しかしその晩、メルタはルリィに連れられて無断外泊をしていたので帰ってこなかったのである。その上、メルタの部屋の窓には鍵がかかっていて自力では入れなかったのである。仕方なく一晩屋根の上で過ごしてメルタを待っていたのだ。
メルタは次の日の夜遅くに帰ってきたのだが、絨毯くんは部屋にいなかったため、まだヘルーテのとこにいるのかと思っていた。
つまり、絨毯くんは二日間締め出しを食らい、外で過ごすことになって、めちゃ怒なのである。
そんな内容のイメージがメルタに伝わってきた。
「本当にごめんなさい。決して忘れてたとかじゃじゃなくて、ちょっと色々あってですね……」
いいわけなんてききたくないね!
と言わんばかりに絨毯くんは体を大きく横に揺らした。
「ごめん!絨毯くん!でも、助けてくれてありがとう!!」
きみのためにたすけたんじゃないもん、もんくをいってやろうとおもってたまたまみつけたからきただけだもん、べつにたすけてってさけびごえがきこえたからじゃないもん!!!
と言わんばかりに身を震わせる。
「それでも絨毯くんのおかげで助かったことには変わりないもん。ありがとう!絨毯くん!!」
ぼくはおこってるんだからね!!
と言うように身を波うたせる。
「わわ、落ちる落ちる!」
なんとか四つん這いになりバランスを保つことで墜落死は免れた。
メルタの慌てように少し溜飲を下げた絨毯くんは、身体を真っ直ぐにして地面と平行を保つようにした。
「どうしたら許してくれる?絨毯くん」
ブラッシングスペシャルコースでゆるす!
と体を上げて訴えた。
「了解です!じゃあ帰ってからだね」
ところでなんでまものにおいかけられてたの?
と問うように体をたわめる。
「わわ!だから落ちるってば……ええっとね、アイヒルフェンさんにあの子たちのお昼ご飯と食後の運動を頼まれてたんだよ」
じゃあしょくごのうんどうちゅう?
と、今度はメルタを落としそうにならないように身体の端を上げて尋ねる。
「いやあ、それがお昼ご飯はまだで……どころか怒らせちゃったみたいで…………」
………………へっ
「あ、今僕のことバカにした?」
???
しらっと惚けるフリをする絨毯くん。
「いいんだよ。別に僕は頭良くないし、愚図だし」
眉尻を下げて頬を掻く。
ばだばだばだ!
身体の端を波うたせる。絨毯くんはとても怒っていた。
きみのそういうとこきらい!
なんでさびしそうにそんなこというの!
ぼく、ほんとうはそんなことおもってないよ!
きみは、ぼくたちのしんゆうがみとめたまじゅつしなんだから、どうどうとしてよね!
きみがそんないくじなしだと、ヘルちゃんまでかるくみられちゃうでしょ!
だからちゃんとかんがえて。かんたんににげちゃだめ。ヘルちゃんにはじをかかせるつもりじゃないでしょ?
と、絨毯くんは体を揺らして訴えた。
「ごめん。絨毯くん。君の言う通り……って言ってはないのか。君の思い通りだよ……あれなんか意味が違うような……。とにかく、ちゃんと考えなきゃだよね」
考える考える考える。
今のところ、絨毯くんのおかげでラーオルグの届かない上空へ避難してはいるものの、早くご飯をあげないといけない。あげなければ、お腹が空きすぎてメルタが食べられるどころか、絶滅危惧種の食い争いが勃発しかねない。そんなことになったら、怒られるでは済まないだろう。
どころかアイヒルフェンを怒らせれば、魔物たちの餌にされかねないことをメルタはまだ知らない。
「と、とりあえず、動きを止めようと思うんだけれどどうかな?」
三人寄れば文殊の知恵、というようにメルタも絨毯くんに相談してみる。三人もいないし、どころか一人は絨毯で人ではないが。
いいんじゃない?ヘルちゃんとちがってものしりじゃないから、やくにたてないけど。
と少ししょげた様子で四つ端をくねくねさせる。
「大丈夫。君は現在進行形ですごく助けになってるから、本当、来てくれてありがとう」
絨毯くんがいなきゃ多分僕は死んでいた。これは冗談ではない。
「動きを止めて、ご飯をあげて……そしてまた追われる」
いやいや、僕もう追われたくないんだってば!と心の中でセルフ突っ込みを入れて考え直す。
この子達みたいに意思疎通が出来れば良いのになあ、そうしたら追わないようにお願いできるのになあ。
やや現実逃避気味にそんなことを考えて、閃いた。
が、その案は即座に廃棄した。
「動物の言葉を翻訳する魔道具って簡単に作れるわけがないんだよねえ」
だからこそのアイヒルフェンの特別な魔法なのである。簡単に再現できるなら苦労はない。
え?ことばをつたえるだけなら、ねんわでもいいんじゃない?
きょとん、と右端をくいっとあげた。
「ゑ?」
念話魔法、テイマーの職業魔法の一種。魔物は総じて知能が高く、念話によってなら簡単な感情の読み取りくらいならば出来る。
「……ごめんね、絨毯くん、こんなこと言っちゃいけないんだろうけど……………………もっと早く言って?!」
いらっ。
…………ぶんっ!
メルタは真上に放り投げられた。




