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家出少年の復讐


 ヘルーテはこんこんとメルタに説教をしていた。犯罪者が善良な一般市民に対して説教をしていた、玄関で。

 しかしその実、成人したての少年ならちょっと叱ればすぐ帰るかなぁ、ていうか帰ってくれないかなぁというヘルーテの考えである。



「確かに、僕はちょっと危機感に欠けてるところがありますし、よくお人好しって言われます。でも、だからって、ここに置いてくださらない理由にはならないでしょう?」

「この期に及んでまだそれを言うの?なんで?置けません、無理です。大体にして犯罪者に弟子入りしようとするな。犯罪の指南でも受けたいの?」

「そういうわけじゃありません。街から離れられればそれで良いんです。そうだ!家事全般得意ですからお役に立てますよ!掃除、洗濯、料理、その他色々とお任せください!」

 しかしメルタは思いの外頑固だった。しかも自分を売り始めた。ヘルーテの完全なる計算違いである。

 しかも前半部分はともかく、家事全般を任せて!、という素敵な申し出に心が動いていた


「うーん、ううう……すっごく魅力的だけれどねぇ……」

「でしょう?」

「でも、なんで君はそんな自暴自棄になっているのかな?」

「ふぇっ?」

 急に、ヘルーテの鋭い瞳に射抜かれたメルタはたじろぐ。

「だってそうでしょう?ひどいことされるのは嫌なようだけれど、犯罪者になることはどうとも思っていないようだし。君は危機感がないんじゃなくて気にしていないんでしょう?」

 つらつらと、それこそどうでもいいことかのように話す。


「それは…………」

「ま、別に言いたくないなら気にしないよ。たださあ、面倒事はごめんだから。君を弟子にするとかね。だから早急に帰ってくれるかな」

「嫌です」

「あーもう、全然話進まないな!?そして頑固だな!もう君との話飽きたよ!わかった。わかったよ!どっか良いとこ紹介してあげる。それで手打ちにしよう、ね!」

 半ギレしながら妥協案を出すと、もはや言葉も発さず表情のみで拒否を示す。

「なーんでここが良いのさぁ!そんなにここに置いてもらいたいんなら理由を言ってよ!」

「わかりました!」

 凛凛しい表情を浮かべ、意を決したように話し始めた。



「僕は薬剤師の家系に生まれました。

 けれど僕は薬剤師の適性ではなく、鍛冶職人の適性を持って生まれました」

「ストップストップ。誰が身の上話をしろって言った」

「僕の身の上話が理由に関係してるから話すんですよ」

「ああそう。わかった聞くよ。続きをどうぞ」

 メルタはなんだこいつ、と思わなくもなかったが話を再開することにした。



「僕が家族と別の適性を持って生まれたと分かると、無視されるようになりました。たまにかけられる言葉といえば暴言ばかりだったんです。

 僕はたまたま、違う適性でした。だけど誰にでも起こりうることでしょう?それでも僕が悪いんですか?ちゃんと受け継げなかった僕が悪いんですか?

 ちゃんと受け継げなかったからご飯は食べれないんですか?新しい服は着られませんか?家族とおしゃべりすることすら許されないんですか?

 それがなんかもう嫌になりまして。でも死ぬほどの度胸はないし、あんな奴らと同じ空間で過ごしたくないし、それなら誰もいないとこに行こうと思って、街からとりあえず出ました。

 そしたら、魔物は襲ってくるわ天候は荒れ狂うわで。地図と食料と着替えが入ったリュックは魔物に盗られ、雨宿りしていた木に雷が落ちて危うく死にかけたし、道を渡ろうとした直前に崖崩れ起きるし、もう散々だと思っていたら現れたんです!優しい盗賊さんが!

 優しい盗賊さんはご飯と着替えをくれてここに良い人がいるよ!って教えてくれたんです!まあ、それは世界最悪の大罪人さんだったんですけれど。

 というわけで、行く当てがないんです。それに犯罪者に弟子入りしたってなればあいつらに汚名を着せられますし!ざまあみろです」

 メルタが淡々と語り始めた話は、最後はイキイキと締められた。



「強かだねぇ、君は…………」

 聞き終えたヘルーテは、なんともいえぬ表情で感想を口にした。

 だいぶマイルドには言っているけれど、要は虐待を受けていたということだろう。そして今も恨みを持っているのだろう。


「ていうか、人違いじゃない?」

「う……」

「私が良い人な訳ないじゃん」

「うう……」

 ごもっともな指摘にメルタはしょんぼりと項垂れてしまった。


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