まものとなかよし?
はじめての魔物のお世話、〜初級編〜
魔物をお世話するときは、目を合わせてはいけません。目が合うと威嚇されたと感じた魔物に襲われてしまいます。
魔物をお世話するときは、大きな声をあげてはいけません。びっくりした魔物が暴れて怪我をする恐れがあります。
怖いからといって魔物に背を向けて走って逃げてはいけません。すぐに追いかけられて食べられてしまうので気をつけましょう。
魔物と接する時には、騒がず慌てず、様子を窺いながら適切な距離感を心がけましょう。
「うう〜ん」
アイヒルフェンに手渡された小冊子。表紙には可愛らしい文字で、『まものとなかよし』と書かれている。
「うう〜ん??」
僕、ヘルーテさんの家行く時に魔物に襲われたなあ……。それで……魔物と仲良し……?
「うう〜〜ん??」
でも、まあ、あの動く家具たちと仲良しになれたから、きっと魔物とも仲良くなれるよね!
「ぎゃああああああああああああっ?!」
超大型肉食魔物、ラーオルグに追いかけられて身体強化魔法を使って爆走し、逃げるメルタ。ラーオルグは牙を剥き出しにし、強靭な四つ脚は荒々しく大地をけたぐる。あまりにも不慣れな手際でラーオルグの神経をめちゃくちゃに逆撫でしてしまったのだ。
「ぐるるるるぅ……」
その絶叫に驚き苛立った他の魔物たちも静寂を取り返すため、静かに殺気立ち虎視眈々とメルタを狙っている。本当に多忙らしいアイヒルフェンの姿はもうないため、助けは見込めない。
「ううっ、今日のお昼ご飯まだ食べてないのにぃっ!」
確か、ヘルザが言っていた。今日の食堂のお昼ご飯は、砂糖で甘く漬けた果物をカリッと揚げ焼きにしたものをパンにはさんで食べる、フルフラという食べ物だと。そんな美味しそうなのメルタは一度も食べたことがない。
ゆえに。本日のお昼ご飯は何としても食べたかった。そのモチベーションだけで今までラーオルグから逃げ続けられていると言っても過言ではない。
「どうしよっ……」
このまま逃げ続けたってどうにもならないのは重々承知だ。だからと言ってこの状況を打破する作戦なんて思う浮かばなかった。
数分経って、ひたすら駆け回るのもいい加減に限界を迎えてきた。足がもつれてきた。
「はあっはあっ……」
身体強化魔法はあくまで筋肉を強化し、運動能力を一時的に高めてくれるだけなのだ。別に、体力が上がったりはしない。
「まっ、まだ、あの子たちの方がっ……マシっ」
思い浮かべるは、あの動く家具たち、メルタの友達のような家族のような子たち。あの子たちとはメルタが勘違いしていただけでおおむね最初からいい関係を築けていた。あの子たちがどうしてメルタと仲良くしてくれるようになったのか、一度だけ聞いたことがあるのを思い出した。
曰く、創造主たるヘルーテさんから居住権を獲得したから。
ヘルーテに負けじと応じたことで家具たちはメルタを上下関係で、上位に据えたのだ。
魔物たちだって同じ。強いものには従い、弱いものに牙を剥く、強弱肉食の世界だ。
しかし、メルタはやらかした。ラーオルグにびびって背を向けて逃げ出したのである。もちろん、ラーオルグは本能でメルタを追いかけた。そして完全に捕食対象として認識しているであろう。
加えて、トラウマと化している魔獣に追いかけられてメルタはキャパオーバーしている。ぐるぐるといろんなことが頭を巡って、混乱状態だ。
「ああ、もう!自由に飛んで逃げられたらいいのにっ!」
現実逃避気味にそんなことを叫んでみる。飛行魔法も箒がないんじゃ使えないのだ。
けれどメルタの頭の中で何かが閃いた。
「たっ助けてーーーーー!絨毯くーーーん!!」
メルタは大音声で友だちの名を叫んだ。




