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帰還


 丸一日にわたる鬼ごっこを終えたその日の夕方。メルタはルリィがヘルザによって逆さ吊りの刑にあってるのを眺めながら王宮へ向かって飛行していた。夕方なので大急ぎで帰らなければいけない。

「へ、ヘルザさん。わたしそろそろやばいです、めちゃやばです」

「ああ?なんか言ったか」

「ヘルザさん、そろそろ戻してあげてもいいんじゃ……」

「ちっ、仕方ねえな。十秒止まってやるから自力で起き上がれ」

「えっ、このミイラばりのぐるぐる巻きの状態で?」

 メルタもそれは不可能なんじゃないかと思った。

「いーち、にーい」

「わわわ。ぎゃうー!ぐあー!」

 ヘルザがホバリングし、十秒数え始めた。

「ごーお、ろーく」

 唯一の救いとしてはゆっくりめのカウントというところだろうか。ルリィも腹筋の要領で起きあがろうと頑張っている。

「なーな、はちきゅうじゅう!」

「大人げなっ……きゃああああああああああ!」

 ルリィがもう一踏ん張り起き上がれるというところでカウントスピードを上げて急発進。メルタはルリィの悲鳴の残響を聞きながら、ヘルザの後をついていったのであった。




「ルリィ!貴様という奴は、勝手に新人を連れ出した挙句、街で騒ぎを起こし、あまつさえ平和の像を壊すとはどういうことだ!」

 本当にどういうことだ??と、王宮のアベルの執務室に着いてからの第一声に混乱するメルタ。何も聞かされていなかったので、状況把握ができないが、どうやらヘルザから逃げるに当たって問題を起こしたらしいということは理解できた。

「で、でも、窃盗犯は捕まえましたよ……?」

「貴様の不注意で魔道具を盗まれ、その犯人を捕まえたのだろう。情状酌量の余地はない。よって貴様に三日間の謹慎処分と給料から平和の像の修理費を引く処分を下す。いいな?そしてメルタ」

「はいぃっ」

 低い声のまま話しかけられて、ぴんと背を伸ばす。

「ルリィに無理に連れ出されたとは言え、無断で外泊することは許されないことだ。なぜならば、魔術師はあらゆる事態に対応するため、本拠地である王宮で備えなければならないからだ。よって二日間、団長から課されている魔道具作りに関する作業の一切を禁ずる。いいな?」

「はい……申し訳ございません……」

 深く頭を下げて謝罪するメルタを見てアベルは深く溜息をついた。

「全く、魔術師たるもの、常に己を律し、万事に備え、国の宝である国民を守ることに全力を注ぐべきなのだ。メルタ、貴様にはその覚悟が足りん。ルリィ、貴様も魔術師でないとは言え、魔術師団に身を置く以上、節度ある行いを心掛けろ。何度言ったらわかるのだ」

 ルリィさんって魔術師じゃないんですか?!と叫びそうになるのをどうにか堪えて、表情もなるだけ平静を心掛けたが、アベルにぎろりと睨まれてしまった。

「申し訳ございません、アベルさん。俺の指導不足、監督不行き届きです」

 ヘルザはメルタとルリィを庇うように一歩前に出て、頭を下げた。

「……そうだな。新人の指導は貴様が行うべきことだ。ましてやあいつの弟子だ。よく見張っていろ」

「了解しました」

 ……やはり、団長や国王様に魔術師団の一員として認められたとは言え、そう簡単に信用を得られるものではないのだろう。

 そう思ってメルタはしょんぼりとしていると、アベルが咳払いをしてこちらを先ほどより和らいだ眼差しで見遣った。

「今度からは気をつけろよ。もう下がっていい」

「はい。失礼します」

 ヘルザが礼をして退室したのを見倣って同じようにメルタとルリィはアベルの部屋から退出した。



「あ゛ー疲れた」

 ヘルザは自分の部屋に入るや否や、質の良い革張りのソファーに身を沈めた。

「たっく、もうやんなよ。お陰で仕事が溜まったじゃねえかよ」

「本当に申し訳ありません!ヘルザさん」

 メルタは謝罪の言葉と共に九十度よりも深い角度でヘルザに頭を下げた。

 もとはといえばルリィが悪いが、メルタもノコノコ付いていったのも悪い。

「ちゃんと謝れて偉いな、メルタ。なあ?ルリィ?」

「も、申し訳ないのです」

「おう。それで良し」

 にかっと笑ってくれるヘルザに申し訳なさが募る。

「あのなあ、メルタ。俺はメルタの教育係で先輩な訳だ。だからてめえの不始末は先輩である俺がきっちり片をつけてやる。その責任が俺にある。もしそれが申し訳ねえって思うんだったら一人前になって自分の不始末は自分で片をつけられるようになりゃあ良い」

「ヘルザさん……!」

 ヘルザさんてなんていい人なんだろう、ヘルーテさんとはやっぱり天と地ほども違う。

 感動しながら、もう一度感謝の意を込めて頭を下げた。ヘルザは笑って頭を上げるように言ったので頭を上げる。

「今日はもう遅いからさっさと食堂行って飯食って寝ろ。明日はメルタはここにきて俺と書類仕事を片付けてもらう。ルリィはアベルさんに言われた通り、自室で謹慎。いいな?」

「はいっ。よろしくお願いします」

「了解なのです」

 メルタとルリィは揃って礼をしてヘルザの部屋から退出した。


「いやいやあ、災難でしたねえ。今度はバレないように行きましょうか?」

「いや、二度としないですよ?!何言ってるんですか?!」

「あはは、ちょっとしたジョークなのですよ……」

「本当ですかね?」

 アベルが話していた限りでは常習犯のようだったが。

「でも、ルリィさん、魔術師さんかと思ってました。違ったんですね」

「よく勘違いされてしまうのですよ。実際に国民のかたでもわたしのことを魔術師だと思ってる人は大勢います」

「そうなんですか。あれ、でもルリィさん、いろんな魔法使えますよね?」

「ああ。メルタさん、魔法陣ってご存じなのです?」

「はい、ヘルーテさんに教えてもらいました」

「わたしがいろんな魔法が使えるように見えたのは、体のあちこちに仕込んだ魔法陣を発動させていたからなのです」

「そうなんですか?!」

 あんな手間のかかる魔法陣を体のあちこちに仕込むなんて気が遠くなるような作業だ。

「わたしは魔術師ではなく、付与師なのです。付与師は魔法陣を道具に付与して魔道具にするのです。魔法陣を使えばいろんな魔法を使い放題ですし、なんなら新たな魔法を作ることだってできる!素晴らしいでしょう!?」

「僕も素晴らしいと思います……」

 魔法陣で作った新たな魔法を魔術師特有の特別な魔法だと言い張っているメルタはちょっと後ろめたかった。

「今わたしが研究しているのは、魔法陣の簡略化なのです!魔法陣作成の手間を減らすことができれば、魔道具の供給量も増えるはずなのです!」

「な、なるほど……」

 ルリィの熱意に押されながらの魔道具談義は、場所を変えつつ深夜に及んだ。そして偶然通りかかったヘルザの早く寝ろ!と怒鳴られたのは別の話。

 


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