その頃のルリィ
ルリィサイドのお話です。
下町調査でロロンまできて魔力を使い果たしたメルタと元気いっぱいなルリィは今日はもう帰るのには遅い時間帯だったので、図々しくも魔道具やら何やら貸してくださった店主の家に泊まらせていただくこととなった。
「無断外泊って良いんですかね……?」
「置き手紙を残してきたから大丈夫なのですよ、多分」
「多分て……」
どきどきの外泊を終えた朝、店主にお礼を言っていざ帰ろうとしたときだった。
「そこに居たかてめえらぁぁっ!」
「ぎゃー!」
怒号を上げて走ってきたのがヘルザ、それに女子らしくない悲鳴で応じたのがルリィだった。
そこで平謝りすればよかったのだが、鬼の形相で走ってくるヘルザを見てルリィは一目散に逃走した。
「逃げてんじゃねええええぇぇぇっ!!」
ばっちり火に油を注がれた様子のヘルザは目を鋭角に吊り上げ、更に速度を上げる。そしてその速度のままメルタの眼前を走り抜けていった。
「待てごらああああ!」
「やー!」
響き渡る怒号と悲鳴に何だ何だとどよめく朝の観光地。人の多いこの街の真ん中で鬼ごっこを繰り広げているルリィとヘルザは注目の的だった。
きゅっと踏ん張って角を折れながら上司であるヘルザの様子を横目で伺う。
わあ、激おこだ!
呑気にそんなことを思いながら、スピードアップ。
こうなったら捕まるわけにはいかないのだ。捕まってしまったが最後、アベル&ヘルザからの説教と大量の反省文が待っている。
そんなのは嫌だ!
わたしだっていい大人、いい加減にお説教とかやめてほしい、だなんて思っているが、そもそも調査のためとは言え仕事を放り出して王宮を抜け出すことが子供っぽいことに彼女は気づいていない。
「ふわあっ?!」
何度目かの角を曲がると突然目の前に小さな男の子が現れた。
「『フロート』!!」
咄嗟に浮遊魔法を使い、地面を蹴って浮上。その勢いのままくるっと三回転。地面に着地するため魔法を解除、そしてびしっと着地を決めた。
「おねえちゃんすごい!」
「えへへ、それほどでもなのです〜」
衝突を回避した男の子から拍手つきで褒められて、頬を掻いて照れる。
「ってそんな場合じゃないのですっ!それでは少年、お達者で!」
「あっおねえちゃん、まってー!」
少年の声はルリィの耳に届かず、再び走り始めた。
「ふうっ。ちょっと休憩、なのです」
ヘルザからそれなりの距離を取ったところで、速度を落とし歩きながら、乱れた呼吸を整える。
「およ?よよよ?」
女の子の嗜みとして髪を整えようとポッケに入ってるはずの手鏡と櫛を探すが、無い。ついでにメルタからもらった無限巾着袋もない。やばい、とにわかに慌てて身の回りを見渡しても、服についてるポケットというポケットをまさぐってもどこにもない。
さあーっと顔が青ざめるルリィ。それもそのはず、無限巾着袋の中には、昨日の街の人々から聞いた内容をメモしたものを元にして夜な夜な作った魔道具の試作品がある。もし良からぬことを企む者の手に渡り、悪用でもされたら……王宮を抜け出した所の問題ではない。
ヘルザにこの問題がバレる前になんとかしなくてはいけない。怒られるで済む話ではないからだ。一ヶ月以上の減俸と、長期間の謹慎は覚悟せねばなるまい。謹慎、謹慎ということはルリィの大好きな魔道具の製作が出来なくなるということである。長い間魔道具の製作が出来なくなってしまったら、ルリィには発狂してしまう自信がある。なので本当にそれだけは避けたい。
だから、なんとか早いうちに回収しなければならないのである。
「とりあえず、道を戻って……およ」
くるっと振り返ると二つの分かれ道。きっと自分はどちらかからは来たのだろう。ルリィはそうは思ったが、それがどちらかまではわからなかった。そして周りをもう一度見渡す。
「およよよ??」
なんということだ、現在地もわからない。
ルリィ、まさかの迷子である。




