下町調査inロロン〜
有言実行を地でいくのがルリィの長所であることは彼女を知る誰もが認めるところなのだが、いかんせん実行が早すぎる。
というわけで話し合いもそこそこにヘルザへの置き手紙を書いて、その日のうちにメルタとルリィはロロンの街に訪れていた。
ダダンの街のように中堅都市として栄えている場所だ。ダダンが商業で栄えている街なのに対してロロンは観光業で栄えている街である。
ロロンの街はしばしば花の都と呼ばれ、街道を色とりどりの可憐な花が縁取っている。
花だけでなく、建物なども美しくその景観はまさに非日常で、訪れた人々を虜にする。
メインストリートを抜けた高台には壮大な花畑が広がっている。季節によって変わる花々は心を和ませてくれる。
しかし、ロマンティックな観光名所なだけあって周りはカップルだらけだ。
「さ、メルタさん行きますよ」
「ど、どこにですか?」
ルリィは答えるどころか、この素晴らしい光景に興味を持ってすらいないようだ。
さっさと進むルリィに対して、息が上がってげっそりした様子のメルタ。
「だらしないですねえ、メルタさん」
「い、いや、ルリィさんが元気すぎでは……?」
ぜえぜえといってるメルタを見かねてルリィは一旦足を止めた。
「何をいうのです。たかだか四十キロメートル箒でかっ飛ばしたくらいでー」
「箒で長距離飛ぶの初めてなんですよ〜!」
「おやおや。ヘルーテさんはその昔、一日で世界一周してましたのでメルタさんもそのくらい飛べるかと」
「飛べないですよっ!普通!」
ていうかヘルーテさん規格外だな?!なんて心の中で叫ぶ。
「ちなみにヘルーテさんが仕事サボって世界一周してブチギレたヘルザさんとデッドヒートを繰り広げたのは今でも語り草なのですよ」
規格外な人もう一人いた……領空とかってどうなったんだろう、なんとなくアベルさんあたりが苦労した気がする。
「魔術師のみなさんはかなり長い間、距離を飛ぶのですよ〜。メルタさんもそのくらい飛べるようにならないとなのです」
嘘だろ……と若干絶望するメルタ。ちなみに飛行魔法は配達員の職業魔法なので、ヘルーテにみっちり教え込まれた魔法の一つである。
ようは使い慣れていない魔法をフルスロットルで使ってものすごく疲れているのである。帰って寝たくなってきたが、帰るにしても、そのためにまた飛ばなくてはならないことを思えば憂鬱すぎる。
「もうちょっとなのですから胸張ってシャキシャキ歩く!」
激励を受けながら重い足をなんとか運び、ルリィの目的地に着いた。
そこはよく言えば趣ある、悪く言えば古ぼけた小屋のような店だった。しかし街の美しい景観を損ねることなく見事馴染んでいる。
古びてはいるが、清潔感のある店内にルリィが入ってくのを見てメルタも続く。
「こんにちは〜」
「やあ、お嬢ちゃん。今日はなんのようだい」
店主だろうか、どうやらルリィの顔馴染みのようで楽しそうに言葉を交わしている。
店主は人当たりの良さそうな初老の男性で少しだけ難しい顔をしながらルリィの話を聞いている。
というかここ何の店?と疑問の芽がすくすく育っているメルタは好奇心を抑えつつ、店内を見渡してみる。
お店に外見と変わらぬような雑多のものが棚に押し込まれている。どことなくヘルーテやルリィの作業場を連想するメルタだが、それもそのはず、ここに置かれてる品々は皆、魔道具なのだ。
メルタも何回かみているうちにこれら全てが魔道具と分かり、驚嘆する。そしてチラッと値段も目に入ってしまったが、そっと伏せ見なかったことにした。
「決まりましたよ、何ぼーっとしてるのです」
「えっと、何が決まったんですか?」
「お店を出すのですよ!」
「お店?!」
ヘルーテ譲りの無茶振りというか突拍子のなさに辟易してしまう。
「お店ってなんの……?」
「阿呆なのですか?メルタさん。魔道具に決まっているのですよ」
「え、ああ、うん……?」
納得しそうにはなったものの聞き込み調査どこ行ったと突っ込みたくなる。
「はいはいちゃっちゃと動く〜!」
「はいっ」
質問する間もなく指示を出されたので、その通りに動く。
大きめのテーブルを店主から借りて外の道端へと運ぶ。その上にこれまた店主から借りた魔道具をずらーっと並べる。
メインストリートに面するこの場所で外で物を販売するのは珍しいらしく、様子を伺う人や足を止めてくれる人もいる。
「さて、メルタさん。この中でおすすめの魔道具はありますか?」
「え?あっ、これ、ですかね……」
意図はよく分からないが、言われるままにメルタは指揮棒のようなものを持ち上げた。
「これは浮棒なのですね?」
「はい。これでものを二回叩くとそのものが浮くんです。解除する時は一回叩きます。これならベットの下のお掃除とか、模様替えが楽にできるんです」
もっともヘルーテの家の家具たちは自分で動いてくれるので使う場面はなかったのだが。
それなのになぜこの魔道具を知っているかといえば、この国にあるほとんどの魔道具の設計図はヘルーテが作ったものだからだ。それゆえ、メルタ魔道具を作る上でヘルーテからほとんどの魔道具の設計図を教えてもらっていたのだ。
「それは便利なのですー。実際に使って見せてください」
「はい」
こくんと頷いて近くにあった小石を浮き上がらせる。
「もっと大きなのは?」
「じゃあこのテーブルを」
さっき店主から借りて上に魔道具が並べられているテーブルを指差した。
小石同様、コンコンと叩いて浮き上がらせる。
水平を保ったまま浮き上がり、その上にある魔道具は揺れもしない。
その様子に足を止めていた人たちは驚いてるようだった。
「これの素敵なところは魔力チャージ式のところなんです。余裕のあるときにチャージしておけば、魔力の足りない時にも使えますし」
「たしかに。数ある魔道具の中でもチャージ式のものは少ないのです」
一回だけテーブルを叩くと静かに元あった場所へと着地した。
「いやあ、魔道具っていうのは面白いのです!どんどん違いのも使ってみましょう!」
ルリィの宣言の後、メルタはちょっとずつできてきた人だかりに向かって片っ端から魔道具の説明をしつつ、実演してみせた。
テーブルの上に置かれた魔道具を全て実演し終わる頃にはルリィはすっかり集まってきた人たちと打ち解けていた。
一方メルタは魔力が空っぽになり疲れ切ってお店の前の段差に腰かけ、ぐでらーとしていた。
「実は私たち、付与師の卵なのです。それで師匠から魔道具作りの課題を出されてるのです。こんなのあったら便利だなぁっていうのないですか?」
「あー」
「つってもなぁ……」
「んー」
「なんかないのですー?」
反応は芳しくない。というかどこか諦めているようなところも伺える。
「んなこと言ってもよー、オレらじゃ魔道具なんてとてもじゃねーが買えねえんだよ。欲しいもんを考えるだけ考えても実物ねえんじゃあ、虚しいだけだしな」
「そりゃそうだ。結局オレたちにとっちゃ夢物語だろ」
「そうよねえ。魔道具を使えるのは仕事でたまになくらいだし」
「魔道具っつーのはさ、魔術師さまとか貴族さまが使うもんだろ?昔はともかく」
「昔はねぇ、家に一つはあったわねぇ」
「…………あはは。たしかにそうなのです」
ひどく乾いた笑い声とかすかに強張った笑みは少し痛ましかった。
メルタはその表情がとても気になったが、人に囲まれているうちは声を掛けられそうにないので、あとで聞こうと決意する。
立って会話できるくらいには回復したメルタはルリィの隣に立って話を聞く。
「メルタさん」
ルリィに小声で話しかけられて何ですか?とジェスチャーする。
「あの魔法、魔道具を作る魔法を使ってください」
「はい?」
僕、魔力空っぽですけれど?さっきので使い切りましたけど?と思いきり何言ってるんだ??という顔をしてみるが、スルーされる。
「簡単なのしか作れないですからね?」
「だいじょぶなのです」
ジト目で念押ししてから、今から作る魔道具をイメージする。そして魔力を込め唱えた。
「『ウェポンメイク』!」
ぽんと可愛らしい音を立てて、メルタの手の上にペンが現れた。
「は?何でただのペンなのです?」
キレられた。だから簡単なものしか作れないと言ったのに……
「ただのペンじゃないですよ。インクを使わないペンなんです。インク代わりに魔力を入れるんです。そうすると好きな色で文字が書けるんです。いちいちインクつけるのって割と手間ですし……もちろん、普通のインクもつけられます」
「ほうほう」
「『ウェポンメイク』!」
今度はインクが現れた。
「これをさっきのでペンにつけると……」
空中にすらすらと文字が浮かび上がった。
「空中に文字を書けるインクで消す時は手で払うと簡単に消えるんです」
「兄ちゃん、すげえな!」
「あんたなんでも作れるのか?」
「え、あ、簡単なものでしたら…………」
「じゃあじゃあ!」
集まった人々から我先にと、次々に作って欲しい魔道具を言われる。ルリィはいくつかメモをとっている。抜け目ない。
メルタの魔力が尽きてぶっ倒れたところで今日はお開きとなった。




