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何を作る?


 無駄に上手い鼻歌が作業部屋中に響き渡る。

 その主はヘルーテ非公認の一番弟子兼メルタの指導役、ルリィである。

 ヘルーテさんもよく何か口ずさんでたなぁ、何の曲かはわからなかったけど……とくるくると動き回るルリィを呑気に眺めているメルタ。

 非公認とはいえ、ヘルーテの一番弟子のルリィは所々がヘルーテに似ている。そのせいなのか、なんだかメルタは安らぎを感じてしまうのだった。

「へいへい!メルタさん!なにをぼけーっとしてるのです!参考文献なのですよ!」

「うわっ!」

 どさどさっと積み上げられたのは魔道具についての本ばかり。

「聞いているのですよ、ヘルザさんから」

「へ?」

「惚けないで欲しいのですー!あの団長から課題を出されているのでしょう?!」

「あ、はい!」

「なかなかの難問とお見受けするのです。なんてたって国民の暮らしを楽にする魔道具づくり!腕が鳴るのですよー!」

「そ、そうですね!」

「しかもメルタさんは魔道具を作る魔法をお持ちなのですよねー!羨ましいのですー!」

「……ありがとうございます」

 偽造の物なので堂々とするのは憚られる。

「そしてみたのですよー!このブローチ!」

「えっ、それって……」

 ルリィが持っていたのはメルタがお披露目した思い出しブローチだった。

「すごい性能なのです。めちゃくちゃ高度な魔法が組み込まれているのにそれを一個の魔法から成立させるとは驚きなのですよ!正に天才なのですねー」

 天才……その言葉を聞いてそれは僕には相応しくないとメルタは思った。

 魔道具を作る魔法、それを思いついたのはメルタでその基となるものを作ったのもメルタだ。しかし、ヘルーテの大きなアドバイスがなければ決して完成しなかっただろうと思うと、天才という言葉は身に余りすぎていると思うのだ。


「わたしは天才なんかじゃないのですよ、だから努力するのです」

 そのつぶやき声には小さく、メルタの耳には届かなかったが、強い意志が込められていた。



「メルタさん!特別な魔法について何個かお聞きしたいことがあるのです!いいですか?!」

「大丈夫ですっ」

 どんな制限があるのか、魔力消費量とか、魔道具の規模とかを根掘り葉掘り、微に入り細を穿つように聞いてくる。すぐに答えられるものもあれば、なにそれ知らないという感じのものまでだ。

「なるほどなるほど。なんでもできるスーパーな魔法にはほど遠いようなのですねー。むしろ、そのくらいの制限があって当然と考えるべきなのでしょうけれど」

 顎に手を当て色々思案しているようだった。

「ところでメルタさん、何か案はないのですか?」

「案?」

「どんな魔道具を作るかの案です。最もわたしたちは、設計図とモデルを作ってそれを一般工房に作ってもらう形になるのです。メルタさんの魔法があればモデルの方は簡単に出来そうなのです」

「なるほど……」

「それで?あるのですか?」

「えっと、なんとなくなんですけど……」

「なんでもいいのですよ?」

 やや尻込みしている様子のメルタをルリィはせっつく。

「さすがに一家に一台、みたいなのは不可能だと思うんです」

「そりゃそうなのです」

「だから地域単位でっていうか、そのう、なんだろ……」

「はっきりしやがれなのです」

「すみません、なんか言語化が難しくて……」

「わかりました。じゃあ今日はその辺をまず詰めてあわよくばメルタさんの魔法でモデル作りまでです。いいですね?」

「はいっ」

 机の上に目一杯本や資料を広げながら、ああでもないこうでもないと顔を突き合わせて議論する。

「まずですね、今困ってることを考えるべきだと思うのですよ」

「困ってること?」

「生活をしていて苦を感じることを解消すればいいのですから、困ってることを片っ端から上げてけばそれに対応出来る魔道具も作れるってわけですよ!」

「ルリィさん、天才!」

 天才、という言葉をメルタは発したと同時にルリィの視線は冷たくなりまるで蔑むかのようなものだった。

「天才じゃなくともこのくらいは思いつけるのです。軽々しくこのくらいのことで天才とか言わないでもらっていいのです?」

「ご、ごめんなさい……」

 ルリィの中で天才というのは特別な言葉だったらしい。軽率に使うのは彼女にとっての地雷なのだろう。

「いいのですよ!」

 とても怒っているのかと思えば今度は笑顔だった。情緒不安定すぎて怖いが、なんかヘルーテさんもこんな感じでよくテンションが狂ってるっけとまた共通点を見つけてしまう。

「話は戻るのですが、困っていることを片っ端から上げるとは言ったものの、魔術師は貴族扱いになるので身の回りのことはあんまりしないのです。だから、聞き込み調査に行きますよ!」

「聞き込み調査って……どこに?」

「決まっているでしょう?下町です」

「え、行っていいんですか?!」

「仕事としてですからー。メルタさんも一人前の魔術師になったら自分の領地を視察しに行かなきゃなのですよ」

「あっ……」

「まさか忘れてたのですか?」

「…………」

 図星だったのですいっとメルタは視線をルリィから外す。

「ま、だからですね、行きますよ!聞き込み調査in下町ロロン〜!」

 本当にさっき怒ってたのはなんなんだというくらいの陽気さで宣言したのだった。




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