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家出少年

 


 場所と時は移ろい、人里離れた荒野。獣一匹、どころか草木も生えぬ不毛の土地にたったひとつ、この風景に全く似つかわしくないファンシーなレンガの家があった。

 そんな辺境に住んでいるのは一人の魔術師だった。


 魔術師は容姿端麗な女性で、宵闇を溶かし込んだような色の艶やの髪は腰ほどまで無造作に伸びている。たおやかな腕はノースリーブによって惜しげなく晒されている。しかし細く長い脚は怪我でもしているのだろうか、包帯で巻かれていた。

 そしてぐだぁっと、ソファーに寝っ転がって本を読んでいた。折角の美人が台無しになりそうな姿勢だが、意外と様になっている。これは見目麗しさから来るものではなく、昔からの習慣が貫禄を生んでいるのだった。




「仕事したくないなぁ。仕事しなくても生きていける方法ないかな、できれば無料で」

 何やらクズなことをぼやきながら、本を読み進めていく

 そもそも依頼されている仕事すらしないでいる上での発言である。


 そんな魔術師が読書をしているとドアをノックする音が聞こえてきた。

「トントントトトントトトントン」

「いやなんでリズミカルに……誰だろう。誰も来るはずないんだけど。クズでぼっちの私に尋ねてくる人なんていないはずなのだけれど……あ、自分で言ってて悲しくなってきた」

 そう言いつつ、無視を決め込むことにした魔術師はソファーのクッションに顔を埋める。



「トトントントトントントントントントントトントントトン」

 魔術師は無視する。

「トントトントトトントントントントトトントトントトントントントントントントトントントントトントトントントン」

 魔術師は無視する。

「トトントントトントトントトントトントントトトントトントントトントトントトントントントントトントントトントトントトントトントントトントトントントトントトントトントントントン」

 魔術師は無視する。

「トントントントントントトトントントトトン」

 魔術師は無視する。





 その攻防も十分ほど続いたところで、魔術師が折れた。

 というかキレた。

「あーもううるさいっ!ずっとノックし続けるとか正気なの?!」

 魔術師は魔法で浮遊し、ノックされ続けてるドアを思いっきり開けた。

「誰?!」

 外開きだったため、ノックし続けていた犯人は勢いよく開いた扉を避けようとして尻もちをついていた。

 根気強くノックをし続けていたのはそばかすの目立つ、ボロボロな服装の少年だった。

「え、えと、ぼ、ぼきゅ……僕はメルタ・クリスチルでしゅっ!ここに置いてくれさい?!」

「何言ってんの?」

 魔術師は噛みまくりのセリフに呆れる。

「僕はメルタ・クリスチルです。ここに置いてください!」

「嫌です。さようなら」

 メルタが言い直した甲斐なく無情にも断られ、魔術師はそそくさと家の中へ戻ろうとした。

「待ってください!お願いします!ほかに行くところがないんです」

 扉にしがみついて閉じないようにする。

「へえ」

「へえ。って酷くないですか?!」

「私は自他ともに認めるクズだからね。少年が路頭に迷おうがこれっぽっちも心痛まないのだよ」

「ひどい!」

 メルタは人間じゃないよ、この人〜!と心の中で叫ぶ

「一応人間だからね?クズなだけだよ?」

「心読まれたっ?!」

「いや、表情丸出しだし。ほら帰った帰った。ほかに行くところがないとは言っても、おうちの方が心配するでしょ?家に帰りなさい」

「僕はもう成人したんです!それにあいつらは僕のことを心配なんてしません。そんなとこに戻りたくないんです。お願いですからここに置いてください!」

 ぞんざいにあしらわれるがメルタは食い下がる。

「成人したのなら尚更だろう?十六歳で成人したら魔法適性に則ってギルドで働き始めるんだから」

「で、弟子入りでもいいはずでしょ?!」

「……弟子入り?ここに?」

「はい!」

元気いっぱいのメルタにウンザリした表情で口を開く。

「……私はヘルーテ・シュバイツ。世界最悪の大罪人って呼ばれてる。そんなとこに弟子入りしてとって食われても文句言えないよ?」

 ……

 沈黙がぴったり六秒。

「ふええええええええ?!とって食べられちゃうんですかー?!」

「え、そこ?」

 この子、天然?天然なのかな?とヘルーテは思った。


「いやー!やっと家から出られたっていうのに道に迷うし、着いた先は世界最悪の大罪人の追放先ってそれもう終わったじゃないですかー!それこそ仰る通りとって食べられちゃうじゃないですかー!嫌だ、そんな最後嫌だぁぁぁぁっ」

「ちょっとちょっと落ち着いて?!とって食べないから!言葉の綾だから!おねーさん困るのだけど!」

 大音声で喚くメルタに負けないほどの大声で怒鳴れば、びっくりした表情で黙った。


 黙ったのを確認して、ため息を吐いてから尋ねた。

「良ければどうやって街から遠く離れたこの何にもないところに迷い込んだか教えてくれる?」

「え…ええと、怖い顔の優しい盗賊さんがこっちに来れば人がいるって教えてくれたんです」

 コワイカオノヤサシイトウゾク……?

 予想外のパワーワードに目を白黒させる。

「本当に優しい盗賊さんだったの?」

「はい。悪い人からしか奪わない盗賊さんらしくて、ニコニコしながら教えてくれました」

「じゃあ君は何も奪われなかったわけだ?」

「はい!お礼に銅貨を四枚ほど差し上げましたけど」

 天然通り越してお人好しか、この子!

 と、目の前の少年に不安を覚えたが特に追及はしなかった。



「まあ、君がとってもいい子っていうのはわかったよ」

 開けている扉に寄り掛かりながら、如何にもめんどくさそうに話す

「じゃあここに置いてください!」

 ヘルーテの面倒くさがっている雰囲気を丸っと無視して元気良く言葉を返す。まあ、空気を読んでいないだけだろう。

「え、その話に戻るの?世界最悪の大罪人だよって教えたのにその話に戻るの?」

「世界最悪の大罪人さんのとこでもいいです。とって食べられないなら」

「君、ハート強すぎない?とって食べられなくとも、ひどいことされるかもよ?」

 そこでメルタはハッとした表情になった。

 え、今気づいたの?!とヘルーテは流石に驚きの表情を隠せないでいた。

「世界最悪の大罪人さん、ひどいことするんですか……?」

「ひどいことするから世界最悪の大罪人なんだけど……」

「確かに!」

「あのねぇ、流石に危機感が無さすぎると思うのだよ。優しいからって簡単に盗賊さんを信じちゃダメだし、犯罪者のとこに弟子入りしたら逮捕されちゃうしー」

世界最悪の大罪人でも真っ当なことを言うらしかった







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