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歓迎会!!


 フュールとヘルザに先導されて歓迎会会場と張り紙された広間に入る。

 何度見てもこの絢爛豪華な広間には心を打たれる。

 ヘルザが運び入れたテーブルの上にはティーポットとお菓子がずらり。そして歓迎会とカラフルに書かれた大きな張り紙。その周りには色とりどりの花が飾られている。


 見渡すと国王様と魔術師団団長をはじめとする魔術師団のメンバーが勢揃いしていた。

 この国、否、この世界屈指の実力者たちが揃うと流石に壮観である。


 あれ?ヘルーテさんがいる……なぜ?


 トロイメン団長の隣でぶすっとむくれた表情で手錠がかけられている。

 ……手錠?!

 何をしでかしたんだあの人!


 ヘルーテが一体何をしでかしたか、とハラハラしているとトロイメンが皆の前に出てきて歓迎会の挨拶を始めた。

「この度は新たな魔術師を我が団に迎え入れることが出来たこと、大変嬉しく思う。あとは各々、新入りを存分に可愛がってやるが良い。以上じゃ」

 拍子抜けするほど簡潔にまとめると、団長は下がり、メルタの周りに魔術師がずらずらっと集まった。


「あなた、度胸あるのね。気に入ったわ。わたしはハルツィナ・ツィオーン。よろしくね」

「はいっ、よろしくお願いします」

 白い肌にシュッとした輪郭、周りを彩るのは肩まで垂らした柔らかな温かみある桃色の髪。大人のおねーさんという感じで色香を放っている。

 ヘルーテとは別ベクトルの美しいおねーさんになんだかドギマギしていると、間髪入れずにフュールが口を開いた。

「ほんとメルタさんはトロイメン団長にも物怖じせずお話しできて羨ましい限りです…………」

「いえっ、つい口に出ちゃっただけで…………」

「ついだと?ついで貴様は団長の決定に口を出したというのか?そういうところはヘルーテに似ているようだな」

 アベルの冷たい物言いに落ち込むが、そこに頼れるヘルザおにーさんが入ってきた。

「副団長。メルタはいい奴なんすよ。なんてたってあのヘルーテの面倒を一年以上も見続けたんですから」

「「「「「……………………………………」」」」」

 矢継ぎ早に話しかけられて困惑していると、ヘルザが助け船を出してくれたようであったが、その場が静まってしまった。

「…………それは貴重な人材かもしれん」

 あれっ?ヘルーテさんの面倒見るってそこまで重宝されるスキルなの?

 沈黙の果てに出されたアベルのセリフに驚きを隠せない。

「そうね。あの天邪鬼で悪戯っ子なクズの面倒をたった一人で見れるなんて相当の精神力のはずだわ」

 重々しく頷くハルツィナ。

 ヘルーテさんは一体何をしでかしたんだろう。僕の勝手な勘だけれど、絶対大罪の他に色々やらかしてるよね?

「で、でも、僕もヘルーテさんには振り回されっぱなしで……」

「それでもすごいと思うぜ。俺なんか一日見るだけでも耐えられない。ぶん投げる」

 と自信たっぷりに話す、ヘルザ。よほどヘルーテが嫌いらしい。

「ああ。ヘルザさまとヘルーテさまは犬猿の仲ですものね」

 鈴の転がるような声が響き、メルタがそちらの方を向く。

「あら。自己紹介がまだでしたわ。わたくしはフロイデ・フォーゲルと申しますの」

 そう言うとドレスの裾を摘んで深々と礼をした。慌ててメルタも深々と礼をする。

 起き上がって、あらためてフロイデの容貌を見た。

 お人形のように可愛いらしい女性で、たまご型の輪郭にぱっちりお目目に肩で揃えられた金髪だ。

 見覚えがないので、さっきまでいなかった人の一人だろう。

 きっとお忙しいところだったろうに、僕のために申し訳ないな……とメルタは思った。

「先ほどはお目にかかれず、申し訳ございません。ちょうどお茶の時間でしたの」

「はい……?」

 お茶の時間??

 あっ、あれかな?お客様のお相手をしてらしたのかな?

「全く、マイペースにも程があるぞ、フロイデ」

 ジト目でアベルがフロイデを見やる。当の本人はけろっとしてそうかしら?と顎に手を当てている。

 き、きっと大切なお茶だったんだよね?とメルタは思うことにした。

 あれ、そういえば魔術師団にはあともう一人、いるはずだけれど、姿が見えないな。

 疑問に思って失礼にならない程度に視線を動かす。

「そういえば、アイヒルフェンはどうした?」

 メルタのその仕草に気づいたわけではなかったが、アベルも魔術師団の最後のメンバーがいないことに気づいた。

「あの人ならわたしが呼んできたわよ。来てない?」

「来とらんから言っておるのだ。全くどいつもこいつも……」

「いや、アベルさん。アイヒルフェンさんはヘルーテのとこいます」

「アイヒルフェン!こっちに来ないか!」

 冷静にヘルザが場所を伝えた直後、アベルは鼓膜を轟かすような大音声でアイヒルフェンさんを呼びつけた。

「うるっさいなああ!。そんな大声じゃなくても聞こえてんよ!」

 負けず劣らずの大音声で返事をするのはアイヒルフェンだ。

 メルタも大声をする方を見た。

 メルタと同じくらいの歳、いやそれよりも幼く見える少女がいた。白と黒の色が混ざっている珍しい髪をショートカットにしていて、一応ドレスコードは守ったぞ、と言わんばかりのカジュアルな服装である。

 そんな彼女はズカズカ距離を詰めてきた。右手にはヘルーが引き摺られている。

「大体にしてアベル、先輩に向かってその口の聞き方はなんだぁぁぁあ?」

 え、先輩?

 誰が?アイヒルフェンさんが?誰の?まさかアベルさんの?

 …………魔術師団は上の役職に行くに従って外見年齢が下がるのかな?

「なんだ、と言われても、あなたが敬語じゃなくていいと言ったんじゃないか」

「それはそれえ!後輩は先輩の機嫌を損ねたら謝りゃーいーの。おっ、お前がメルタ?ヘルーテめ、こーんな可愛い奴捕まえていやがったのか。許せねー、絶許だ、絶許!」

 いきなりアイヒルフェンの興味がメルタに移った。そしてほっぺを摘んで伸ばしたり縮ませたりする。

 だいぶマイペースな方のようだ。

「いひゃいれす、はらしへくらさい」

「あの、アイヒルフェンさん、離してあげてください」

 !?

 ヘルーテさんが下手に出て喋ってる!?

 国王様の前でも不遜な態度をとっていた人と同一とは思えない腰の低さだ。

 あまりの衝撃にほっぺの痛さを忘れたが、アイヒルフェンが最後に惜しむように、みにょーんと引っ張ったので我を取り戻した。

「ふう。んでメルタ、誰の下につくことにしたんだ?」

「え?」

「おいおいおい!誰も説明してないのかよ!」

 大袈裟にずっこけるような仕草をするアイヒルフェン。そのテンションの高さにメルタはまだついてけない。


 そんな中、アベルがやれやれと言わんばかりにメルタとアイヒルフェンの間に入ってきた。

「今から説明しようとしていたのだ。けれど、あなたがいないから…………」

「言い訳なんか聞いてないっての。ふーん、決まってないならあたしが…………」

「ちょっと待ってください、アイヒルフェン」

「なんだよヘルーテ?お前はこの後うちに帰るんだろ?だったら別にカンケーないじゃん」

「それはそうですけれど、彼は私の弟子なのですから私の元で魔術師の仕事を教えるのでも良いのではないでしょうか」

「どこをどう考えても良いわけないだろ!メルタが大罪人なんぞの思考に染まんねーように保護しないといけないんだからよ」

「私は改心して、社会復帰するために弟子を取ったのですよ?アイヒルフェンさんはそれを邪魔しようと言うのですか」

「そーだよ!大体にして、団長にもダメって言われたろうが。鳥頭か」

「だめかどうかは試してみてからでもいいのではないでしょうか」

「どっからそんな発想が出てくんだ。十四年間も閉じ込めてたら馬鹿になったのか?」

 憐れみの目を向けるアイヒルフェン。

 それを睨み返すヘルーテ。その視線からは僅かに恨みが浮かんだ。が、それは一瞬のことで、近くにいたアイヒルフェンでさえも気づかないほどだった。

 けれど険悪な雰囲気には変わらず、場が静まり返る。


「お主ら、歓迎会じゃというのに何を喧嘩しておる。ほれほれ、仲良くせい。フュール、余興係じゃったな。何かやれ」

 静寂を破ったのは呆れた様子のトロイメンだった。

 投げやりに言うと、険悪だった空気は和み、フュールに視線が集まった。


 フュールはダラダラと汗をかいて顔は青ざめている。

「え、ええ、えええっと……」

「フュールくーん、はーやーくー」

「あわわわ」

 ヘルーテが急かすとより一層慌て始めた。

「瓦割りとかしたらどうだぁ?」

 ヘルザも一緒に囃し立てる。

「そんなのはゴリラの君にしかできないよ」

「んだとごらあ!」

「やめろ、ヘルーテ、ヘルザ!」

 喧嘩に発展しそうになるのをアベルが止める。アイヒルフェンやトロイメンはそんなのはいつものことだとお菓子に手を伸ばす。ハルツィナとフロイデは和やかに歓談。

 マイペース集団か、魔術師団は!

 こんなんで統制が取れているんだろうか?とメルタが不安に思うのも無理はないほど、各々好きにやっている。

 ただ可哀想なのはフュールが元先輩であるヘルーテと現在も先輩であるヘルザにいじめられてることだ。

「ヘルーテ、ヘルザ、フュールを虐めるでないわ」

 トロイメンに一喝されて二人とも口を閉じた。

 統制が取れてる…………かなり力関係が働いてはいるが。

 ともかく後輩いびりから解放されたフュールはホッとして、直後に何も解決してないことに気付いたのかまた慌て始めた。


 うーん、なんか僕のためにフュールさんに余興してもらうのなんか申し訳ないよなぁ…………

「おやおやメルタくん、自分の持てる力で皆を楽しませたいと言わんばかりの表情だねぇ?フュールくん、非常に申し訳なく失礼なこととは存ずるが、ここはメルタくんに見せ場を譲っていただけないだろうか?」

 ヘルーテさんんんっ?!

「え、あっ、はい…………」

 あれ?あれれれれ?もしかして僕が余興やることになってる?嘘でしょ?しかも、フュールさん、了承しちゃったね?!

 ヘルーテさんっ、何そんなにこやかな笑顔浮かべてらっしゃるんですかああああ!!

 心の中で思いっきり叫んだところで、はた、と気づいた。

 これはもしかしてヘルーテさんにやり返すチャンスでは?

 メルタは持ってきていた無限巾着袋の中をゴソゴソと漁り始めた。


 目的のものに触り当たったのでそれらに合図を出した。


「えー、僭越ながら、余興をやらせて頂きたいと思います。みんな出ておいで!」

 目一杯に巾着袋を広げると、テーブル、絨毯、タンスが出てきた。

 魔術師たちは質量を無視した魔法に驚くが、それだけでは終わらない。

 出てきた家具たちはヘルーテに襲いかかった。

「は?!ちょっと君たちステイステイステイ!ぎゃあ!ちょっとなんなの!?君たちがメルタくん好きなの知ってるけどさあ、私を襲うのはなぜっ?手錠してるから避けにくっ!あいったあ!」

 ふうっ、一年前の復讐完了!

 メルタは満足げにヘルーテの悲鳴を聞いていたのだった。



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