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似たもの同士


 ヘルーテは呆れていた。

 魔術師団団長相手によくもまあ堂々と意見を言うものであると。ヘルーテとしては助かったところもあるのだけれど、その豪胆ぶりには舌を巻く。さすが十分間に渡って人の家にノックし続けた男。

 しかし、それにしても出された難題はヘルーテも頭を悩ませる。



 国民の生活をより便利にする魔道具を作り、それを一ヶ月で国全体に配る。



 抽象的な上に、一ヶ月で人口五万人のこの国全体に配るという難題付きだ。到底、新人魔術師のメルタには出来そうにない。


 私が手伝ってもいいっていうのならまだ可能性があるのだけれどねぇ、と思うが、きっとトロイメンは手伝うことを良しとしないだろう。


「お、お主が一人っきりでやるのだぞ?正直言ってできるとは思えんが」

 あの団長がちょっと戸惑ってるじゃん、と内心で笑うがトロイメンの言う通り、ヘルーテもメルタに出来ないと思う。

「やってみなきゃ分かりませんから、僕なりに精一杯努力させていただきます」

 わあー、あくまでポジティブシンキングだ、メルタくん!ていうか君ってネガティブなキャラじゃないっけ?何でそんな無理難題に意気揚々と挑戦したがるの?

 と、一瞬でそんな言葉が脳内で駆け巡る。

「……まあ良い。達成出来るとは思わんが、精々頑張れ」

 トロイメンは呆れたように首をゆるゆると振り、周りを見回した。

「ヘルーテ、いつまで居る気じゃ。早く帰れと言うとるであろう。メルタはこっちじゃ。歓迎会するぞ。アベル、ハルツィナ、いない者を呼んでこい。ヘルザは部屋を準備せい。フュール、余興を頼むぞ。さあ、さっさとかかるのじゃ」

「はい、団長!」

 声を揃えて恭しく礼をすると颯爽と己に課された仕事をこなしに行った。

 ヘルーテを除いて。




「私もメルタくんの歓迎会に参加したい!というかフロイデちゃんの歌が聴きたい!」

「大の大人がみっともなく駄々をこねるでないわ!」

 やばい、見た目四歳児が大人の女性に説教している図、やばい。

 メルタが必死に笑いを堪えていると、二人に睨まれてしまった。

 なまじ、二人とも顔がとても整っているだけに、真顔で冷ややかな怒りをたたえた瞳で睨まれるのはかなりの恐怖である。

 あまりの恐怖に顔をこわばらせると、二人は再び向き直す。そしてぎゃあぎゃあ騒ぎ始めるのを見ていると、後ろから肩を叩かれた。

「ああああの、ク、クリスチルさんはここちらにきてくだしゃいっ」

 振り向くと、メルタより体格のか細い少年がいた。白い肌と対照的な黒い艶やかな前髪を長く垂らし、目が見えなくなっている。

 ああ、なんかデジャヴ…………。と思っていたらぐいーっと強引に引っ張られバランスを崩しかけるが、なんとか耐える。

 ところでどなただ、この方は?

 ヘルーテさんから伝え聞いている容貌と照らし合わせるかぎりおそらくフュールさんだと思うのだがなぜ僕を呼びに?


「ええ、えと……?」

「あっ、ああ、すみません、急に」

 お互いに慌てふためき、ぺこぺこと頭を下げる。

「え、えええっとその、どなたでしょうか」

「あああ、す、すみません。じっ自己紹介もせずに……ぼ僕はフュール・クラインと言います」

「はい、よろしくお願いします」

 二人同時に深く礼をした。

「歓迎会の主役のクリスチルさんはこちらでお待ちいただければと……」

「は、はいっ、ありがとうございます、クラインさん。どこでしょうか?」

「あ、の、年が近いと思うので、どうぞ名前で呼んでください」

「いえっ、僕は後輩ですので、寧ろ、僕をメルタとお呼びください」

「いやいや」

「いえいえ」

 謎の譲り合いが始まり、最終的にはお互いに名前で呼ぶことで落ち着いた。


 その後、メルタはフュールに連れられて広間に連れて行かれた。

 王座ノ間も豪華なものだったが、この広間は一線を画していた。

 豪奢に飾られた窓がいくつもあり、開放的で明るい。天井にはカーテミアルに存在したという伝説の魔術師の絵が暗い色合いで施されている。この国では魔術師が奇跡を起こす至高の存在として崇拝されてきたからである。

 壁にはカーテミアルの雄大な自然を模した美しく、恐ろしく緻密な彫刻で飾られている。

 絨毯もふかふかで寝転べそうなほどだ。


 宝石箱のような空間を出来るだけ控えめにきょろきょろと見渡す。

 そうしていると、メルタとフュールが入ってきた扉が開いて誰かが入ってきた。

 それはテーブルをいくつも持ったヘルザだった。

「ああ?何でお前らここにいんだよ。メルタは隣の部屋で待たせとけっつったろ」

 それなりに重量があるはずのテーブルを、軽々と重さを感じさせないような手つきで運ぶ。

「すすす、すみません!すぐに案内し直します!」

「おー。別に怒ってねーから気にすんなよ」

 にかっとひまわりのように笑うヘルザにフュールは安心したような面持ちでメルタを手招きする。

 やっぱりヘルザさんって男前だなぁ。

 ヘルザの格好良さに感心しながらフュールについて行き今度こそ正しい部屋で、歓迎会の準備を待つ。


 なんだか疲れたなぁ、と初めて王宮に入ってから一息ついて、一気に疲れがやってきたようだった。


「メルタさん、どうぞお座りください」

 フュールにそう席を勧められた。しかし、元々ただの一国民であるメルタは、普通に暮らしていたらお目にかかることは一生ないであろうふかふかの椅子にどうも気後れしてしまう。

 だが、王宮まで歩いてきて、その後ずっと立ちっぱなしだったのでいい加減足が疲れて、一刻も早く足を休めたい気持ちもある。

「メルタさん、お、お菓子食べます?」

 一向に座らず、しかも沈黙しているメルタを見て居た堪れなくなったフュールはお菓子を勧めた。

 え、お菓子?!

 お菓子ってそりゃあ僕の家族が美味しそうに食べていたやつだってくらいは知っているけれど、生まれてから一度も食べたことがない。

 ヘルーテさんが言うことには高価なものはとっても甘く美味しいものだと聞いた。流石にそこまでのものを期待することはないが、すっごく興味が湧く。

 けれど、なんか貰うの申し訳ない……!


 そして、お菓子の譲り合いが始まった。

「ぼ、僕はいいので、メルタさん食べてみませんか?!」

「いえいえ!いただけません」

 そんなやり取りが数十回あって、部屋の扉が豪快に開け放たれた。


「おい、歓迎会の準備出来たぜ。フュール、余興楽しみにしてっからなー」

「あっ」

 やってきたのはヘルザで、元気よく準備が完了したことを伝え、快活に笑った。

 それと対照的に顔が青ざめていくフュール。どうしたことかと見ていると、ぶつぶつとそよ風よりも小さな声で何か言っているようだ。

「……?」

 聞いてみようと耳を澄ませてみる。

「…………じゃん。だって…………、………………だし」

 ん、もうちょっとで聞こえそう……。さらに耳を澄ませる。

「僕が楽しい余興できるわけないじゃん。だって一番後輩で、魔法が下手だし」

 なんかデジャヴ……その二。

 なんかすごく親近感湧くなぁ、フュールさん。


 勝手に親近感を抱きながら、フュールの余興がうまくいきますように……と願った。



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