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魔術師団団長



 視線が集中している。

 国王様や魔術師たちが注目しているのは世界最悪の大罪人の弟子、メルタ・クリスチルだった。


「初めまして、国王様、魔術師団の皆様。メルタ・クリスチルと申します」

 メルタは震えてしまう声をどうにか抑えながら、ヘルーテに叩き込まれたマナーに則って挨拶とお辞儀をし、深く息を吸って体を起こす。

「初めまして。メルタくんと呼べばいいかい?」

「国王様のご随意に!」

 よもや、国王様と会話する日が来ようとは、昔虐待を受けていた頃では全く想像できなかったことである。最も、虐待を受けていなくて、普通に暮らしていても想像できないことであろうが。

「国王様……!」

 もちろん、非難めいた声をあげるのは魔術師団、副団長のアベルである。

「まあまあ、ヘルーテの紹介だし、いいでしょう?」

「だからダメでしょう!なんでそうシュバイツなんかを信用なさるのです」

「ちょっと副団長殿?メルタくんを迎え入れるメリットは話しましたし、実演するのに茶々を入れないで頂けませんか」

 アベルのもっともな意見にむっとして口を挟むのはヘルーテだ。

 ……ヘルーテさん、そんなに言い返して怒られないものなの?と、メルタの中に疑問が芽生えたが今更なので丁寧に埋め返しておく。


 ヘルーテとアベルが言い合っているのを横目に、国王様が口を開いた。

「君の魔道具を作ると言う魔法を見せてくれるかい?」

「はいっ!」

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。落ち着いていなければできるものもできなくなってしまうから。

 気持ちが落ち着くのを感じると、しっかり前を見据えて魔力を込める。

「『ウェポンメイク』!」

 現れたのは、ピンクの丸いガラス製ブローチの付いた柔らかそうな赤の毛糸の帽子だった。

「それは?」

 国王様の声に震えながらしっかりしなくてはと自らを鼓舞する。

「はい。これは思い出し帽、です。被った人の記憶や情景をそのままこのブローチから映し出されます」

「ほう。それは素晴らしい。君はどのような用途を考えているのかね?」

 国王様の魔道具に注ぐ眼差しは真剣で、一流鑑定士さながらの眼力である。

 メルタは魔道具を作った者として同じく真剣に堂々と答えた。

「どこかに物を置き忘れた時に使うと便利です」

 時が止まった…………ような気がした。

 シーンと静まりかえる室内の空気感に、メルタは間違ったことを言ったかと焦る。



「おい、ヘルーテ」

「なんでしょうか、副団長殿」

「貴様、こんないたいけな少年を拐かすとはどういう了見だ」

「……なんのことでしょうか、副団長殿」

 アベルが小声でヘルーテを小突き回しているので、メルタは近くにいるヘルザに声を掛ける。

「何か僕、変なことを言ってしまいましたか?」

 小声で恐る恐る尋ねてみると、ヘルザは笑いを堪えているようであった。


 ますます困惑してしまうメルタだが、頼れるのはヘルザしかいない。答えてもらおうとじっと待つ。

「普通は敵国の捕虜に被せて情報を得るとかって言うだろ」

 同じく小声で返された答えにハッとした。



「まあ、お前が良い奴なんだろ。なんでヘルーテのとこなんかになぁ。お前の面倒、俺が見てやろうか」

 気さくに笑むその姿はまさに頼れるお兄さんという感じで。メルタはよろしくお願いします!という大声を必死に抑えた。

「人の弟子を勝手に口説かないでくれる?ヘルザ」

「ああん?てめえに選択の余地なく弟子にされちまったメルタに選択肢を提示しただけだ」

「そうだな。貴様に任せるよりもヘルザに任せた方がよっぽど健全だ」

「副団長殿までなんですか。手塩にかけて育てた弟子を奪われるのは我慢なりませんよ?」

 いつの間に小突き合いが終わったのか近くまで来ていたヘルーテとアベルが参戦してきた。



 ヘルーテさんには手塩にかけて育てられた気がしないのは何故だろう……?とメルタが疑問に思っていると国王様が声を上げた。と同時にヘルザとアベルが姿勢を正す。


「まあまあ。何も決まっていないのだから落ち着いておくれ。それにしても君は優しい子なのだね。ヘルーテの言っていた通りだ」

 ヘルーテさんの?とそちらを見やるとなんとも言えない不愉快そうな顔をしていた。


 本当、なんでこの人はこんなにハートが強いんだろう、普通は嫌でも国王様の前なのだから取り繕うよ。と思いながら視線を戻す。

「ヘルーテったらね、メルタくんのことをベタ褒めしていたのだよー。手紙の内容の七割は褒め言葉だったからね」

「国王様、メルタくんの魔法はどうでしたか?私の後釜としては十分な実力だと存じますが」

 茶化すように話す国王様の話を強引にかえるヘルーテ。照れ隠しかどうか判断するには少し怖すぎる笑みだ。

「もう照れ屋さんだね、ヘルーテは」

「…………」

 血管の切れるような音がしたのはきっとおそらくたぶん気のせいだと思うので、スルーする。


「メルタくんの魔法だけれど、さっきも言った通り素晴らしい物だ。王宮付きの魔術師団に相応しい実力と言えるだろうね」

 メルタと同じくスルーすることにしたらしい国王様は話を変えて続けた。

「じゃあトロイメンを起こして最終決定を……」

 その言葉を待っていました、と言わんばかりに壁にある扉のうちのひとつがすっと開いた。

 一斉に魔術師たちが、ヘルーテまでもが膝をついた。メルタもヘルーテとヘルザに無理矢理関節を曲げられるようにして膝をつかされる。

 な、何だ……?

 メルタとしては突然開いた扉でも、跪く魔術師たちにでもなく、ヘルーテとヘルザが協力するように行動したのが一番の衝撃と疑問だったが、すぐにそれを上回る衝撃が訪れた。


 音なく開く扉の影から現れたのは、透き通るような白い肌にぱっちりとした目、両肩に垂れている黒髪は頭の上で二つのお団子を作っている。レースをふんだんにあしらったふわふわのドレスで幼い体躯を包んだ、美少女ならぬ美幼女だった。


 王女様だろうか。とメルタは思った。


 実際、この国の王女は四歳になったばかりで、その年齢から未だに国民にその姿をお見せになったことはない。

 王妃様は美しい黒髪の持ち主で、映像機で見た覚えがあることもメルタの推測を裏付けている。


「おはよう」

 凛とした大きくはないがよく通る声に幼い響きは一切なく、むしろ襟を正してしまいそうな威厳のある声だった。

「おはようございます。団長」

「うむ」

 団長と呼ばれた幼女は鷹揚に頷いた。

 こんなにちっちゃい子が団長?!?!



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