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王宮


 王宮に着き門番と話していると、ヘルーテ目掛けて落下してきた人物がいた。その人物はヘルーテへの怒りと苛立ちを一切隠そうとせず睨みつけてきた。



「なんでここにてめえがいやがんだ?!」

 ヘルーテと同じくらいの背だろうか、銀色のちょっと長め髪を結った男だった。

 三白眼で睨め付け、ハスキーボイスで思いっきり凄む男にヘルーテは一瞬表情を歪めたが、すぐさま笑顔を貼り付けた。

「やぁ、ご機嫌いかが?ちゃんと国王様にはアポを取っていたけれど、聞いていなかったかな?」

「ああん?聞いてねぇなぁ」

「……相変わらず仕事おっそいな」

 ボソっと聞き取れないような小さな声で呟くが男はそれを聞き逃さなかった。

「てめぇ、国王様を侮辱すんじゃねぇぞ?ぶっ殺されてぇのか?あの方はお忙しんだ」

「ここでやる気かい?わたしは別にいいけれど、ここじゃよく目立って外聞が悪いんじゃないかなぁ?しかもこっちはちゃんとアポを取っているんだよ?勝手に私と戦って独断行動で怒られてしまえ」

「うっせーわ!罪人を罰して怒られる通りがどこにあるってんだ!」

「だーかーらー、会う約束してるって言ってんでしょ?それを勝手に君がふいにしてしまったら怒られるに決まってるじゃないか。そんなことも分からないの?」

「あ?!喧嘩売ってんのか?!」

「君が勝手に買おうとしているだけでしょ?私はそんな商売してませんー」

「よくもまぁ口の回る女だな!ほんと癪に触るぜ」

「君こそ癪に触るんだよ」

「てめえなんか」

「君なんか」

「「大っ嫌い」」「だぜ」「だよ」

「うわハモった最悪」

「こっちのセリフだっての!誰が好き好んでハモるかてめぇみてぇなクズと」



 メルタは困惑しきっていた。いきなり現れた男が師匠と終わりそうにもない罵り合いを始めたから。しかもヘルーテは変身魔法を掛けているはずなのに、男はヘルーテの正体がわかっているようである。


 罵り合いを聞きながらタイミングを窺う。すると一瞬、人間ならば欠かすことのできない一拍の呼吸の間を突くことで口論に割り込むことができた。

「あの!!」

「あ?!」

「何?」

 急な大声で声が裏返り恥ずかしむまもなく浴びせられた剣呑な視線に冷水を浴びせられたかのようになる。

 けれど、ここで引いてられないと言葉を続けた。

「あの、お怪我はありませんか?!あんな上から落ちてきて大丈夫ですか?!」

 がっと名前も知らぬ男の手を取り、心配そうな眼差しで全身を眺める。

「どこか打ったりしてませんか?もしかして王宮から落ちちゃったとか?!すごく高いですもんね!?」

 このセリフにヘルーテと男はぽかんとしてしまった。


「あははは!いやいや、メルタくん。確かに彼はすごく頭の足りないところはあるけれど、そこまで間抜けじゃないよっ!」

 メルタのセリフに爆笑しながら話すヘルーテに男が蹴りを繰り出した。

「誰がバカだ!!」

「私、馬鹿だなんて言ってないよ。自覚があるのかい?」

「あ?!」

 男が繰り出す鋭い蹴りをひらりと躱す。



「あのっ!ヘルーテさん!」

 再び喧嘩が始まる前に大声でヘルーテに話しかける。

「なんだい?」

「この方は誰なんですか?なんでヘルーテさんの正体を知っている風なんですか?なんでそんな喧嘩腰なんですか?仲良くしましょうよ」

「おおう。一つずつ答えるよ?そこの銀髪の彼は王宮付き魔術師団の一人、ヘルザ・ハーン。ヘルザには非常に遺憾なことに特別な魔法のおかげでバレてしまったのだよ。そして彼とは昔っから気が合わなくてねぇ。仲良くできないのだよ」

 怒涛の質問に少し戸惑うヘルーテだが、流暢に答えを返した。

 返答された内容を咀嚼し飲み込むと、メルタは素っ頓狂な声を上げた。

「魔術師さん?!え、魔術師さんがどうして王宮から落ちちゃったんですか?」

「ふふふっ!だぁかぁらぁ、言っているでしょ?そこまで間抜けじゃないって。ヘルザは自分の意思で魔法を使って飛び降りたのだよ」

「あ……」

 当たり前のヘルーテの言葉にメルタはみるみる顔を赤くして顔を隠した。

 そりゃ当たり前じゃないか!と恥ずかしさのあまりのたうち回るたくなるのを必死に我慢する。そうしているとヘルザも笑っていた。

「心配してくれてありがとよ。体もぴんぴんしてるから大丈夫だぜ」

 先刻からの行動からは想像できない人好きのする笑顔にメルタは良い人だぁと頬を緩ませる。

「そうそう、体の丈夫さだけが取り柄……」

 ヘルザはヘルーテが言い終わる前に恐ろしい速度の上段蹴りを繰り出したが、それは失敗に終わった。


 そしてヘルーテは心の底からうんざりした表情を見せて深々とため息を吐いた。

「ヘルザ〜そういうの良いからさぁ、王宮に案内して?」

「する訳あるか!」

「ああ、やっぱビビってる?いくら最強の魔術師団と言っても私にビビってるんだぁ。今ではすっかり弱ってる私にビビってるんだぁ。自分たちが有利な王宮内といっても怖いんだぁ?ヘルザはビビりだもんねぇ、仕方ない仕方ない。人間誰にだってビビることはあるさ。まあ?絶対的に圧勝出来る状態であろうとも一抹の不安も許さないのは良い姿勢ではあるよねぇ」

「…………誰がビビりだゴラァ!良いぜ、連れてってやんよ!」

 見事に煽られたヘルザは、メルタと違い、二人の魔術師の口論に入っていけず呆然としていた門番をとっ捕まえ、ヘルーテとメルタの二人を王宮内に連れて行く旨を脅しつけるように伝えると、二人を先導する形で堂々と王宮内へと入っていった。





 王宮内へと入ると豪華絢爛な外見と違わぬ、贅沢で華やかな、それでいて品のある内装に、メルタは一瞬にして心奪われた。

「ふわぁぁ…………」

 独特な形でちょっとよく分からないが高いことは確実の壺や、シャンデリア。黄金の額縁に入れられた深いコバルトブルーが多用されている綺麗な絵。今後の人生で二度と拝むことはできないであろう品々をしっかりと目に焼き付けておく。



 メルタが鑑賞する方に夢中でヘルザの後にちゃんとついて来ていないのに気づき振り向いた。

「おい。何してんだ。早く行くぞ」

「すみません!」

「いいじゃないかー。ちょっとくらい美術品を見ていたってー。なんか雰囲気変わったね」

「そこら辺の絵を変えたんだよ」

「ふーん。通りで」

 しげしげと美術品を眺めるヘルーテに読書以外にも興味があるものがあったのかと驚いたメルタであった。



 建物の中なのに迷いそうなほど広い王宮をヘルーテとヘルザな口喧嘩を聞きながら二十分ほど歩くと、豪奢な扉の前でヘルザは足を止めた。

「ここの部屋には国王様と他の魔術師がいる。おい、メルタっつったか」

「はいっ」

「失礼のないようにしろよ」

「はいっ!」

「てめえもだぞヘルーテ」

「はいはい。わかってるって」

「…………」

 ヘルーテの投げやりな返事にヘルザは青筋を立てるが、ここで言い争っても意味がないと悟ったのか、大きな溜息を吐いてドアをノックした。

「失礼します!魔術師、ヘルザ・ハーンと来客者二名入室願います」

 ビリビリと響く大音声で扉の向こうにいるであろう国王様に名乗り上げた。

「入りなさい」

 一拍置いて威厳のある低い声が返ってくると、メルタはびくりと体を震わせた。再び動悸がしてきて冷や汗をかき始める。


「行くぞーっておいっ!顔色悪いじゃねぇか!大丈夫か?!」

「大丈夫れふ…………」

「大丈夫じゃなさそうだぞ?!おいこらヘルーテ!なに平然としてんだ!」

 メルタの背を摩りながらほけーっとしているヘルーテに怒鳴りつける。

「あん?良いもん持ってんじゃねぇか。ほら寄越せ」

「言い方が完全にチンピラだよね」

 もぞもぞとヘルーテが取り出したのは王都に来た時にメルタに渡そうとしていた手のひらサイズの小瓶。それをぞんざいにヘルザに投げると、片手でキャッチして蓋を開けた。

「ほら、これ飲めばリラックスできるぜ」

「ありがとうございます…………」

 メルタはヘルザから小瓶を受け取りぐいーっと飲む。

「私が勧めた時には絶対に飲まなかったのに…………」

 ぶつくさとヘルーテが恨言を呟いていると、ポーションの効果でメルタは力が抜けてリラックスすることができた。

「日頃の行いの差だな」

 ヘルザが勝ち誇ったように言うとヘルーテは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、そっぽを向いた。


「じゃあ今度こそ行くからな」

 重厚な扉を力任せに開けてから、ヘルザは姿勢を正し、一礼してから入室。ヘルーテやメルタもそれに倣って一礼してから入る。

 世界屈指の魔術師たち、そして威厳があり見たこともないような煌びやかな服を着た壮年の男性、国王が堂々たる風格で王座に腰掛けていた。




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