王都到着
ダダンの街に来たその日のたっぷりと日の暮れた時間にヘルーテは宿屋にやってきた。
先に来ていたメルタの連れだと言うと主人は快く案内してくれた。
部屋は石造りの質素なものだが、掃除が行き届いていて清潔感があった。
初めての宿屋でテンション爆上がりのメルタに振り回されながら、ようやく床に着いたのは夜遅くで、次の日の朝も二人揃って寝坊した。
「わ、もうこんな時間かー!」
「すみませーん!!」
ここから王都までの移動時間を考えてお昼前に着くように決めていた起床時間を一時間オーバーしてしまい、超特急で支度する。前の日に買っておいた、王都へ行くための手触りの良い新品の服に着替えた。稼ぎのある商人くらいの服装でいくつか装飾が施されている。
どうにか宿屋で乗り合いの馬車に乗って、王都を目指す。
荒野からギランの街までの寂しい道のりとは変わって命の息遣いを感じられる景色を楽しみ、癒される。
景色を楽しんでいるメルタの横でヘルーテは同じく馬車に乗っていた商人たちとお喋りしていた。
最近の景気はどうだのこうだの、薬剤師や職人の腕が落ちただの、新しいパンの作り方が流行ってるだの、魔道具は使い勝手はいいが高いのが困るだの、近所の旦那が浮気して修羅場だったの…………話の種は尽きないようだった。
初めはダダンの街と同じような風景が続き、あるラインを越えるとガラッと変わった。
ダダンの街は栄えていて活気があり、メルタにも親しみやすいが、上流階級の貴族たちの住む街に入ると洗練され気高い雰囲気で町の空気にさえ上品さが漂う。
小道さえも徹底された石畳で、ダダンの街のように大通り以外は踏みしめられた土の道とは全く違う。
メルタがただただ上流階級の貴族が住む町の迫力に打たれていると、ヘルーテに肩を叩かれた。そして周りを見てみると、自分たちの他にはもう乗客がいないようだった。
「そろそろ王都だよ」
「はいっ!」
メルタが元気の良い返事すると、ちょうど馬車が止まった。
「ここが王都…………」
王都はやはり他の街とは一線を画する壮麗でど迫力な街で、真っ直ぐに聳え立つ王宮も言葉にできない豪奢さである。
僕、身分違いすぎない……?!とメルタはダラダラと冷や汗をかいて己の格好を見やる。
ヘルーテ自ら見立ててくれた上品な服装ではあるが、たいした身分でない自分が着ると貧相に見える気がしてならない。
「あ、あの、ヘルーテさん……本当に僕がここにいて大丈夫なんでしょうか?!」
「何をしに来てるか忘れたの?」
それはそうなのだが、メルタはどうしても気後れしてしまう。
「ああああ、心臓が口から出そう………………」
小さなうめき声をあげて心臓を押さえる。
「なーに、大丈夫さ」
「何を根拠におしゃっているんですかぁぁぁ…………」
「ふむ」
胃まで押さえ始めて流石に気の毒になったヘルーテは手のひらサイズの小瓶を取り出した。
「メルタくん、メルタくん。これ飲んでみて」
「嫌です………………」
「なぜに?!師匠からの厚意を受け取らないの?」
「自分の胸に聞いてみてください」
「んー?」
胸に手を当てて思案顔を浮かべるが、原因は数十個しか思い当たらなかった。
「えへへ」
「えへへじゃないですよう…………」
「でもね、これは大丈夫!リラックス効果のあるポーションだよ」
「そうなんですか……?」
「そうなのだよー!だから安心してぐいーっと」
「すみません、ヘルーテさん。信用できないです!」
「うっ……思いの外のストレート。本物なのに」
メルタの率直な否定にダメージを喰らっている。
「ポーションは頂けませんけど、元気は頂けました。当たって砕けます」
「砕けないで欲しいんだけれどね。じゃ、行こっか」
そういうと、メルタは魔術と一緒に叩き込まれたマナー通りにヘルーテをエアスコートする。
「上手だよ」
滅多に素直に褒めないヘルーテの言葉に顔を真っ赤にして照れた。
明日は槍でも降るのかな?と思ったのは秘密である。
王都の中心にある王宮、その門の前までやって来た。
メルタの動悸は最高潮にまで達している。もしかしたら死ぬかもしれない、と冗談でなく思っていると、門番がやって来た。
ヘルーテが門番に話をつけている隣で王宮へ入る前に緊張を解そうと深呼吸をする。
しかし、本当に豪華で綺麗な宮殿だな、とメルタは思った。ここまで近くに来ると見上げてもその全貌は見ることが出来ない。
と、メルタが宮殿をよく見ようと見上げると、空から黒い塊がものすごい速度で落下してきた。しかも、心なしかヘルーテ目掛けての落下に見える。
「ふぇ?!」
「おっと、これは不味い」
メルタの間抜けた声で空からの飛来物に気付いたヘルーテは門番とメルタから二メートルほど距離を取った。
そして懐からびっちりと文様が書かれた魔法陣の紙を取り出す。
ぐんぐん迫ってくる物体が人間だと気付いたメルタが叫び声を上げるが、ヘルーテは全く動じず何やらタイミングを図っているようである。
「ど、どうしましょ?!人ですよ!人!も、毛布、藁、何か何か……」
クッションとなるものを作ろうと慌てふためくメルタを他所にヘルーテは魔法陣に魔力を込め始める。
「それっ」
魔力を込め終わった紙を空中に放るとばんっとバリアが貼られた。
落下してきた人物はいち早くバリアの存在を察知し、身を翻し回避した。そのまま軽やかに着地するとズンズンとヘルーテの元へ肩を怒らせて迫ってきた。




