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前編



「システィーナ・フォン・シュリー伯爵令嬢!私、セルジオス・フォン・ウィンディアは今日この場で、君との婚約を破棄させてもらう!」


ここは、北方に位置するエストレラ王国。そんな言葉と共に、元恋人であったセルジオスは当時の婚約者・システィーナに婚約破棄を告げた。


ふふふ、これで私は玉の輿!と、思っていたのだが。この断罪劇はクォーツ公爵子息とその夫人会によって思いっきりひっぺ返されてしまったのだ。


金髪碧眼のファンタジー世界の王子さまのような外見を持つセルジオスは、家格も財産も合わせてとても理想的な男性だった。それにおねだりしたらなんでも買ってくれたのよね。ドレス、宝石、貴金属にはんだごて(収集用)。

※なお、ヒロインははんだごてを集めるのが大好きな工具好きです。ここに本気でマジツッコミしないように☆彡


私、ヒルデガルドはシュリー家の元令嬢。桃色のふんわりとした髪に、サファイア色の瞳を持った誰もが認める華やかで美しい少女。


シュリー家には令嬢がふたりいた。亡くなった前妻との子である義姉・システィーナ。そして後妻に入ったのが私の母だ。


私は、システィーナの婚約者であったセルジオスを寝取り、そして嘘で塗り固められた私の虚言により義姉に婚約破棄を告げさせた。


全ては順風満タンだった。けれどその断罪劇は数々の妨害によっておじゃんとなり、逆に私とセルジオス、そして実家の母を含め罰を受けた。


セルジオスの実家ではセルジオスが廃嫡となり、今後は次男が家を継ぐそうだ。シュリー家はクォーツ公爵家を敵に回したので最近ではすっかり落ち目になってしまい財政も悪化したため、男爵家に格下げとなった。


また、女王陛下のいらっしゃるパーティーで醜態をさらした私とその母は、実家を追放されて修道院送りになってしまった。


そして碌に勉強に勤しまなかった私にできる仕事はほとんどなかった。ぶっちゃけ、雑用ばかりだ。

しかも今日はこの埃だらけの部屋の掃除・。あぁ、以前は煌びやかなドレスを着て、アクセサリーを身に着けて、華やかな雰囲気を醸し出していたのに。


今では粗末なワンピースにエプロンをつけ埃だらけの髪に三角巾をかぶり、―――そしてまずは拭き掃除だ。


きゅっ


―――ん?

何かしら。この、埃だらけの机とそこをいた雑巾の跡。そのコントラストは私の中の何かを刺激したのだ。


きゅっ


きゅっ


「―――これは?」


何故か埃が取れてキレイになっていくのがすっごい快感!!


まさか私、潔癖症?それとも掃除に、目覚めたぁ!?


「ヒルデガルド」

私の後ろに立っていたのは黒くすらりとしたワンピースに身を包んだこの修道院の院長だった。

30代後半くらいで、長く艶のある黒い髪を靡かせながら私に近づき、そしてキレイにした机の上にあるものを置いた。


「院長、これは何ですか?」


「これはそのひとの心の中を映し出すという、魔道具です」


「―――魔道具?」


「ヒルデガルド。あなたはその心に何かもやもやを感じていませんか?」


「―――っ」

そう言えば、何かもやもやが?


「ここに、手をかざしなさい」


「―――はい」

恐る恐る、四角い魔道具に手をかざすとその上にハートマークが表示され、そのハートが埃まみれになった。


「いやっ!何よこれ!!」


「これが、今のあなたの心なのです」


「わた、しの?」


「あなたは、これまでついてきた嘘、そして散在してきたドレス、貴金属、はんだごて(収集用)によって心がこのように埃だらけになってしまったのです」


「な、なんてことっ!」

以前ならそんなことは気にしなかったし、お父さまに言ってこの魔道具の開発者に因縁をつけていた。けれどそんなことは今の私には、私の中の誇りが、この埃の存在を許せない!


「わ、私、こんなの嫌です!いくら掃除したって私の心がこんな埃まみれじゃぁ、嫌だわ!」


「ならば、なおさら、掃除をするのです」


「―――どう言うことでしょうか?院長」


「その心の埃は、あなたの言動によってついたもの。そうであれば掃除をすることで、その埃を取るしかありません」


「んなっ!!」


「ヒルデガルド。あなたはもっと本来の自分に自信をもってよいのです。自分らしく、生きていいのですよ」


「―――自分、らしく?」


「えぇ、そうです」


「―――はい、院長」

何故か涙があふれてきた。私は今まで何をしてきたのだろう?私は本当に自分らしく生きてきたのだろうか?


その日から私は雑巾を絞り、箒を握り、時にはマッドポーションを使ってこびりついた汚れを落としていった。


―――


「―――院長。あの子の、ヒルダの様子はどうかしら?」

院長室では、シスターの格好をした桃色の髪の美女が、院長と向かい合って座っていた。


「無事、目覚めたようですね。これからが楽しみです」


「まぁ!それは何よりだわ~」

シスターがにっこりと微笑んだ。


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