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夏のホラー2021『かくれんぼ』

テナガエビとニンゲン

作者: 小畠由起子

 川の底では、今日もテナガエビの子どもたちが集まって、かくれんぼをしようとお話しています。


「かくれんぼしようよ、かくれんぼ」

「だれがオニかな」

「お魚さんかな?」

「カニさんかな?」

「ゲンゴロウくんかな?」


 わいわいいいながら、テナガエビたちはじゃんけんします。みんなチョキしか出せないので、いつまでたっても決まりません。すると、水面から、だれかの声が聞こえてきました。


「それじゃあ、ぼくがオニをしてあげるよ」


 これにはテナガエビたちも大喜びです。「わぁい」とはしゃぎながら、みんな思い思いの場所へかくれていきます。


「ぼくはここ。岩のかげだよ」

「あたしはここ。枯れ木のかげだよ」

「おいらは……うーん、あっ!」


 のろのろしていたテナガエビの一匹が、突然声をあげました。


「あれ、どうしたのかなぁ?」

「わかんない、どうしたんだろう?」

「もしかして、オニに見つかったんじゃないかな」

「そっかぁ。それじゃあぼくたちも見つからないようにかくれないと」


 テナガエビたちは、しっぽをふりふり、はさみをチョキチョキ、かくれる場所を探します。


「ぼくはここ。石と石のあいだだよ」

「おいらはここ。川のふち、深いところだよ」

「あたしは……えーっと、あっ!」


 じっくり考えていたテナガエビの一匹が、突然声をあげました。


「あれあれ、まただよ、どうしたんだろう?」

「わかんない、どうしたのかなぁ?」

「もしかして、またオニに見つかったのかな」

「きっとそうだよ。もっとしっかりかくれないと」


 テナガエビたちは、はさみをふりふり、しっぽをふらふら、隠れる場所を探します。


「おいらはここ。すなけむりがいっぱいのところ」

「あたしはここ。じゃりのいっぱいあるところ」

「ぼくは……そうだなぁ、あっ!」


 きょろきょろしていたテナガエビの一匹が、突然声をあげました。


「まただね、もしかしてオニに見つかったのかな」

「ねぇ、オニに見つかったら、どうなっちゃうの?」


 一匹のテナガエビが、はさみをふりながら聞きました。みんな答えられません。


「どうなっちゃうんだろう……?」


 考えこむテナガエビたちを、あみがさっとさらっていきました。




「みんな……みんな……だまされちゃダメだ! そいつは、ニンゲンだぞ!」


 テナガエビたちの中で、一匹だけ、おじいちゃんから「ニンゲン」について聞いたことがあるテナガエビがいたのです。


「おじいちゃん、いってた! 夏になると、ニンゲンの子どもたちがやってきて、ぼくたちをつかまえるって。つかまえられると、食べられちゃうんだって!」


 しかし、川の中を見わたすと、他のテナガエビたちはどこにもいませんでした。気づけばテナガエビだけでなく、他の生き物たちもいません。


「ニンゲンが……さらっていったんだ……」


 ガチガチとはさみを鳴らすテナガエビは、ビュッとすごい勢いでうしろに下がりました。さっきまでいた石の上を、白いあみが素通りします。


「ヒィッ! 気づかれたんだ、逃げろぉっ!」


 あみは一つではありません。二つ、三つと、川の中を泳ぐように進んでいきます。それはまるで、巨大な口のバケモノのように見えます。テナガエビはジグザグに逃げて、なんとかあみをかわしていきます。


「こわい、こわい、こわい、こわいよぉっ!」


 やみくもに逃げ回っているうちに、とうとうテナガエビは、川のふちの一番深いところまで追いつめられてしまいました。そこでじっと身をひそめ、水面をにらみつけます。


「川の神様、どうか、どうかぼくを守ってください……」


 水面には、ニンゲンたちのすがたがゆがんで見えます。ガチガチとふるえるテナガエビですが、なぜかニンゲンたちが、一人、また一人と、いなくなっていったのです。


「……助かったの、かな……」


 そう思うと、一気にからだがふにゃふにゃになって、テナガエビは大きくのびをしました。そしてテナガエビの目の前に、ゴーグルをつけたオニたちの顔がいくつも現れ、巨大な手につかまれてしまったのです。あとに残ったのは、すなぼこりがあがってよごれた水と、子どもたちの笑い声だけでした。

お読みくださいましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エビだからチョキしか出せない、のくだりで笑ってしまいました。テナガエビとじゃんけんは相性最悪ですね。 人間にとってはほのぼのとした光景なのに、エビ側からすればたまったものじゃありませんね…
[良い点] 釣り上げられていく事で仲間が次々と消えていく焦りと、標的としてロックオンされた恐怖。 狩られる者の恐怖が、テナガエビ視点でリアルに描かれていますね。 バケツかクーラーボックスの中で仲間たち…
[良い点] エビ視点というのが面白いですね。←エビ飼い [一言] エビを飼ってますが食べるのも好きです(´・ω・`)
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