――そして、最後のピースが出揃った。
「はっはっはっはっは! なるほどなるほど、お主が『オールディ』であったか!」
「突然名前呼ばれまくるから、何事かと思ったよ。お久しぶり、ええっと……ミリアム、ちゃん?」
「ちゃん、とは……まぁよい」
とりあえず鍛冶屋に戻ってきている。暫定幼女先輩ことミリアムちゃんも、もちろん一緒だ。
酒場では目立ちすぎるからな。なんか話が有るみたいだったし、場所を移してもらった。
「奇遇なもんじゃな。初めて会った【ぷれいやあ】と、こうしてまた会う事になるとは」
「あの時はありがとうございました。お礼を言いたくて探してたんだけど、名前も見てなかったから……あ、飴ちゃんあげるね! これおいしいよ!」
そういう約束だったからな。いやあ、無事会えて良かった。幼女である事以外ろくに情報も無いし、正直探しあぐねてたんだよね。これでもう幼女を探しながらフラフラ徘徊する怪しいおじさんムーブをしなくて済む。毎回憲兵ににらまれるんじゃないかとヒヤヒヤしてたからね。
「なに、大したことはしとらん。気にすることは……んんんっっ、なんじゃこの飴は! シュワっシュワでおいしいのお! どこじゃ!? どこで手に入れたんじゃ!?」
「ふっふっふ、これは噴水広場のお店に――」
「ストップ、ストーップ! オールディさん、その話は後で良いですから、先に本題に入りましょう!」
おっと、たしかに。うっかり飴ちゃんトークで盛り上がるところだった。危ない危ない。
「えー、コホン。で、ミリアムちゃん。俺に何か用でしょうか?」
「そうじゃった、急いで確認する事があるんじゃ! コレを見た瞬間にな、まさかとは思ったんじゃが――」
そう言いながらミリアムが懐から出したのは、カリナさんに渡しといた『魔力回復薬』だ。
あれ、何でミリアムちゃんが持っているんだろう?
「――お主達、あの館には入っとらんじゃろうなぁっ!?」
「全然入って無いです」
迷わず即答する。多分、魔力草が元々あったっぽい、あの館の事だろう。
「本当じゃな? 敷地にも入っとらんな? 隠しても良いことはないぞ?」
「はい。小指の先ほども入って無いです」
「そうか……ならよいのじゃ」
ふぅー、っと胸を撫で下ろした様子の幼女。前も思ったけど、不思議な感じだなあ。見た目も声もたしかに幼女なんだけど、動作や表情は妙に貫禄があるし、さっきの詰問も迫力がすごかった。どうにも容姿と中身がチグハグな感じだ。プレイヤーでも無いんだけど……何でだろね。
ま、それはともかく。
「ええっと、あの館に入ると何かまずいの?」
「まずい、どころでは無い! ヘルメスが館を去って随分経つが、警備システムは生きているはずじゃ。あのバカはまるで加減を知らないからのう……発動させてしまったら、最後。入った本人の被害だけでは、おそらく済むまい。周りにどれだけの被害が出るか、わかったものでは無いのじゃ!」
オーケーオーケー。よくわからないけど、とにかくヤバいらしい。でも入ってないからセーフ。
と、いうか。どうもこの幼女、あの館の主人を知ってそうな口ぶりである。いや、館の主人いたのって何年前なの? 放置されて大分時間経ってそうな館だったけど……え、幼女何歳? ハウオールドヨウジョー?
「とにかく入ってないのなら良いのじゃ。ふむ……しかしそうすると、この『魔力回復薬』はどうやって作ったのじゃ?」
「それはですねー……」
さて、どこから説明したものか。
魔力草の話――をするついでに、発見に使った魔力メガネの話からしようか。あれはそもそも幼女が高価な魔色鉱をポンとくれたお陰で作れた物、なんだし。よし、そうしよう。
□ □ □
「うっひょ〜〜〜!!! すっごい、すっっっっごいのじゃ! あははははは!!! こんなの初めて見たのじゃ、面白いのじゃ〜〜!!!」
カクカクシカジカと事情を説明し、魔力メガネを渡した途端これである。
訂正。ミステリアス幼女かと思ったが、ただの幼女かもしれない。なんだこのお子様全開のはしゃぎっぷり。
「あは、あはははは!!! この『魔力メガネ』を見たら、魔術ギルドの石頭どもが全員白目剥いてひっくり返るじゃろうて! あはははは、愉快じゃ愉快じゃ! やはり面白いのう、【ぷれいやあ】は!」
何がツボに入ったのかはよくわからないが、気に入ってもらえたようだ。
「ええっと、とりあえず納得はしてもらえた?」
「ああすまない、つい興奮してしまったわい。もちろん、そういう経緯なら問題無いのじゃ」
話を聞くとこの幼女、実はかなり偉い人らしい。
『始原の三賢者』? ってのはよくわからないが、何かすごい錬金術師の1人なんだと。へー! いつかは錬金術師に会ってみたいと思っていたが、もう会っていたとは。
で、偉い先生なので、生産ギルドから意見を求められることがある。たしかにカリナさんも、『有識者に意見を求める事もある』とか言ってたな。相手が幼女とは思わなかったけど。
普段研究の為に街から離れていることが多いミリアムだけど、今日はたまたま街に戻ってきていた。そしたら急に生産ギルドに呼び出され、意見を求められた、そうだ。
そんな経緯で『魔力回復薬』を見る事になったミリアムは、一目でピンときた。これはきっと、あの館で研究されていた薬草を使ったものに違いない、と。館の主からそんな薬草の話を聞いた事があったらしい。
そして製作者の『オールディ』とやらが危険な事をしていないか、心配で探しに来てくれた、ってわけ。
「カリナから今の時間ならきっと酒場にいると聞いてな、急いで駆けつけたのじゃ。何かあってからではまずいからのう」
えっ、むちゃむちゃ良い人じゃん。聖人かよ。さっすが幼女先輩!
「心配して頂いてありがとうございます。先日もそれとは知らずに高価な物を頂いてしまいましたし……」
「いやいや、本当に気にすることはないのじゃ。魔法の練習に便利じゃろう、くらいに思ってあげた魔色鉱が、まさかこんな面白い物になるとはのう。この『魔力メガネ』見れただけでも、十分元は取れたわい」
うーん、そう言われてもなあ。貰いっぱなしでは、さすがに悪い気がする。
あ、そうだ。随分と魔力メガネを気に入っているようだし。
「良かったらその『魔力メガネ』、さしあげましょうか? まだストックはありますし」
「ええっ、本当に良いのじゃ!? それは是非に……いや、しかしそれでは貰いすぎじゃ、釣り合いが……!」
すごく欲しそうなくせに、どうしてそう躊躇するのか。お礼は不要と言ってしまった手前、貰っていいものか悩んでいるようだ。いや、本当に良いですって。
「……そうか、良い事を思いついたのじゃ! それでは妾は、代わりにこれをあげよう。希少なものだからのう、これで勘弁して欲しいのじゃ」
そう言いながら、懐からゴトゴトと延棒状の金属塊を取り出し、机に置いた。
その金属を目にした途端、俺は――言葉を失った。
「これ、は……」
それは、金に似て非なるもの。
それは、金よりも明るく、鮮やかに、神秘的に、そして――言葉にすれば奇妙だが――金よりも黄金色に、輝いていた。
「金よりも純粋。金よりも完全。その性質は、無比にして無類。此奴は、エーテルに干渉する」
「エー、テル……」
呻くように言葉を絞り出す事しか出来ない。それほどに……俺は、その輝きに呑まれていた。
「『魔力メガネ』を作れたお主なら、使いこなせるやもしれん。この伝説の金属――」
その時、俺は直感的に悟った。
これだ。これこそが、至高の一振りに必要なピースだ、と。
「――オリハルコンを」




