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人が鋭利な切先に惹かれるのは、『死』を渇望するが故なのか

 ゾッとする程に鋭く、危ういほどに美しい。

 それが、()の第一印象だった。


 人をただ斬り殺す(・・・・)。本来、その目的の為だけに洗練され尽くした日本刀。しかし、その美しさは見る者に一種の感動さえ与える。それは、機能美としての美しさなのか。

 或いは――『死』を感じるが故の、危うい錯覚なのか。


 ()はそんな刀の切先のように、美しく、鋭い。


「君は、僕のリュンネに――何をさせるつもりなんだい?」


 問う声はあまりにも静かだ。静か過ぎる(・・・・・)。少しでも均衡を崩せば、何かが溢れてしまうかのように。


 白銀に輝く髪、中性的に整った顔。

 非現実的なまでに左右対称なその美貌は、微笑みを浮かべれば白馬の王子様のようにさえ見えるだろう。

 しかし今は、冷たく鋭い視線を俺に突き刺している。


 一見すれば、奴はただ立っているだけに見える。

 だが、腰に差した剣は決して飾りでは無い。

 俺が下手な事を言えば、一瞬の後にはあの剣に斬り伏せられているに違いない。奴が放っている殺気が、理屈抜きでそう思わせる。


 へっ……これはやばいな。

 正直ちびりそう。




   □ □ □




 魔力メガネは無事に完成した。

 問題は、これを幾らで売れば良いかわからないって事だ。


 で、開発に協力してもらった二人――ココネルさんとリュンネにはとりあえず無料であげようかと思ったんだが……。


「絶対、ダメです! こんな凄い物、無料なんかじゃもらえませんよ!」

「そうね。多分とんでもなく価値が出るでしょ、これ」


 と、当の二人の猛反対に遭い、あえなく断念した。


 とは言え。

 あれば便利な物だし、リュンネはすぐに魔法の練習に使いたい。ただし二人とも手持ちの金は大して無い。初心者プレイヤーだからな。リュンネなんかココネルさんへの衣装代も支払い途中だし。

 なのでとりあえず現品は渡しておき、『適正な料金』を後で支払ってもらう事にした。材料費だけはとりあえず貰ったけど。

 まあ、その適正な料金がいくらかわからないんだが……。


 ちなみに、リュンネの魔力メガネは片眼鏡型に仕上げた。本人の熱烈な希望を受けての結果だ。金髪ツインテゴスロリ三角帽子片眼鏡魔女娘か……とことん趣味に生きてるな、こいつ。


「色々融通してもらって、流石に悪いわね。もちろん料金は後で払うけど……貴重な物を売ってもらうんだし、何か私にできる事ない? 何でもするわよ?」


 な、何でも!?

 リュンネは若いからか、迂闊な事をあっさりと言う時がある。おいおい勘弁してくれ、こっちの心臓に悪いぜ。


 実のところ、俺にとって魔力メガネはそれほど貴重品って訳でも無い。作り方がわかった今、俺なら普通に量産できるからだ。材料で貴重なのは魔色鉱くらいだが、高価ではあっても買えない物じゃない。それに、メガネ製作に使う量はごく僅かだ。

 まあ、とは言え……今のところ、俺以外は作り方を知らない可能性が高い。だから一般的には貴重品で間違いない、か。

 そう考えれば、何か頼んでやった方が変に負い目を感じないかもしれないな。ふむふむ。


「へえ、何でも……ところでリュンネって、カワイイよね」

「へ? あ、ありがと。何、急に?」


 中身はさておき、見た目は間違いなく良い。キャラクリ力が高いからな。古今東西、カワイイは正義だ。つまり、その可愛さは使える(・・・)


「じゃあ、少し……『お願い』しようかな? 可愛いリュンネにしか出来ないお願いを、ね」

「オールディさん……なんか、悪い顔してますよ?」


 いえいえココネルさん。これは爽やか笑顔ですって。

 ……本当だよ?




   □ □ □




 リュンネに固定パーティ――二人なので固定コンビと言った方が良いかもしれないが――を組んでいる剣士の仲間がいることは知っていた。名前はソレイユ。パーティーとは言っても、まだこのゲーム内では殆ど戦闘してないらしいが。


「私が先に魔法を習得したかったから、そっちを優先してるの。私が魔法を習得出来るまでの期間? ソレイユは剣術ギルドで訓練して腕を磨くって言ってたわ」


 と、かつてリュンネは教えてくれた。

 

 俺の『お願い』はリュンネ一人で出来る事では無い。パーティーメンバーの合意も必要な内容であるため、ソレイユを店に連れてきてもらったわけだ。



 で、そのソレイユ。

 なぜか店に入ってきた途端――殺気剥き出しなんだけど。


「君は、僕のリュンネに――何をさせるつもりなんだい?」


 そう問うソレイユの声は冷たい。


「やめて、ソレイユ! おっさんは、オールディは、そりゃ見た目は胡散臭いけど――」

「リュンネ、黙っていて。今は僕達が話をしている」


 さて、このイケメンにどう説明したもんかね……。



 と、いうかさ。


 ヤバいヤバいヤバい!

 何でこんなにヤバい雰囲気なの!?

 彼女に酷い事された彼氏が乗り込んできたみたいな感じなんだけど。俺、何も悪い事してないよ?


 そもそもさぁ。リュンネもパーティーメンバーが彼氏なら彼氏って言っとけよと。そう思うわけですよおじさんは。野良スクワッドでカップルとチームになった時みたいな気不味さあるからね、今。ああいう時どうしたら良いの? あいつらボイチャでイチャイチャしやがるしよ〜。おじさんはボイチャ切ってやり過ごすけどね。んで、意外と凄腕な彼氏がキャリーしてくれてドン勝ち出来たりね。たまにはそんなのも楽しいんだけどさ。


 半ば現実逃避気味にそんな思考を繰り広げていると、リュンネが爆弾発言をかました。


「凄く高価で貴重な物の支払いを先延ばしする代わりに、『お願い』を聞くだけだよ? 私が『何でもする』って言ったから、可愛い私にしか出来ない『お願い』をしたい……って」


 言い方ぁ!

 全部事実だけど、そう説明されるとなんかヤバイ話にしか聞こえない!

 完全に誤解されちゃってるでしょこれ!


 でもこれで、ソレイユが怒ってる理由はわかった。

 自分の彼女が何かヤバい事やらされそうになってたら、怒って乗り込んでくるよ、そりゃ。


 彼女……うん、彼女?

 待てよ。なにか違和感がある。

 イケメンが乗り込んできたから。『僕のリュンネ』とか言うから。てっきり二人はカップルなのかと思っていた。いや、思わされた(・・・・・)。だが、二人の距離感はカップルと言うよりむしろ――。


「ほ〜ぉ……それは一体、どんな『お願い』……な・の・か・な?」


 いや、もう全然怒り隠せてないですやん。青筋ピクピクですやん、この人。


「僕の彼女に変な事をしようと言うなら――」

彼女(・・)、じゃないだろ」


 冷静になって相手を見れば、得られる情報は多い。

 話し方、立ち振る舞い、視線の動き、表情の変化。そんな細やかな情報も、完全没入型(フルダイブ)VRでは現実のように伝わってくる。それらを統合すれば、更に多くの情報が見えてくる。性格、年齢、運動歴、そして――相手の関係性さえも。


「可愛い妹だからって、ちょっと過保護が過ぎるんじゃないか? シスコン(・・・・)さん?」

「……へえ、よくわかったね」


 俺の言葉を聞いた途端、ソレイユは露骨に雰囲気を緩め、愉快そうに微笑む。

 チッ……試してやがったな、こいつ。


「伊達にちょっと長く生きてねえよ」


 やれやれ、やっとまともに話が始められそうだ。

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