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四十四 参戦 

 門大達の周囲に、一陣の力強い風が舞い、何者かの気配が、門大のすぐ傍に現れた。


「何をやっていますの?」


「クラちゃん?」


 門大は言いながら声のした方に顔を向けた。すると、白銀色の板金鎧を身に纏い、頭の上に、なぜか、クロモをのせているクラリスタが、両手に持ったクラリッサ達からもらった、二振りの剣の切っ先をゼゴットに向け、ニッケの背中の上に立っている姿が見えた。


「石元門大。ごめんなさい。油断してたわ。大丈夫?」


 キャスリーカの乗る戦闘機が門大達に近付いて来て、キャノピーが開くと、コックピットの中にいたキャスリーカが、狙撃銃の銃口をゼゴットに向けて言う。


「キャスリーカ。機械の兵士達はもう配置に就いてるカミン」


 クラリッサの声が遠くから聞こえ、声のした方向から、クラリッサを乗せた、飛行形態になっている一機の機械の兵士が、門大達の方に向かって来る。


「全員集合じゃな」


 ゼゴットが言って、門大から離れると、クラリスタの前に移動した。


「クラリスタじゃな。初めましてじゃな。わしは、神。名は、ゼゴットじゃ」


 ゼゴットが言い、ほんわかと微笑む。


「門大に抱き付いて、剣を突き付けて、脅して、話をしていましたわね」


 クラリスタが怒りに満ちた目をゼゴットに向けて言った。


「あれは、ええっと、ええっと、そうじゃな。他にも、色々としたのじゃ。門大。よかったじゃろう?」


 ゼゴットが言ってうっとりとした顔をする。


「門大。どういう事ですの? キャスリーカと二人きりで楽しそうにしていて、更には、こんな、女の子、いえ、神を相手に。や、や、やっぱり、あ、あれですの? 門大は、ちょう? ろりこん? なのですの? わたくし、見ていましたのよ。どうして、抱き付かれていた時、抵抗しかなかったのですの? わたくしよりも、年下に見える神が出て来たら、そっちがいいという事ですの?」


 言っている途中からクラリスタの目が涙で潤み始める。


「はい? いや? え?」


 門大は、突然の思わぬ展開に、あれ? 俺、殺されそうになってたよね? そこは、無視されちゃうのかな? しかも、ゼゴットは嘘を言っているよ。俺は何もしていないよ。それなのに、泣きそうになるほど、そっちの方が重要? というか、クラちゃんが泣きそうになってるじゃないか! もう。と思うと、動揺のあまりに、言葉になっていない言葉を返してしまう。


「僕もちょっと怒ってるカミン。お兄にゃふの悪行は全部見聞きしてたカミンよ。僕のキャスリーカと随分仲良さそうにしてたカミンな」


「そういえば、私も色々と、石元門大にされちゃった気がして来たわ。もう、門大ったら、激しいんだからん」


 キャスリーカもうっとりした顔になって言った。


「は、はあ?」


 クラリッサとキャスリーカの言葉を聞いた門大は、なんだこれ? 俺、何もしてないよな? と思い、狼狽えつつ、言葉をこぼす。


「ハーレムルート突入ぽにゅな」


「ニャーンニャニャニャニャニャーン」


「クロモもヒロイン枠で参加したいイヌン? 贅沢な事言ってるイヌン。元の姿のままで、鎧のヘルメット役をやってるんだから、それで我慢するイヌン。ハガネなんて、鎧その物の姿に変身してるイヌンよ。クロモみたいに変身能力がなければよかったイヌン」


 ニッケとクロモと、クラリスタの着ている、白銀色の板金鎧に変身しているハガネが言った。


「な、なんだと? ハガネ。お前、それは、クラちゃんと、密着しすぎじゃないか? それ、中になんか着てる? まさか、素肌の上から、着てるとかじゃ、ないよな?」


 門大は、咄嗟にそう言ってしまった。


「か、門大、何を言っていますの? 素肌の上からなんて、そんな、そんな、違いますわ。そもそもわたくしはこんなの、駄目だと、言ったのですわ。それに、これには、いやらしい意味なんてありませんわ。これは、神の攻撃からわたくしを守る為に必要だと言われたから、こうしていて……。えっと、そうですわ。こういう事らしいのですのよ。神の、対立概念? である悪魔という存在は、神の攻撃では絶対に滅びる事が、ないそうなのですわ。それで、こうすれば、わたくしは、人の身であっても、神の攻撃から守られるからと、言われましたの。ですから、それで、着ているだけで、わたくしは、決して素肌の上から着ているなんて事はありませんわ。ただ、鎧の下に着るギャンベゾンがなかったので、一応、この鎧の下には、ハガネのモフモフの毛が、たくさん生えていて、それが、肌着の代わりになっては、いますわ、ね」


 クラリスタが、顔を真っ赤にして、もじもじつつ、酷く困惑している様子で言った。


「いや。今のは、別に、クラちゃんを責めてるんじゃなくって、一番、言いやすかったというか、分かりやすかったというか、とにかく、さっきまでの話の方向性が、なんか、分からなくなってて、俺がキャスリーカとゼゴットに何かしたみたいになってて、そんな事した覚えなんてまったくないんだけど、俺にとって、話の方向性が、よくない感じだったから、ごまかそうと思ったというか、いやいやいや、あれだ。やっぱり、責めたいかも。クラちゃん。それって、下は裸って事だよね? ハガネを裸で抱っこしてるとかならまだしも、それは、なんというか、そんなふうに密着してるのは、ちょっと、駄目なんじゃないかな。だって、ハガネとそんなにくっ付いて。い、いや、あ、あの、やっぱり、ごめん。今のは、なしというか、なんていうか」


 門大は、クラちゃんに嫉妬から出た言葉を聞かれた上に、クラちゃんをあんなに困らせてしまってる。けど、クラちゃんの素肌とハガネがあんなふうに密着してるのは、どうなんだろう。と思うと、ただでさえ、先ほどまでの話の流れで混乱していた頭の中が、いっぱいいっぱいになって、思い付いた言葉を片っ端から早口に捲し立てた。


 不意に、クラリスタの顔から笑みがこぼれる。


「嫉妬ですの? 門大は嫉妬をしていますの?」


 とても嬉しそうにクラリスタが言う。


「それ。それだ。嫉妬だ。俺は今猛烈にハガネに嫉妬している」


 クラちゃんが凄く嬉しそうにしてるから、もうなんでもいいや。これだ。これで行こう。と思った門大は、勢い込んで言った。


「これ、どうすんのよ? こいつら、私らそっちのけで、いちゃつきやがり始めてるわよ」


「キャスリーカ。こうなったら僕達もいちゃつくカミンよ」


 クラリッサが機械の兵士の上から浮き上がり、飛んで移動して、キャスリーカの乗る戦闘機の上に降り立って、そう言った。


 ゼゴットがゆっくりと門大達から離れ始める。


「あんた、逃げる気じゃないでしょうね?」


「ゼゴット。最後のお願いカミン。転生させるのをやめて欲しいカミン。そうすれば戦う必要なんてなくなるカミンよ」


「クラリッサ。それはできないのじゃ。じゃから、わしらは、戦うしかないのじゃ」


 ゼゴットが再び剣の壁を出す。


「あんた、勝てると思ってるの? 今すぐに無駄な抵抗はやめて、大人しくその首を差し出しなさい」


 キャスリーカがコックピットから出て、機体の上に行き、クラリッサの横に立つ。


「わしは、この世界では、ほとんどの事ができるからの。当然、勝てると思っているのじゃ」


 剣の壁が動き出し、門大達に向かって来る。


「とりあえず、全員退避。私について来て」


 キャスリーカが言い、キャスリーカとクラリッサの乗る戦闘機が、アフターバーナーを全開にする。


「クラリスタ。作戦通りに、頼むカミン」


「分かりましたわ」


「おわっ。ちょっと、皆、待って」


 門大だけが逃げ遅れる。剣の壁が門大に迫り、無数の剣が門大の全身に突き刺さりそうになる。


「門大」


 クラリスタが、門大に向かって手を伸ばして、声を上げた。


「クラちゃん」


 クラリスタの姿を見つめながら叫び、俺が怪我をしたらクラちゃんが悲しむ。と思った門大は、右腕を伸ばして、雷千閃槍を出す為のポーズをとって、槍。と言い、雷の槍を出して、その雷の槍を、剣の壁に向かって突き出した。雷の槍と剣の壁の剣が接触すると、前に、剣の壁を破壊した時と同じ現象が起こる。剣の壁を形作っていたすべての剣が蒸発し、門大は、間一髪のところで窮地から脱する事ができた。門大は、飛ぶ速度を上げて、クラリスタの元へと向かう。


「門大。今のが雷千閃槍ですのね。近くで見ると、凄い迫力ですわ。けれど、体は、大丈夫ですの? 怪我はありませんの? ニッケ。門大を乗せてあげて下さいまし」 


「了解ぽにゅ。早く乗るぽにゅよ」


「ニッケ。ありがとう。クラちゃん。俺は大丈夫。怪我はない。そうだ。怪我で思い出した。戦闘機からの映像で見てて知ってるかも知れないけど、あいつ、俺達を殺す攻撃と、そうじゃない攻撃とを、切り替えられるんだ。俺達を殺す攻撃じゃなければ、斬られたりしても、傷は、流刑地にかかってる魔法の力で再生する」


「あの子らしいわね。けど、容赦はしない」


 門大の言葉を聞いたキャスリーカが、虚空を睨むように目を細めた。


「きっと、本当は、僕達を殺したくないと思ってるカミンよ」


 クラリッサが言って、悔しそうな顔をする。


「神が手加減をしてるならチャンスイヌンよ。神の気が変わる前に決着を付けるイヌン」


 キャスリーカが、そうね。と言ってから、先ほど、剣の壁を出した時から、動かずに同じ場所に浮かんだままでいる、ゼゴットを見た。


「作戦を開始する。全機攻撃開始」


 キャスリーカが声を上げる。キャスリーカの乗る戦闘機の横を飛んでいた機械の兵士が、雲海の方に向かって飛んで行き、やがて、雲海の中に姿を消した。やや間があってのち、雲海を突き破って、飛行形態になっている無数の機械の兵士達が飛来し、すべての機体からミサイルや機関砲が一斉に発射され、発射された無数の飛翔体がゼゴットに向かっていった。


「門大。わたくしはこれからゼゴットを殺しに行きますわ。ですから、しばらくここで、キャスリーカ達と一緒に、待っていて下さいましな」


「俺もクラちゃんと行く」


「危険ですわ」


「危険なのはクラちゃんも一緒だろ? 邪魔とか、だったら、我慢するけど」


 門大は、クラリスタの目をじっと見つめる。クラリスタも門大の人の目を見つめ返し、二人は、そのまま何もも言わずに見つめ合う。


「クラリスタ。私は連れて行ってもいいと思うわ。あんたの戦いを見せてあげなさい」


 キャスリーカがクラリスタの方を見て言った。


「クラリスタ。そろそろ行くぽにゅよ」


 言ってニッケがゆっくりと移動を開始する。


「分かりましたわ。門大。一緒に行きましょう」


「クラちゃん。何があっても、俺が必ず君を守る」


「門大。わたくしは、どんなに非情で、残酷な事をしても、あなたの事と、わたくし達の未来は、絶対に守りますわ」


 クラリスタの表情が、悲しく、痛ましく、儚げだが、とても、凛々しいと思えるような物になった。


「クラちゃん」


 門大はクラリスタの表情と言葉に、ゼゴットを必ず殺すという覚悟を見た気がした。

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