四十 必殺の技
キャスリーカが、手に持っていた狙撃銃を消すと、左足を半歩分くらい前に出し、右足を半歩分くらい後ろに引く。それから、両手を前に向かって伸ばすと、右手で左手の手首を握った。
「教える技は二つ。まずは炎龍の技からやるわね。名前は大火炎球煉獄焦土。ポーズは、今、私がやってるようにするの。左手は開いてても拳でも大丈夫」
「こうだな?」
門大はキャスリーカと同じようにポーズをとった。
「それでいいわ。そんでもって、こう言うのよ。だいーかえんきゅうぅぅぅぅ。れんごくうぅぅぅぅ。しょうどおぉぉぉぉぉ。って。そうすると。手の前の辺りに、火球が出現するわ。最初はバレーボールくらいの大きさのが出て来るけど、それがどんどん大きくなるの。限界まで大きくなったら、今度は、放てーとか、貫けーとか、焼き尽くせーとか。この辺の言葉はアレンジは自由よ。そんなふうに言うと、それがびゅーんって真っ直ぐに飛んで行くわ。飛んで行った火球は何かに当たると爆発する。当たらないとどこまででも飛んで行くから、相手との距離の事は気にしなくていいわ」
「やってみていいか?」
「その前にもう一つの方の、雷神の技も教えておくわ。そうすれば、すぐに龍達相手に実戦に入れる」
キャスリーカが、今までとっていたポーズをやめると、右手だけを真っ直ぐに体の前に向かって伸ばす。
「今度は、右腕を伸ばして、五本の指を使って、何か、棒のような物を握っているような形を作って。太さは、特に気にしないでいいかな。でも、細いよりは太い物を握ってる感じの方がいいかも。今回は、足とかはどうでいいわよ。手の準備ができたら、今度は、いかずちいぃぃぃぃー。せんせんそうぅぅぅぅ。って言うの。そうすると、右手の中に雷の槍みたいなのが出て来る。出て来たらこれを相手に向かって投げる。普通の投げ槍みたいな感じだと思って使えばいいわ。当たると相手は槍に貫かれ、更に感電する。相手が密集してるとこに投げると、当たった相手以外の周りにいる奴らも感電させられるから、そういうとこを狙うといいかも」
門大はキャスリーカの手を見つめながら、自分の右手で、何か、棒のような物を握っている形を作った。
「教えてくれてありがとうな。これで、俺も戦えそうだ」
「最初は、あんたを、龍達の群れの中で戦わせようと思ってたから、狙撃銃を出したんだけど、プランを変えましょ。今教えた二つの技の練習も兼ねて、ここから二人で龍達を撃てばいいわ。あんたは、まずは大火炎球煉獄焦土で、龍の群れを吹き飛ばしてやりなさい。それで、生き残った奴らを雷千閃槍で各個撃破。そん時に、大火炎球煉獄焦土を使ってもいいけど、火球が大きくなる前に使うと威力が落ちるから、その辺は状況に応じて使い分けた方がいいわね。雷千閃槍は、一度、雷千閃槍って言った後は、同じ手の形を作って槍って言えば、千回は、それだけで、雷千閃槍をぱっと出してぱっと使えるから、そっちの方が細かい敵を倒す時は便利だと思うわよ」
門大は、分かった。と言って頷き、大火炎球煉獄焦土のポーズをとる。
「よし。じゃあ、やるぞ」
「龍達を狙いやすいように戦闘機を傾けるわ」
戦闘機が傾くと、門大の視界の先に黒龍達の形作る、暗黒の渦が見えて来た。
「だいーかえんきゅうぅぅぅ。あっ」
「あっ、て何? 駄目じゃない。途中で余計な事言うと出ないわよ」
門大はポーズをとるのをやめると、キャスリーカの方に顔を向ける。
「この二つの技も、味方がいたら使えないよな?」
「大火炎球煉獄焦土は駄目だけど、雷千閃槍は使えるわ。クラリスタは絶縁対策してるし、私とクラリッサには電撃は大して効かないから、雷千閃槍が直撃しなきゃ大丈夫」
「絶縁体策って、なんか急にファンタジーじゃなくなったな」
キャスリーカが微笑む。
「そういうのがいいんじゃない。魔法とか幻獣とかに、科学的な知識や力で対抗するみたいな?」
「ああ。それな。なんとなく分かるかも。ちょっと例えは違うかも知れないけど、UFОと戦闘機の戦いとか、映画で見たけど、あれはわくわくした」
門大は言い終えると、再び大火炎球煉獄焦土のポーズをとった。
「だいーかえんきゅうぅぅぅぅ。れんごくうぅぅぅぅ。あっ」
「また、あっ、って。あんた、何? 私を笑わそうとしてんの? それとも、ふざけてんの?」
門大は、ポーズをとるのをやめ、自分の左手を見つめる。
「これからあの龍達を殺すと思ったら、なんか、かわいそうになって。それと、炎龍の事も気になって来た。あの龍達を殺したら、炎龍が悲しんだり怒ったりしないか?」
キャスリーカが静かに目を伏せる。
「どうして、ぱっとやってくれないかな。なんで、そうやって、そういう事を、考えちゃうかな」
「だって、これって、一発で結構殺せる技なんだろ? 大量虐殺だぞ。殺さないで、なんとかなったりしないのか?」
「そうね。あんたには、私やクラリッサみたいな経験もないし、理由も、ないもんね。どう言えばいいのかな。えっと。そうだな。今は、私やあんたは物を食べなくても平気だからお腹は空かないけど、普通は、お腹が空いたら何かを食べるでしょ? そん時に、食べ物が何もなくって、何か生き物を殺さないと、殺して食べないと、食べ物を得られなかったとする。あんたは、そこで、かわいそうだから殺せない。食べられないって思うかも知れないけど、結局最後には、自分が生きる為に、何かしらの生き物を殺して食べるしかないのよ。だから、最後には、自分が死にたくないから、食べるという選択をする。生きて行く為には、何かを殺すのは、しょうがない事だわ。これから私達がする事は今話したみたいな、自分達の生死がかかってるような、真にやむを得ない事情があるわけじゃないけど、この戦いは、私達のこれからの人生がかかってる戦い。自分が自分らしく生きる為の戦い。他には方法がないから、自分達の求めてる物を手に入れる為には、相手を殺さないといけないから、ここで相手を殺さなければ、私達には、自由がないから、だから、やるしかないの。何度も転生を繰り返して来た、私とクラリッサにとっては、その事が、自分が自分らしく生きるって事が、自分達の生死以上に、重要な事なの。純粋に、生きる為だけに命を奪うという行為と、自分達が自分らしく生きる為に命を奪うという行為には、絶対的な差があるって、あんたは思うと思う。けど、私とクラリッサは、昔は、あんたと同じように思ってたけど、今は、その二つの事には、差なんてないと思ってる。あんた達を巻き込んでるのに、こんな、拙い説明でごめんね。でも、私には、これ以上は、うまく言える気がしない。それに。何を言っても、私には、あんたを心から納得させる事は、できないと思う。あと、それと、炎龍の事だけど、炎龍は、昔、自らの炎で黒龍達を焼き殺してたわ。それしか、黒龍達を今の状態から解放する手段がなかったから。もちろん、やりたくてやってたんじゃないんでしょうけど」
「ごめん。キャスリーカ。変な事聞いたな。もうやるって決めた事だもんな。今更こんな事言ったら駄目だよな。炎龍。すまない。俺は、これから龍達を殺す」
キャスリーカが門大の肩に手をのせる。
「あんたがさっきみたいな事言い出すと、こんな私だって、辛くなるんだから。次からはもっと気を使いなさいよね」
言って、キャスリーカが伏せていた目を上げ、優しい笑みを、顔に浮かべた。
「きっと怒るだろうから、先に謝っておく。本当にごめん。キャスリーカ。さっきの話で、どうしても聞きたい事が一つできちゃってて。聞こうかどうしようか迷ったんだけど、なんか、キャスリーカが優しく笑ってくれたから、今、聞けそうな気がして来たし、やっぱり今聞いておきたい。話の中で言ってた、お腹が空かないってどういう事だ?」
「何? あんた、この場面で、そういう事、本気で言ってるの?」
キャスリーカが、目を細め、門大を睨みつつ、門大の肩にのせていた手を引いて言う。
「すまん。本気で言ってる」
「あんたねえ。本当に駄目駄目な男よね。空気も読めてないし。私もなんで余計な事言ったかな。それはね。私はもう神になりかけてるから、食べようと思えば食べられるけど、食べなくても死んだりしないから、空腹という感覚自体がないのよ。あんたの場合は、クラリスタもそうだけど、ここ、流刑地にいるでしょ? ここでは不老不死だからよ。餓死だって立派な死因になるんだから」
門大は、なるほど。そういえば、もうずっと、飯食ってなかったけど、全然平気だったもんな。と思った。
「あんたって、基本的に能天気よね。さっきは、龍達を殺せない、みたいな事言って、深刻ぶってたのに、今は、なんかバカそうな事考えてる目してるし。でも、ちょっと、和んだかも。一応、お礼を言っておくわ。ありがとね」
「キャスリーカ。こっちこそ、色々話してくれてありがとうな。絶対この戦い勝って、また、こんなふうに一緒に話をしような」
門大は言うと、キャスリーカの返事を待たずに、龍達の群れの方に顔を向けた。