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三十七 Love is power

 雲海を突き抜けると、そこは、龍の巣窟だった。空を埋め尽くす龍達の色は、ことごとく黒く、龍達が群れ飛ぶ姿は、暗黒が渦を巻いているかのようだった。


「さっき、落ちて来てた時は気が付かなったけど、こいつらなんでこんなに黒いんだ? 体も目の色も全部真っ黒だ」


 龍の群れの横をかすめるようにして、龍の群れの更に上に向かって上昇して行く戦闘機の上から、龍の群れを見つめながら門大は言った。


「この龍達は、私達がこれから戦う神によって個としての存在を奪われてるからよ。本来は、炎龍が赤いみたいに、その龍にはその龍の種としての色があるの。この世界には、炎龍、水龍、毒龍 鉱龍の四種がいたわ。けど、すべての龍がその神によって黒龍に変えられたの。黒龍はその神が作った五番目の龍族。神の命令だけを聞く龍族なのよ」


「炎龍は? 炎龍はどうして変えられてないんだ?」


「分からないわ。けど、この世界で、炎龍だけは、炎龍のままなの。そして、これが、この黒龍達の存在が、炎龍がこの世界を三度焼き尽くした理由。炎龍は、黒龍達の為に、この世界のすべてと戦ってたの」


 キャスリーカの言葉を聞き終えると、六つある目のうちの一対、炎龍の二つの目が涙を流し始める。


「なんだ? 炎龍の目が。これ? 泣いてるのか?」


「炎龍。出て来て。私達に力を貸して」


 キャスリーカが炎龍の目を見つめて言った。


「駄目だ。何も言わない」


 炎龍からの返答を、しばしの間待ってから門大は言った。


「でも、涙を流すっていう反応はあったじゃない。また何かあったら言って。私も何か気が付いたら、声をかける」


「分かった」


 門大は、炎龍。お願いだ。出て来てくれ。クラちゃんの為なんだ。頼む。とキャスリーカに言葉を返してから強く思い、再び炎龍からの答えを待った。


「ちょっと、そんなに思い詰めた顔しないでよ。それじゃ戦う前から負けてるみたいだわ。あの子達の砲撃のお陰で、龍達がまだこっちに気が付いてないからこんなふうに話をしてられるけど、龍達が私達に気が付いたら一気に群がって来るわよ。ゾンビの群れの中に飛び込んだらこんな感じだろうってくらいの勢いで来るんだから。しっかりしなさいよね」


「前にも、戦った事があるのか?」


「あるわよ。何度もね」


「この神との戦いも、何度もやってるって事なのか?」


「そんな事聞いてどうすんのよ。今は関係ないでしょ。そんな事よりも、そろそろ本題に入るわよ。あまり時間もないんだから。ああ~。それとも、あんた、あれ? 今になって戦うのが怖くなってるとか?」


「あのな。そんな事あるか。分かったよ。とっとと、話を進めてくれ」


 戦闘機が上昇をやめ、機体底部を遥か下に見えている、雲海に対して水平にして、ホバリングを始めると、キャスリーカが両腕を自分の足元の方に向かって伸ばし、戦闘機の機体の上に、銃器を呼び出し始める。鈍い黒色をしているその銃器は、狙撃眼鏡の付いている狙撃銃のようだったが、銃口、銃身、弾倉などの部分が、銃床や銃把、狙撃眼鏡などの部分よりも、あまりにも巨大で、酷く不格好な物だった。


「なんか、凄い形の銃だな」


「対巨大幻獣用狙撃銃。全長百メートルくらいの龍なら、胴体首頭のどこかに当てれば一撃死させられるわ」


「こんなに大きくて、そんなに威力のある銃、お前に撃てるのか? しかも、いくつ出したんだ? 十丁以上あるんじゃないか?」


 キャスリーカが、自身の体の前に山積みになっている狙撃銃を、じいーっと見る。


「とりあえず、十五丁くらい? 出したわ」


「なんか、適当な感じがするけどまあいい。それで、それは、やっぱり神の特殊な力みたいなので、全部一度に撃ったりするのか?」


「そんな事できるはずないじゃない。一丁ずつ手に持って撃つのよ」


「なんだよそれ? それじゃたくさん出した意味がないだろ?」


 キャスリーカが重そうに見える狙撃銃を、軽々と一丁持ち上げると、右手で銃把を握った。


「バカね。弾倉が空になったのを変える手間がなくなるでしょ。とっかえひっかえ撃つのよ」


「それなら、機関銃とかのがいいんじゃないか?」


 キャスリーカが門大に、蔑むような目を向ける。


「あんた、狙撃銃はロマンって言葉を知らないの? 私、ゲームにもちょっとハマってた事あるんだけど、FPS界隈じゃ常識よ。一撃必殺でやるからいいのよ。フルオートの銃でばかすか撃つなんて無粋の極みだわ」


「あのな。ゲームって、遊びじゃないんだぞ」


「あんた、本当にバカね。そこは、照れ隠し? そ、そ、そんな事なかったわ。ええっと、なんだっけ。あれよ。ビジネス枕詞みたいな感じよ。少し考えれば分かるでしょ? あんたがあの龍達の中で戦ってる時に、機関銃とか、この戦闘機の機関砲とかで、ばかすか撃ってあげよっか?」


 門大はその言葉を聞いて、狙撃銃である意味をなんとなく理解できた気がした。


「間違って俺に当てないようにって事か? お前、いや、君は、なんだかんだ言ってても、意外といい奴だな」


「バ、バカね。急に何言ってんの。違うわよ。今のは間違えただけ。本当は、炎龍の眷属である龍達を殺すのに無用な痛みを与えたくないからよ。変なとこ撃って苦しませるより、一発で殺した方がマシでしょ」


 キャスリーカがぷいっと顔を横に向けた。

 

「いや。どっちにしてもいい奴だろそれ」


「何? まさか、あんた私を口説く気なの? クラリスタと離れた途端に浮気? 最低だわ」


 予想の斜め上を行く、キャスリーカの言葉を聞いた門大は、ぽかんとしてしまう。


「何よ、その顔?」


「あ、ああ。あれだ。いきなり口説く気、とかなんとか言い出したから、なんか、お前、あ、また言っちゃった。き、君に、そういう事言われると、なんか変っていうか。こういう感じの会話を、君とするのが初めてだからかな?」


「お前とか君とか。まあ、気を使ってくれてるのは嬉しけど。でも、私、変な事言ったかな?」


 キャスリーカがそう言うと、真面目な顔をして押し黙った。  


「おーい。そんなふうに黙るなって。なんか気まずいぞ」


 キャスリーカが真面目な顔から、少し力の抜けた感じの顔になる。


「よく考えたら、あんたみたいな、男、えっと違う。一般の人? と話すのって久し振りなのかも。それでちょっと調子が狂ったのかも知れないわ。あんたって、いい感じで普通よね。この状況なのよ? もっとテンパってて、おかしくなっててもいいと思うわよ」


 門大は、龍達の方に目を向けた。


「どうだろうな。戦いが始まったらテンパると思うぞ。後は、あれだろ。一度死んでるからな。その思いが、やっぱり、強く俺の中にあるんだと思う。まあ、今は、クラちゃんの命を背負ってるから、前よりも無責任にはなれないけど、どこかで、やっぱり、死んでもこんな感じかって思っちゃってるんだと思う。死ぬ事が怖くなくなったっていうか、死が未知の物じゃなくなったっていうか」


「それは、きっと、転生した後の今が幸せだからよ。私みたいに何度も転生してたらそんな事言えなくなると思うわ。色んなシチュエーションがあったんだから」

 

 キャスリーカが言葉を切ると、何かを考えているような顔をする。


「どうした?」


「そういえば、あんたっていくつよ? 聞いてたっけ? まあ、聞いてたとしても、覚えてないから教えなさいよ。あんた本来の姿を見た事がないから分からないけど、そんなに若くないはずよね? 話をしてると分かるんだから」


「急になんだよ? 三十八だけど、なんか文句でもあんのか?」


 キャスリーカが大げさに驚いた顔を作る。


「嘘? マジ? あんた、超ロリコンなの?」


「な、なんだよそれ?」


「だって、クラリスタっていくつよ? あの子、十五歳とかくらいじゃなかったっけ? いくつ年が離れてんのって話じゃない?」


 門大は、一度顔を俯けてから、ゆっくりと顔を上げると、龍達の向こう、何もない空の、ずっと遠くを見る。


「違うんだよ。最初は、全然好きじゃなかったんだ。それに、俺だって、抵抗はあったんだよ。今だって、そんなふうに言われると、あの子の将来を奪ったっていう思いがあるから、罪悪感が湧いて来るんだ。けど、けどな。あの子はいい子なんだ。俺の何もない人生を変えてくれたんだ。それで、俺は、あの子の気持ちに気付いて、その気持ちになんとかして、応えようって思って」


「何? じゃあ、好きじゃないの? しょうがないから結婚したって事?」


「そんな事ない。しょうがないって気持ちで結婚できるほど、俺はできた人間じゃない」


「じゃあ、好きなのね? 心から愛してるのね? その気持ちに嘘はないわね?」


 キャスリーカが強い意志のこもった目で門大の人間の目を見つめる。門大は、キャスリーカの目を見つめ返した。


「嘘はない。俺は、クラリスタを心から愛してる」


 キャスリーカが、優しい笑みを顔に浮かべた。


「いい感じに話がまとまったから、言っておくわ。その気持ちがこれからあんたの力になる。炎龍と雷神の力の源は愛よ。あんたの愛が強ければ強いほど、あんたの使う炎龍と雷神の力は強くなるわ」


「は? え? お、ま、いや、君は、急に何を言い出すんだ?」


 門大は自分でも分かるほどに六つの目を丸くしつつそう言った。

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