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三十六 機械の兵士

 クラリッサが不意にキャスリーカの手をぎゅっと握り締める。キャスリーカが驚き、何かに弾かれたような動きで、クラリッサの方に顔を向けると、クラリッサの目を見つめた。


「キャスリーカ。さっきの、この戦いでの死についての話の事で、その、僕を、フォローしてくれて、お兄にゃふ達を絶対に死なせないって言ってくれて、ありがとうカミン。それで、ええっと、あれカミンよ。行く前にクラリスタの御両親と王子を、王都に戻した方がいいと思うカミン」


 クラリッサが、涙で潤む目を空いている方の手でこすりながら言った。


「門大。わたくしは、お父様とお母様にお別れの挨拶をして来ようと思いますわ」


 クラリスタが何やら迷っているような顔を見せつつ言う。


「うん。行っておいで。なんか、さっき、俺達も、お別れの挨拶したばっかりだから、変な感じだけど、また後で会おう」


 門大は、自分も行こうか。と一瞬思ったが、親子水入らずの時間を邪魔しちゃいけないな。と思い直すと、そう言葉を返した。クラリスタが、はい。また後で。と言って両親の元へと駆け寄って行く。


「もう。そんな顔して。あんたって、本当に、バカなんだから」


 キャスリーカが言い、クラリッサの肩に手を回し、自分の方にクラリッサを引き寄せてクラリッサを抱き締めてから、轟音と爆煙の中に埋もれるようにして、砲撃を繰り返している、機械の兵士達の方に顔を向けた。


「スカル小隊各機。私の傍に来て」


 門大は、スカル小隊という言葉を聞いて、どこかで聞いた言葉だけど、どこだろう? と漠然と思いながら、機械の兵士達の方を見た。砲撃が一瞬止むと、二足歩行形態に変形した三機の機械の兵士達が、機械の兵士達の集団の中から抜け出て来て、キャスリーカの元へと集まって行く。


「あんた達には別の任務を与えるわ」


「ナニ?」


 一機が他の二機よりも一歩前に進み出て、電子音声で返答する。


「言葉を話せるのか?」


 門大は、思わず驚きの声を上げてしまう。


「この子だけは話せるのよ。この子は、私が最初に作ったAIで、他の子のAIも全部この子の派生型なの。なぜか、この子だけには、心みたいな物も生まれててね。かわいい子よ」


「カワイイ? ウレシイ」


「それは、凄いな」


 言葉を話す機械の兵士と門大は、ほぼ同時に言葉を出した。


「コンニチハ。テンセイシャ」


 言葉を話す機械の兵士が、門大の方に顔を向けると、そう言って、頭を下げる。


「ああ。これは、ご丁寧にどうも。転生者です」


 慌てて門大も頭を下げた。


「ふーん。あんた、無職だったわりには、ちゃんと挨拶とかできるのね。少しだけ感心したわ」


「んん? いや、ちょっと待ってくれ。なんか、言葉に棘がないか? 俺達は、もう、敵対してないんだよな? 俺、お前に、なんか嫌われるような事したか?」


 門大は頭を上げて言う。


「私の事、お前呼ばわりしてるし。同じ日本出身だし」


「一つは、まあ、分かる。でも、今までの印象が最悪だからな。そう呼ばれても、しょうがないと思うぞ。ただ、そうだな。今後は変えて行くように努力はする。けど、もう一つの、日本出身の方は意味が分からない」


「そっちは、なんとなく言ってみただけよ」


「テンセイシャハ、イイヒトノヨウデス」


 言葉を話す機械の兵士が頭を上げながら言った。


「あんたはすぐにそうやって人を信用する。疑うって事を知った方がいいわ」


「あんまりのんびりも、していられなくなって来たみたいぽにゅよ。龍の数が急激に増えて来てるぽにゅ」


 ニッケが言う。


「いくら増えったって意味ないのに。嫌になるわね。スカル小隊。あんた達は今から、あそこにいる三人を乗せて、王都へ行って。その後は、私が迎えに行くまで、王都であの三人の護衛をお願い」


「イヤダ。ママヲオイテハイケナイ」


 キャスリーカの目に、とても優しい表情が宿る。


「ほんっとに、あんたはかわいい子だわ。けど、我慢して。あんた達スカル小隊が、一番優秀だし、一番実戦を経験してるわ。だから頼んでるの」


「ダカラ、ママノソバデママヲマモル」


「私なら大丈夫」


「ウソ。ママハシヌツモリダ。コノタタカイハソウイウタタカイデショ? サイゴノタタカイダッテ、ママガマエニイッテタ」


「クラリッサ。ちょっと離れるわ」


「うんカミン」


 キャスリーカが、キャスリーカの腕の中で、何も言わずに安らいでいたクラリッサから離れると、言葉を話す機械の兵士の傍に行き、その大きくて、いかにもメカメカしいが、人の手と同じ五本の指を持つマニピュレーターの指の一つを、両手でそっと包むように挟んだ。


「私は死なない。この戦いが終わったら、あんた達全機とのんびり過ごすの。それが今の私の夢の一つでもあるんだから」


「ママ」


 一人と一機が見つめ合う。


「なあ、あれか? やっぱりスカル小隊ってマクロスからとったのか?」


 門大は、不意に、ああ~。そうだった。思い出したぞ。スカル小隊って、超時空要塞マクロスに出て来た奴だろ? と思うと、知ってる事をアピールしたくなって、そう言ってみた。


「ちょっと。あんた、今のこの場面で、口を挟むとか、ありえなくない?」


 キャスリーカが言ってから、門大をじろりと睨む。


「タイミングが悪かったか。なら、さっきのお返しという事に、しておこうかな」


 門大は、ばつが悪くなり苦笑しつつも、そんなふうに言葉を返す。


「石元門大。あんたってば、最悪だわ。死ねばいいのに」


 キャスリーカがそこまで言って言葉を切ると、言葉を話す機械の兵士の顔を見上げた。


「それで、あんたの方はどう? 行く気になってくれた?」


「ママ。ゼッタイニシナナイデ」


「あんたも、壊れたりしないでよ? 修理が大変なんだから」


「ウン」


 キャスリーカが、言葉を話す機械の兵士のマニピュレーターの指から、手を離す。


「それじゃ、行きなさい。後で、必ず、また会いましょ」


「ウン」


 そう言うと、言葉を話す機械の兵士が振り返り、後ろを向いた。


「スカルショウタイカッキ。アタラシイニンムニツク。イドウヲカイシスル」


 言葉を話す機械の兵士が、他の二機を従えて、クラリスタとクラリスタの両親達のいる方に向かって歩き出す。


「クラリッサ。クラリスタの両親達には、あんたから、あの子達の事を伝えて。これ以上、あの子達の近くにいると、私、行くのが嫌になっちゃいそうだから」


「分かったカミン。キャスリーカ。気を付けて行って来るカミンよ」


「あんたも、くれぐれも気を付けてね」


 キャスリーカが言い、門大から少し離れた場所まで歩いて行く。


「戦闘機を出すわ」


 キャスリーカが、クラリスタと戦った時に乗っていたのと同型の戦闘機を呼び出すと、その機体の上に飛び乗る。門大は飛んでついて行こうと思い、体を宙に浮かせた。


「何やってるの? 早くこっちに乗りなさいよ。一人で上に行ったって何もできないでしょ? 戦いながら教えるって言ったって、戦いを始める前に話す事も結構あるのよ」


「分かった」


 垂直に離陸して行く戦闘機の上に、門大は慌てて飛び乗った。


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