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プロローグ

 執事に呼ばれ父親の部屋に行ったクラリスタは父親の言葉を聞いて、白目をむいて卒倒しそうになった。


「ありえないですわ。今になって婚約破棄だなんて」


 クラリスタは、世界の全てを壊さんばかりの勢いで声を上げる。


「私だってそう思っている。だか、愛しいクラリスタよ。王子はあの小娘を愛してしまったらしいのだ。こればかりは人の心の事。私達にはどうしようもない」


「いいですわお父様。わたくしが直接あの王子バカに会って話をしてきますわ」


 クラリスタは、待ちなさいと言う父親の制止の声を振り切って部屋を出る。


「こんな事おかしいですわ。あの貧乏くさい小娘が何かをしたに決まっていますわ。気が変わりましたわ。あのバカは後回しよ。まずはあの小娘をしばいてやりますわ」


 クラリスタは、怒りを更に燃え上がらせると歩く速度を上げる。 


「お嬢様。クラリスタお嬢様。お待ち下さい」


「なんなの?」


 執事長の声を聞いたクラリスタは、足も止めず振り向きもせずに声を上げた。


「王子様が、ハイエルランス王子様がおみえになっています」


「なんですって? どこにいるの? 良くもまあ、会いにこられたものですわ」


 クラリスタは振り向き執事長を睨む。


「今、屋敷の中に案内したところです。応接室にてお待ちいただくよう案内の者には指示を出しております」 


 執事長が深く頭を下げて言う。


「やあ、クラリスタ。ここにいたのか。君に大事な話があって会いに来たんだ」


 そんな声がしたと思うと、執事長の背後にある廊下の角から、金髪碧眼の美少年が現れ笑顔を見せる。


「やあ、じゃないですわ。あなた、良くもわたくしの前に顔を出せたわね」


 クラリスタは足早に王子に近付くと、王子の胸倉を掴む。


「おいおい。勘弁してくれ。君のそういう所が僕は昔から嫌だったんだ。君に比べて、あの子、キャスリーカは最高だ。おしとやかだし、乱暴もしない。君みたいになんでも押しつけがましくない」


 王子が、なんの感情も読み取れない無表情な顔で言った。


「そんな、そんな事、急に、今になって言われても困りますわ。どうして今になって。もっと早く言ってくれれば直す事もできましたのに」


「嘘だね。僕は何度も君に伝えていた。けど、君はいつもなんだかんだと言って我を通したんだ」


 クラリスタは王子の胸倉から手を放す。


「これでお別れだと思わないでくれ。君にはたっぷりと今までのパワハラの仕返しをさせてもらうから。君は今まで通り僕の幼馴染として僕のそばにいてくれていい。だが、もう、調子には乗らない事だ。僕には、キャスリーカがいる。これからの僕にとって君はただの景色だ。四季折々に景色らしく姿を変えて、精々僕の目を楽しませてくれたまえ」


 王子が言ってしゃがむと、慇懃無礼にクラリスタの手を取りその甲にキスをする。


「だあー。もうやってらんねえ。もう我慢の限界だ。あんたって最低だな。この子が、いや、俺が今までどんな思いで頑張って来たか」


 クラリスタ、いや、これはもうクラリスタに転生していた石元門大の言葉そのものだった。クラリスタが乱暴に自分の手を王子の手から引き抜く。


「クラリスタ?」


 王子が酷く驚いた顔をする。


「まったく。何度も何度も何度も何度も。百三回だぞ。なんなんだよこのゲーム。だいたい、俺やった事ないんだよ。つーか男は普通やらないだろこの手のゲームさ。見えてんだよ。恋愛パラメーターがさ。あんたの頭の上に今もさ。嫌でも分かるの、俺には、これがゲームの中の世界だって」


 クラリスタは一気に捲し立てる。


「ク、クラリスタ?」


 王子が目に涙をいっぱいに溜めて泣きそうな顔になり、おろおろとしはじめる。


「何がクラリスタ? だよ。いっぺん痛い目にあっとけよ。魔法剣召喚」


 クラリスタは、右手の掌を上に向けて唱えた。


【駄目ですわ】


 クラリスタの中で、石元門大以外の誰かが叫ぶ。クラリスタの右手の掌の上に召喚されるはずの剣は召喚されず、何事も起こらない。


「なんだこれ? 急にどうした?」


 クラリスタ(石元門大)は自分の掌を見つめる。


【あのバカは傷付けさせませんわ】


「はあ? 何? 誰? どこ?」


 クラリスタ(石元門大)は言いながら周囲を見回す。


【あなたの中ですわ。どこかは分からないですけれど】


「中って? 体の中なのか?」


【そうですわ】


 クラリスタ(石元門大)は自分の胸の辺りを見つめる。


「全然分からない。場所はもういい。で、誰?」


【クラリスタですわ】


「クラリスタ? ちょっと、待った。クラリスタは俺だろ?」


 クラリスタ(石元門大)は顔を上げ、目の前にいる王子の顔をじっと見つめる。


「いやいやいや。私は何も言ってない」


 王子が激しく左右に首を振る。


「クラリスタが君で、俺もクラリスタ?」


【違いますわ。わたくしがクラリスタで、あなたはそのわたくしの中にある日突然入って来た謎の人物。あなたが入って来てからわたくしはずっとほとんど何もできずにこの体の中でじっとしていたのですわ】


 クラリスタ(石元門大)は酷く驚いてから、ゆっくりと話し出す。


「こういう事か? 転生した俺と転生先の君とが一緒にいる、と。そういう事なのか?」


【転生というのは良く分かりませんけれど、一緒にいるという事はそういう事だと思いますわ】


「どうして今まで何もしてくれなかったんだ? 協力してくれればもっとうまくこの世界で立ち回る事ができただろうに」


【さっき、何できずに、と言ったはずですわ。今の今まで、わたくしに自由はなかったのですわ。何度もあなたに話しかけましたわ。けれど、それはほとんど何も、伝わらなかったのですわ】


 独り言を繰り返しているクラリスタ(石元門大)の目の前の廊下の床の上に突如として魔方陣が現れる。


「謀反とはこれは大罪だわ。断罪しないと」


 腰まである美しい黒髪が印象的な女の子が、魔方陣の中から生えるようにして現れて言う。


「キャスリーカ? どうしてここに?」


 王子が言い、キャスリーカのそばに行く。


「王子様。さがっていて下さい。この謀反人を成敗してしまいます」


 キャスリーカが言ってから何事かを呟くと、黒色の物体がその掌の中に召喚される。


「ぼーっとしていてバカそうな転生者ね。あんたみたいので良かったわ。この世界に転生者は二人はいらない。悪役に転生して残念だったわね」


 キャスリーカがクラリスタ(石元門大)に近付くと耳元で囁き、黒色の物体の先端部分をクラリスタの胸に突き付ける。クラリスタはそこで初めて自分の置かれている状況に気が付き、胸に突き付けられている物体が剣と魔法が支配するこの世界には存在しないはずの武器、拳銃である事を知った。


「なんだこれ?」


クラリスタ(石元門大)が呟いた瞬間、サプレッサーに押さえられた小さな発砲音が一度だけ鳴る。クラリスタ(石元門大)は体に走った衝撃とそれに続いて襲って来た痛みに顔を歪ませて、その場に崩れようにして倒れる。


「大丈夫よ。まだあなたは死なせない。死んじゃったら、あなたをいじめられないもの」


 クラリスタ(石元門大)はそう言ったキャスリーカの目を見つめる。


「だってほら。パワハラ幼馴染はざまぁされないと。この世界のどこかに罪人を監禁して永遠に苦しめる為の流刑地があるんだって。王族に狼藉を働いた者はそこに流されるらしいの。あなたが流されたらそこの場所も分かると思う。そうしたら、たまに王子と見に行くわ。精々そこで頑張りなさいよね」


 王子には聞こえないように、キャスリーカがクラリスタ(石元門大)の耳元に顔を再度近付けて囁いた。お前はいったい何者で、どうしてこんな事をする? そう言おうとクラリスタ(石元門大)は思ったが、体がまったく言う事を聞かず、何もできないままに意識を失った。




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[一言] 応援してます!
[良い点] 興味深く拝読しました。
[良い点] ・そつない文章作法。 ・程度な余白による可動性の配慮。 ・引きのある第一話。 [気になる点] ・あらすじに誤字が、シャスリーカになっています 。 [一言] 頑張って下さい応援しています。
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