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旭日の惑星  作者: 小林ミメト
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第漆話:盗賊の頭と護衛の元勇者

 富士見達は、女性の悲鳴を聞いてただ事ではないと判断して声のする方へ向かった。


 その先では、10歳程度の見た目をした容姿端麗な女の子が、盗賊の頭と思わしき人物に逃げられないように手をしっかりとつかまれていた。彼女の特徴としては、長い金色の髪の毛から覗く笹穂耳である。


 ただ、彼女の服装はそのかわいらしい外見には似合わなすぎる。強いてわかりやすく言うとくたびれた灰色の童貞を殺す服のようだった。


 彼女の周りには、同じ服を着た様々な種族の女の子が横転して壊れた馬車の周りに直接座らせられていた。


 いわば、この子たちは奴隷として運ばれていたのである。それが、突然強風が吹いて馬車が横倒しになり、そのすきにこの笹穂耳の女の子が逃げ出そうとしたため、見せしめとして小太りの無精ひげを生やした御者の一人がお仕置きをしようとしているのである。


「放して!私が誰だかわかってるの!?」


 「うるせー!叫ばなくてもわかってるぜ!サウザンド・リーフ公国軍の精鋭、ドリュアン騎士団団長の妹のシュナラ・シノン様だろ?」


 「そうよ!こんなことをして公国の民が黙っちゃいないんだから!!」


 「エルフとドライアドの国なんぞ怖くねーわ!そんなもん、クラウドペガサス帝国が一ひねりだぜ!!」


 男は、そう言うとエルフ族の娘に向かって汚らしい手をワキワキさせて近づいていった。


 その時、後ろから声をかけてくるものがいた。


 「いいのか?コルトネ。そいつは奴隷市場で売る商品だろ?初物のままだったら高く売れるぜ。」


 コルトネは、顔をむっとさせて話しかけてきた初老の男性に詰め寄った。雰囲気からして、どうやらこの御者や奴隷商人の護衛をやっている人物のようだ。


 「硬いことを言うなや元勇者さん。なんなら一緒に楽しむか?え?」


 そう言い終わるや否や初老の男性は、依頼者の男性に目にもとまらぬ速さで剣を向けた。


 「その二つ名をなぜ知っている・・・この髭デブが・・・。」


 だが、コルトネも負けじと両手の指をぽきぽきと鳴らした。


 「ああ?髭デブじゃねえ!俺は、奴隷商人の中でも別格の強さを誇るドライウィンド盗賊団の第一師団団長、ランハン・リバオ・コルトネ様だ!」


 それを聞くと、初老の男性は一度獲物を鞘に納めた。だが、彼から漂う殺気は収まっておらず、むしろ格段に上がっている。その証拠に、殺気などに敏感な猫耳の亜人奴隷が数人ほど毛を逆立てながら涙を浮かべている。


 「ほう?ならばその力、見せてもらおうか?」


 コルトネはニヤッと笑うと右手を挙げた。


 すると、馬車の裏で待機していた奴隷商人のほかの護衛達が続々と現れて、初老の男性に向かって剣を向けた。


 護衛達は初老の男性を除いて五人ほどいて、それぞれ特徴を言うのであれば、目が虚ろで歯が欠けていたり、汚らしい白の無精ひげで右目に縦の切り傷が付いた眼帯の肌の黒い男性、モヒカンでいかにも世紀末が舞台の漫画に出てきそうな奴、青龍刀のようなものを持ったアジア人の見た目をした人、唯一剣を所持してはいないがビキニアーマーで両手に鉄製の鉤爪を装着した人狼族ワーウルフの女性といった感じである。


 元勇者と呼ばれた初老の男性と髭デブを頭に持つ盗賊団は、互いに距離を置いて剣を構えた。


 「なるほど・・・護衛の賃金が普通の奴隷商人たちより破格の金額だったのは、元から俺に渡すつもりなどなかったと・・・。」


 コルトネは、下卑た笑い声をあげた。かなりの迫力があるのか、シュナラやほかの性奴隷たちは頬を赤く染めて涙目になっていた。


 「察しがいいな・・・そういうことだ。もっとも、先程の突風は想定外だったけどな。おい!」


 「へい!」


 威勢のいい掛け声とともに馬から降りてきたもう一人の御者は、コルトネとは対照的に髭はきれいに剃られていて、細身というよりはヒョロガリで丸眼鏡をかけて白手袋を着用しており、着ている服装は御者というよりどちらかと言うと魔導士に近い紫色のローブをまとっていた。


 「ガツマー、奴隷女たちが逃げられないように束縛魔法をかけておけ。」


 「なるべく早く決着をつけるでゲスよ。この魔法は結構魔力を消費するんでゲスから。」


 「言われなくてもわかってらあ!さあこい、ここがお前の死に場所だ!ローゼン王国のスパイ野郎、オードリー・ヒロード・シップバーン!!」


 オードリーと呼ばれた男性は、さすがに自分の正体を見抜かれないと思っていたのか、驚いた表情をした。


 「驚いたな・・・まさか見抜かれていたとは・・・。」


 「大方、どっかの酒場で俺たち盗賊団と帝国のズブズブな関係を聞いて、それを臣民に知らせることで国力を弱らせようとしたんだろ?」


 「オイオイ・・・俺は未だ確信していなかったのに、当事者がべらべらとしゃべっていいのか?」


 「へっへっへ・・・構わねえさ、どうせお前さんはここで死ぬのだから・・・これで心おきなく戦えるだろ?」

 

 「ああ・・・お互いになっ!!」


 オードリーは、老人とは思えない速さでコルトネに迫った。


 そうはさせまいと五人の護衛達はいっせいに斬りかかった。


 まず先に出たのは鉤爪のワーウルフで、オオカミのような鳴き声とともに鉤爪を素早く振り下ろした。それとほぼ同時に、反対方向から眼帯の男性が刀を両手に持ってとびかかってきた。


 それをオードリーは、右手に持った剣で鉤爪による攻撃を受け止め、眼帯の男性には蹴りを食らわせた。


 「グオッ!!」


 男性は、数メートル先まで吹っ飛んで気絶した。


 「ヒャッハー!!」


 ワーウルフとの拮抗状態が続いていると、今度はモヒカン男性が奇声をあげながら串刺しにしようと突進してきた。


 オードリーは、右手を思いっきり振り上げてオオカミ女を吹き飛ばした。


 「きゃん!!」


 その勢いで、刀をモヒカン男性に向かって勢いよく斜めに振り下ろした。


 「あばらぅ!!!」


 モヒカン男性は、奇妙な断末魔の叫びをあげながら刀もろとも真っ二つに切られた。


 ガツマーは、自分が持つ能力の一つである魔眼で見ると彼が、無詠唱で剛腕を使ったのが分かった。


 「無詠唱だとバカな!」


 彼が目を見張っている間にも、態勢を立て直したワーウルフと目が虚ろの歯抜けが斬りかかってきた。


 歯抜け:「くたばりやがれェ!!」


 オードリーは、彼女のビキニアーマーのブラジャーにあたる部分を器用に刀で切り裂き、左手でその端をつかんで外すと、それを勢いよく歯抜けの顔にぶつけた。


 歯抜け:「イレバ!!」


 哀れ、歯抜けはビキニアーマーの鉄でできた部分をもろに食らったため、すべての歯が抜けてしまい痛さのあまりその場で口から大量の血を流してショック死した。


 「きゃあああ!!!」


 悪党とは言えどやはり若い女性、いきなり自分の乳房をさらされて気をしっかり持てるわけがなく、顔を赤くしながら両手で見えないようにしてしゃがみこんでしまった。


 その時、コルトネとガツマーの息子が元気になってしまったのは言うまでもない。


 少しの間が開いてから、今度は青龍刀のようなものを持ったアジア人っぽい男性が向かってきた。


 「ホアアーッ!!」


 オードリーは、両手で剣を持ち自分の前で剣を斜めに持って相手の斬撃を受けとめた。


 しばらく、ぎちぎちと刀の金属音が静寂の中で響いた後、オードリーは、「脚力上昇」と小さくつぶやき、左足を勢いよく前に出して男性に蹴りを入れた。


 「グアッ!!」


 男性は、横倒しになった馬車に勢いよく背中を打ち付けた。その勢いで木製の馬車は、吹っ飛んできた男性の勢いに耐えられず、バキバキと音を立てて派手に壊れた。


 「やったか?」


 だが、男性は瓦礫の中からよろよろと立ち上がり、奇声を上げながらわき腹に刺さった木片を引き抜きそばに転がっていた車輪をオードリーめがけて投げつけた。


 オードリーは、しゃがんでよけた直後に器用に車輪の隙間に剣を差し込み右足を軸にして時計回りに回転して、その勢いで男性に向かって車輪を投げつけた。


 「フウン!」


 男性は、車輪を真っ二つに切り裂いた。だが、彼の姿はどこにもなくようやく彼が視界に入った次の瞬間、彼の視界は勢いよく回転しながら地面に向かった直後に暗転し、その後、彼の意識も途絶えた。


 オードリーの刀の先から、彼の血が滴り落ちておりその横には頭と体が泣き別れになっている男性の姿があった。


次はワーウルフの女性とオードリーとの一騎打ちです。

面白いと思った方はブックマークと高評価をよろしくお願いします!

次回更新は五月八日です。

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