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旭日の惑星  作者: 小林ミメト
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第弐話:大日本帝国火星総督府

 

俺の名前は富士見 つよし


火星に建てられた久砂荘で独り暮らしをしているただの無職童貞だ。


火星とはいっても、過酷な環境に直接建てられているわけではなく、火星の荒れ果てた表面に複数個のドーム状の建物が点在しており、俺たちはその中で建てられたアパートやマンション、一軒家に暮らしているのだ。


趣味は・・・まあ、両親が生きていたころはお小遣いをためて鉄道旅行することぐらいかな。今はそんな金もないので、お小遣いで買った髭の配管工や電気ねずみ、桃色玉の見た目をした勇者、エルフ耳の勇者などが乱闘する電子遊戯を極めているってところか・・・。


一通り遊び終わった後、寝転がってカレンダーをふと見た。


「やっべ。カレンダー変えてねえや。」


自分の薄型携帯電話に表示されている月とカレンダーの月が六か月もずれていた。


慌てて、カレンダーを十一月まで破いたら、令和の御代になってからもう半年もたっているというのに、まだ生活保護を受けている自分が情けなくなってきた。


もう、居住可能区域から出て宇宙のちりとなろうか、などと思っていた矢先に突然呼び鈴が鳴った。


「ふゃい!」


ここのところ、一年近くも呼び鈴を鳴らされたことがなかったので、びっくりして変な声が出てしまった。


恐る恐る扉の覗き穴から外を覗いてみると、日除け眼鏡をかけた背広姿のガタイのいい男性二人と、眼鏡をかけてマスクをした少しばかり年老いたじいさんがこれまた高そうな背広を着用して立っていた。


「借金ならしていませんよ!お引き取り下さい!」


だが、彼らが放ったのは意外な言葉だった。


「我々は、大日本帝国政府のものです。我々と一緒に来ていただきたい。」


彼は、耳を疑った。何か国家権力に対して反抗するようなことでもしたのかと思ったが、自殺する(宇宙空間に身投げする)のも若干気が引けていたので、もうどうにでもなれという気持ちで応じた。


久砂荘の階段を降りると、そこには一台の黒塗り高級車が止まっていた。


 「どうぞ。」


 いわれるがまま俺は後部座席に乗った。まさか、生活保護受給者の俺がこんな高級車に乗れるなんて、もしかしたらこれで運を使い果たしたんじゃないかと思うと冷や汗がどっぷりと出た。


 「大丈夫ですか?富士見殿。すごい冷や汗ですよ。」


 隣に座っていた初老の男性は、俺に自分のハンカチを手渡した。正直おっさんの汗拭きタオルなんて有難迷惑だったが、一言お礼を言って汗を拭きとった。


 「出してくれ。」


 「ハイ。」


 車は、エンジン音をうならせながら久砂荘を出発した。


 すると、どこから湧いて出てきたのか、車の前後を守り固めるように巡回警護車が二台現れた。

 

 「あの・・・どこへ連れていかれるんですか?」


 圧迫感に耐えられなくなった俺は、初老の男性に質問した。運転手と助手席にいる男性は、何か言いたそうだったが初老の男性はそれを手で制止して俺の質問に答えた。

 

 「帝国の火星総督府にある秘密の研究所といったところだろうか。異能が使える君のほかにも、二名ほどとある実験に協力してもらう。」


 「ある実験とは何ですか?」


 「その内わかる。」


 ふと窓の外を見ると、夜に切り替える時刻になって人工太陽が消灯したので建物や街灯の明かりだけの幻想的な車窓になっていた。


 しばらく流れていく景色を眺めていると、鋼鉄製の頑丈な門で守られた国会議事堂によく似た建物の前についた。


 助手席の男性が、車の外に出て何やら交渉した後、警備員に敬礼をされているところを見てようやく確信した。


 少しばかり偽物であることを疑っていたが、どうやら彼らは本物の政府の人間のようだ。


 車を降りた後、思い切って初老の男性に名前を聞いてみた。


 「あの、失礼ですが・・・名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 男性は、意外にも素直に答えてくれた。


 「ああ、すまない。自己紹介がまだだったね。私は、大日本帝国内閣総理大臣の安倍晋之輔だ。」


 俺は、あまりの衝撃に思わずのけぞってしまった。


 「そ、総理大臣様がわざわざ・・・。」


 「そうだ。君は総理がわざわざ出向くほどの重要人物扱いなのだよ。くれぐれも粗相のないようにな。」


 「ハ、ハイ!」


 建物の中に入り、ある程度進むと彼らは突き当りの何もないところで立ち止まった。


 何をするかと思いきや壁に手をかざした。すると、突然横三列縦四列に並んだボタンが付いた液晶画面付きの認証装置らしきものが出てきた。


 「目を閉じていてくれたまえ。」


 言われるがままに目を閉じた俺は、ボタンを押す音と『ウイーン』という独特の機械音が聞こえた後に誰かに手を引っ張られた。恐らく、中に入れられたのだろう。


「もういいぞ。」


 そういわれて目を開けるとそこには大きな液晶画面が中央の方にあり、その手前には薄型の個人計算機に向かって誰かと交信したり、いろいろな小型の機械がくっついているオレンジ色の水中眼鏡のようなものをかけて、あわただしく空中に向かって何かを操作しながら歩いている人などが合わせて四十人ほどいた。


 「ここは?」


 「ようこそ!政府の秘密研究所へ!」


 驚いて声のする方を見ると、そこには白髪のぼさぼさ頭にオレンジ色の日除け眼鏡のようなものをかけた70代くらいの男性が猫背で立っていた。

 彼の前に現れた人物の正体は?次回をお楽しみに!


 次回は5月3日更新です。

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