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すばるの仕事






「うわ。ホントにいた」

「は?……達川(たつかわ)何しに来たの?」

「莉乃さんに用事があって来たんだけど、お前がお嫁さんと屋上で遊んでるって聞いて見に来た」

「お嫁さん……て……」

「え気持ち悪ぅ。喜ぶなよ」

「すばるさん」


清水がおいでおいでと手招くので、すばるはその横に並ぶ。

向かい合った男にぺこりと頭を下げた。


ラフな服装で無精髭の男は、人好きのする顔で笑っている。目尻の笑い皺が印象的だ。


「これ、達川」

「はじめまして」

「はい〜どうも、365日中360日Tシャツの男、達川です! たっつんって呼んでね!」

「呼ばねぇよ」

「篠原 すばるです」

「しのはら? あれ? 萩野じゃないの?」

「お嫁さんじゃないので」

「ん? しのはら? あ!あ〜……診断書あれで良かった?」

「あれ作ってくれたんですか?」

「ん〜? 作ったのは本物のお医者さんだよ、俺ちゃんは書かせた方だね」

「ありがとうございました、助かりました」

「いえいえ〜。ていうか、そのジャージこの近くにある高校のじゃない?」

「あ、そうです。そこの学校のです」

「は?! え?! 若いなと思ったけどJK?! JKが嫁さん?! お巡りさーーん!!」

「お嫁さんじゃありません」

「で、なんでジャージ? 着させられてるの?」

「運動してるので」

「なんだ〜。清水の性癖かと思っちゃった」

「ていうか何でジャージがそこのだって知ってんだよ。 気持ち悪!」

「情報は力だかんね〜」

「たっつんさんは清水さんのお友達ですか?」

「あは」

「喜ぶなよ達川……すばるさんもまともに相手しちゃダメだって。仕事仲間だよ」


依頼をさばいたり、物資を調達したり、人を采配するのが達川の仕事だと清水は簡単に説明した。

要するに何でもやる雑用係だよと達川は笑っている。

困り事は何でも相談に乗るよ、とすばるに名刺を渡そうと取り出す。


その名刺を横からすっと清水が奪っていく。


「連絡先なんか渡してんなよ」

「何だよ、俺ちゃんの武器ぞ」

「返す」

「ヤダよぅJKとお話しさせてくれよぅ」

「JKとか言うな。お前が言うと犯罪臭がするんだよ」


大人しくやり取りを見ていたすばるは、小さくうんと頷くと、清水の手にあった名刺を取り返した。


「たっつんさん、相談があるんですけど」

「え? なになに乗る乗る〜」

「ちょっとすばるさん、相談なら俺にしてって!」

「私、仕事を探そうと思ってて」

「ん〜? 仕事?」

「すばるさん?」

「なにかないかなって」

「何でもあるよ〜?」

「てか、すばるさんは働かなくてもいいんだってば。余裕で養えるって言ってるでしょ?」

「それです」

「なに?」

「そんなの嫌なんです」

「外に出られないのに……」

「今は……そうですけど。働かざるもの食うべからずです」

「わぁ。良い心がけだね」

「なので、私でも出来そうな仕事を」


ううんとひとつ唸って、達川はちらりと清水を見る。

清水は僅かに眉間にシワを寄せて、達川に余計なことを言うなと目で訴えかけていた。


「こいつがどんなことしてるか知ってんの?」

「はい……話だけですけど」

「ふーん……おんなじこと出来るの?」

「達川!」

「……や……ったことないので、出来るかどうか」

「すばるさん!」

「ああ……いいねぇ。いいよ、すばるちゃん」

「馴れ馴れしく呼ぶなよ!」

「私でも出来そうな仕事、ありますか?」

「こいつ元々持ってないから気付いてないみたいだけど、すばるちゃん、良い倫理観の無さだね。向いてるよ……どれくらい動けるの? てか、ワーウルフなの?」

「あ、違います……けど」

「清水? すばるちゃんどうなのよ」

「……くるりよりは動けるよ」

「は! そりゃ凄い!! 充分充分!!……ハイジに付けようかな」

「何で俺じゃないんだよ!」

「お前が仕事になんなくなるだろが馬鹿」

「バカ言う方がバカ!」

「ハイジ助手欲しがってたから丁度良いわ……何が不満だよ」

「ぅぅ…………ハイジなら良いけど」

「じゃ、決まり。明日の午後、そこの番号に連絡くれる? すばるちゃん」

「はい! よろしくお願いします!」

「あら〜元気で素直な子は好きよ俺ちゃん。じゃあねぇ」


達川を見送って、屋上の扉が閉まると、すばるはほうと息を吐き出した。

途端に横から清水に抱きつかれる。


「ぅぅ……すばるさんのおたんこなす……大好き」

「言ってることめちゃくちゃですけど」

「俺の心もめちゃくちゃ……どうしよう」


すばるを危険に巻き込みたくはないのに、こんな世界があると教えたのは他ならない自分で、仕事が出来るかどうかはさて置いて、すばるがこちらに踏み込もうと考えてくれたのが嬉しかった。


ケガに強く、丈夫な身体を持っている。

身体能力は普通の人を軽く越えている。


コントロールする為に身の捌き方を教えているけど、それは危険を回避する為で、自ら飛び込む為ではない。


それでもすばるがすばるなりに、負担をかけないようにしようと考えてくれたのが嬉しい。


自分と同じようになろうとしてくれるのが、どうしても嬉しい。


「……ハイジさんてどんな人ですか?」

「……この前、車貸してくれた人」

「清水さんが信用してる人?」

「……はい」

「良かった……だったら安心です」

「ぅぅ……でも心配……」

「助手ってどんなことするんですかね?」

「…………わかんない」

「がんばります!」

「いややっぱりくるりとチェンジさせよう」

「くるりさんて?」

「俺の相方……」

「あ、そんな方がいるんですね」

「どうでもいいんだよ、くるりなんか…………ぅぅ…………すばるさんと仕事するぅ」

「こんな調子じゃ無理なんじゃないですか?」

「!! すばるさんまで!!」

「だってぐたぐたですよ、今の清水さん」

「やだーー!」

「……わぁ」

「………………引いた?」

「……かなり」




服を着替えて出かける準備を整える。

イヤフォンを耳に詰めて、薄く音楽を流した。


こうすれば音楽に気を取られて耳から入る情報は随分と減るということに気が付いて、最近は食材の買い出しに、近所の商店街に出かけられるようになった。


「では、買い物に行ってまいります」

「は〜い。気を付けてね」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、清水君も」

「んー」

「あぁ……プリン買ってきて。金魚のフン」

「お前の方がな。ぷっちんてするやつか?」

「ケーキ屋さんのがいい……」

「はいはい。行こ、すばるさん」

「生クリーム乗ってるやつだぞ!」

「わーかってるって。よもぎ餅な」


それキライと大きな声で叫んで英里紗はぎゅうぎゅうと莉乃にしがみついている。

今朝一番の大声が出たので、だいぶ目が覚めてきたらしい。


起きている時ははきはきしている英里紗なのに、今は可愛らしくて、すばるはそれに思わずにっこりしてしまう。


それを見た清水もにっこりして頬をすり寄せてくるので、それはぐいと避けておいた。




靴を履いて玄関を出た途端、清水はすばるの手を握る。

出かける時は常にこうなるので、すばるもその度にやめてと言うのも面倒になってしまった。

止めるの止めないのと言い合うのすら手間な気がする。



人の少ない午前中の時間を狙って行く。

混雑を避けたいのもあるが、休学中なのにぶらぶら出歩いているのを知り合いに見られるのも不味い。

なるべく早く帰れるように効率良く店を回る必要がある。


「お昼はなに?」

「パスタにしようかなって……材料はあるんで大丈夫です。夕食の分を買わないと……何が良いですか?」

「うーん……魚っぽいのが食べたいな」

「ぽいの……お魚屋さん見て考えましょうか」

「うん、そうしよう」

「あ! しののん!!」

「蒼井さん……」


するりと清水から手を離して、イヤフォンを外すと、すばるは同級生の蒼井の側へ寄って行った。


「しののん、どした〜何で休学?」

「ちょっと体調が悪くなっちゃって」

「あ、そういや先生そんなこと言ってたっけ」

「蒼井さんこそどうしたのこんな時間に」

「はは! 超・寝坊!! も、どうせだからゆっくり行ってやれと思って」

「そうなんだ……」

「で〜?」

「でって?」

「おやおや〜」

「な……に?」

「学校休んで仲良くおデートですかぁ?」

「買い物だって」

「おふたりでぇ……ほほぅ」

「あ、そうだ。私しばらく休むから、蒼井さんにあげようと思ってたんだ」

「ん? なにを?」

「テストのアレ」

「は?! マジで?」

「あーうん。て言っても一年生用と今までのしか無いけど……良かったら」

「貰っちゃっていいの?」

「良いよ……バレない様に気を付けてね」

「マジか……ありがと」

「んーんいいよ、こっちこそたくさん売ってもらったし……色々あるから、まとめたら連絡する」

「わかったー。ありがとー! うれしー!」

「だから」


がしっと蒼井の肩に腕を回して、すばるは顔を近付ける。


「わかるよね?」

「お……おお。お口チャックな」

「……別に言っても良いけど」

「いいんかい!」

「からかうのはやめて、絶対」

「……あ、そこ?……そうかぁ……真剣なんだね、しののん」

「違うから」

「本気の恋だね!」

「えだから違うってば」

「おいさん姉さんに任せとき!」

「あ……もういいや、それで」




うんうん頷いて、すばるの肩に手を回しぽんぽんと叩いている。


清水に向けて拳を握り親指をびしりと立てる。




何故か同じように清水も返して、ふたりは同時に頷き合った。














新展開。



これから名前だけの人がぼちぼち出てきます。





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