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新説こころあつめる~心烏への旅路~  作者: 心乃助(未熟者)
第零章「こころあらそう」
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第七話『空虚な剣』

「ごぁっ!?」


 出雲大社の境内。


 そこで烏乃助は暁 黎命と交戦していたが、烏乃助は押されていた。


「なるほど、確かにオレとお前は互角だろうな。だが勝てない。何故か分かるか?」


 片膝を付いて呼吸を乱した状態の烏乃助に暁は問い掛けた。


 だが、烏乃助は唾を吐き捨ててから暁に反撃をした。


「そんなの知るかぁ! 『(さぎ)・五連剣舞』!!」


 最初の薙ぎ払いで相手に防御させてから、そのまま一回転して更なる薙ぎ払い、そしてまた回転してからの攻撃。小型の台風のような勢いで計五連撃を叩き込み、最後の一撃で暁の体を斜め上空へと吹き飛ばした。


 人間とは思えないような膂力(りょりょく)で飛ばされた暁は、そのまま空中で一回転してから出雲大社本殿の屋根に着地したが、着地した衝撃で屋根が大きく凹んで原型を失ってしまったが、そのまま烏乃助も跳躍して追撃した。


「あぁぁぁぁぁぁ!! 『(からす)』ッ!!」


 跳躍からの落下と同時に縦回転からの正面斬り、それによって暁ごと屋根を両断したのだが。


「!?」


 そこには暁は居なかった。


「ぐ、はぁ!?」


 腹に重たい衝撃を感じ、烏乃助はそのまま吹き飛ばされてしまった。


 暁は烏乃助の正面斬りを避けたと同時に、左手に持っていた鞘で殴り飛ばしたのだ。


 空中で身動きが取れない状態の烏乃助に暁は反撃を加えた。


「『空蹴・絶閃』!!」


 暁は、なんと何もない空中を蹴って軌道を変えてから無数の斬撃を真下に居る烏乃助に叩き込んだのだ。


「ぬ、がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 烏乃助は落下しながら自分に襲い掛かる無数の斬撃を防いではいるが、全てを防ぎきれなかった。


「が、ぶぅ……!」


 参道へと落下した烏乃助は傷だらけになりながらも致命傷を避ける事はできたが、出血量が酷かった。それでも倒れることはなかった。


「これがお前とオレの差だ」


「あぁ? 確かに剣の腕は大したものだ。実力もかなり高いようだが、それに何の違いが――」


「違う、お前が負けてるのは剣の腕とか実力とかではない!!」


 声を張り上げた暁は顔を隠していた前髪をかき上げて、その険しい表情と鋭い眼光を向けてから烏乃助に感情的になりながら指摘した。


「お前の剣からは信念も誇りも、戦いに対する喜びも、怒りも哀しみも何もない! 感情も心もない空っぽで空虚な剣、それがお前の弱さの正体だ!!」


 先程まで物静かな印象を持っていた暁がまさかの感情的となって烏乃助の弱点を指摘し、そのまま暁は語り出した。


「闘いとは武器と武器、肉体と肉体のぶつかり合いではない、精神と精神、心と心のせめぎ合い! 感情を剣に乗せられないお前はいったい何のために剣を握っている! 返答しだいではこの場でお前の首をはねる!!」


 かなり怒りを(あらわ)にしているが、暁がなんでこんなに怒っているのか烏乃助は理解できなかったが、烏乃助はなぜ剣を握ってるのかを答えた。


「……生きるため。それだけ、それしか生きる術を知らん、これで文句ないか?」


 その答えを聞いて暁は、失望したような眼差しを向けてきた。


「生きるためか、なるほど、お前の正体は畜生だったか」


「はぁ?」


「お前は、闘いを作業か何かと勘違いしているな。与えられた職務を日々こなすだけの。だからか、いくら剣の腕が洗礼され、完成に近い技術を持っていても、その剣に感情を乗せられない理由がそれか」


 烏乃助の事を冷めた眼差しで見つめながら、暁は再び前髪で顔を隠した。


「生きるだけならそこら辺の動物と何一つ変わらん。折角人としての生をうけておきながら、何の目標もないとは、オレはどんな戦士にも敬意を表するが、お前のような人の姿をした獣にはもう何も感じるものはない」


「……は、さっきから訳の分からない説教を垂れやがって、頭沸いてるのか? 闘いなんぞ所詮は殺し合い、感情に呑まれた奴が真っ先に死ぬんだよぉ!!」


 烏乃助は剣を中段に構えながら暁に突貫し、八つある奥の手の中の一つを使うことにした烏乃助。


 心と心の闘いだと暁は諭したが、そんなものに共感する気がない。だが、この男を倒すにはもうこれしかない。


「第一羽の奥義『雨燕(あまつばめ)』!!」


「っ!?」


 中段からの不可思議な手元の変化、今剣先がどこを向いているのか、手元はどうなっているのか相手側からは理解できない変幻自在の動き、それは陽炎のようであった。


「くっ!」


 どこから剣が飛んで来るのか分からない。だが、ここで引くわけにはいかない。暁は苦し紛れに渾身の突きを出した。


「『一貫』!!」


 その突きを烏乃助はかわすことなく、左肩で受け止め、そして筋肉で刺された刀を抜けないようにして、相手の動きを封じた。


「なに!?」


「くたばれぇぇぇぇぇ!!」


 下!?


 そう、中段の手元の変化によって相手を惑わせてから、相手の視覚外からの完全なる下段からの斬り上げ、それが本命だったのだ。


「が、はぁ……!」


 烏乃助は暁の正中線に沿って斬り上げ、暁の胴体から顎を両断したのだ。


 明らかな致命傷。だが――。


「い、『い、がん・らぜ、ん』!!」

 

 顎が割れたせいか、とても喋りにくそうに技の名前を叫びながら、烏乃助の肩に刺さった状態の刀を捻り、回転力を加えることによって烏乃助の左肩を抉り取った。


「ぎっ!?」


 苦し紛れの攻撃ではあったが、それでも烏乃助に大きな怪我を与えた。


 相討ち。


 暁は致命傷、烏乃助も出血多量で今にも死にそうな状態になっていた。


「ぐは、はぁ、はぁ」


「……」


 烏乃助は息を切らし、暁は無言のまま立ち尽くしていた。


「……死んだ……か?」


 立ったまま亡くなったのか分からないが、暁はその場から動こうともしなく。言葉を発する事はなかった。


 勝った……のか? 烏乃助もまた動くことができず、暁の死亡を確認することはできなかった。


 血を流しすぎたが、自分は生きている。黒頭巾と合流して、傷の手当てをしてもらえば自分の勝ちだ。


 と、思ったが、烏乃助の胸のうちに何か熱いものが込み上げてきた。


 ――なんだ? これ?


 勝ったはずなのに勝った気がしない。いや、そもそも烏乃助には勝ち負けに拘る事なんてありえなかった。


 勝って当然、生き残って当然、そのための剣、それだけの術、だったはずなのに、何故今勝ち負けに拘ってるのだろうか?


 ――信念、誇り、感情、心、そんなもの、闘いの場、強いては生きる上では不必要なものだと思っていたが、何故だ? 何故こんな事を考えている?


 頭の中が何故で埋め尽くされている状態の烏乃助の目の前にある出雲大社本殿の中から複数の人物が現れた。


 一人は黒頭巾で、もう二人はどちらも神官の格好をしていて、一人がもう一人を人質にしており、最後の一人を見て烏乃助は驚いた。


 雪のような美しい白髪を持つ少女がそこに立っていたのである。


 あまりにも幻想的な雰囲気な少女。と、普通はそう思うが、烏乃助が真っ先に思い浮かんだのは。


 ――なんだ、あの老けたババアみたいなガキは。


 で、あった。


「おー黒爪殿、中々に激しい戦いだったようですね。中に居ながらでも凄まじい音が聞こえてきましたよー」


「……そう言うの良いから早く手当てしてくれ、久し振りに苦戦した上にこんな傷だらけにされてしまった」


 黒頭巾と烏乃助がやり取りする中、人質にされてる神官が叫んだ。


「あ、暁!? まさか、お前が負けたのか! なんと言う……ことだ……」


 暁はまだ死んでいるのか分からない状態ではあるが、明らかにこれ以上戦う事が出来ないことは誰が見てもそうだった。


「さぁうずめさん。よぉくその綺麗な瞳に焼き付けてください。自分の故郷が燃え盛る様を」


「あ、あぁ……」


 うずめと呼ばれた白髪の少女は言葉を失っていた。


 眼前に広がるは燃え広がる町、最初に見たときよりも火の勢いが激しく、燃え広がり、町からは怒号と悲鳴が鳴り響いていた。


「酷い、酷いよぉ……」


 うずめはその場で泣き崩れ、それを見ていた黒頭巾はまだ何かをしようとしていた。


「んんんんん、順調ですねー、では最後の仕上げです」


 そう言うと、神官が人質にしていたもう一人の神官から手を離し、烏乃助の目の前へと放り投げた。


「黒爪殿、これが最後の役割です。その男を殺してください」

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