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新説こころあつめる~心烏への旅路~  作者: 心乃助(未熟者)
第零章「こころあらそう」
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第五話『蹂躙』

 地獄であった。


 国は燃え、町も燃え、欲望に駆られた者達が家屋を荒らし、隠れている者を引きずり出し、殺し、追いかけ回し、殺し、四肢を引き裂き、殺し、性欲処理のために犯し、殺し、子の目の前で親を殺し、金品を奪い、人の尊厳を奪い、欲望の赴くままに蹂躙され、穢されていく。


 聖なる地が、堕ちてゆく。


「ふ、ふふふふふふふ」


 何処を見ても悲惨な惨状しか映らない中、黒頭巾と黒爪 烏乃助は闊歩(かっぽ)していた。


「素晴らしい、素晴らしい素晴らしい素晴らしぃぃぃぃい!!」


「……」


 黒頭巾がこの光景に興奮する中、烏乃助は特に興味も無さげに周囲を見ながら歩いていた。


 そうしていると、一人の女性が烏乃助にしがみついてきた。


「あ、あぁ、お、願い、助けて、くだ、さい、お願、い」


「……」


 必死に助けを懇願(こんがん)されてはいるが、烏乃助は特に表情も変えずに、しがみついてきた女性を振りほどき、蹴り飛ばしてから烏乃助は再び歩みを進めた。


「い、いやぁぁぁぁぁぁ!! 死にたくない、死にたくないぃぃぃぃぃ!! だれがぁぁぁぁ!!」


 後ろで先程の女性が悲鳴を上げながら盗賊達に引きずられて衣服を引き裂かれ、手足を折られてからその場で犯されてしまっているが、烏乃助は特に興味もなかった。


「黒爪殿、この景色を見ても何も感じませんか?」


 さすがに興味無さげすぎる烏乃助の態度を見て、黒頭巾は尋ねてみたが、烏乃助はだるそうに返答した。


「特になにも。俺は、俺が無事で平気なら後はどうでもいいから」


 この烏乃助と言う男は普通とは何処か違うと思われていたが、人として何か大事なものが大きく欠けているような印象を受ける。


 そんな男であった。


「そうですか、ワタシは嬉しいですがねぇ。今宵、出雲と言う国が滅びる。数十年も続いた泰平の世の均衡が崩れ去ったのですから」


「……」


「この先の未来が楽しみですぞぉ、これで終わりではない。ここからが()()()なのです」


「……ふぁ~」


 聞いているのか聞いてないのか分からないが、烏乃助は大きな欠伸(あくび)をしていたが、それでも黒頭巾の話は続いた。


「出雲を襲った戦火は別の所に燃え移り、そして新たな戦が生まれ、そこから大きな()が生まれる。……黒爪殿はご存知ですかな?」


「……なにが?」


「戦争とは()()なのです。ただ戦争の準備をするだけで金が動く、人員、食料、武器、それらを揃えるだけでもどれだけの金が必要か」


 話を続けながら、二人は出雲大社へと続く階段を登っていた。


「そして戦争が起き、終わり、また次の戦争の準備が発生し、また金が動く。もし、その時に発生する富を独占できたらどうです? 雪だるま式に富が増えていくと思いません?」


「そんな都合よくいくのかよ」


「いきます! 都合よくできるのです! 富を独占する為の方法を『あの御方』から教わりました! 戦争とは、どれだけ素晴らしい商いなのかをワタシに教えて下さったのです!! だからワタシは求める! 神子の力を手にして、かつての戦乱の世を今再び(よみがえ)らせる!」


 黒頭巾はかなり興奮気味に語り出し、烏乃助は呆れながら話を聞いていた。


 全て興味なかったからである。


 黒頭巾が言う『あの御方』とは誰なのか、戦争は商いだとか、全てがどうでもいい。


 この黒頭巾は『あの御方』とやらに上手く利用されてるだけの傀儡(くぐつ)でしかないんだろうなと、思った。


 いつの世も、人を破滅させる要因は、『酒』『女』そして『金』だ。


 金と言う甘い蜜でこの男は狂わされ戦争を求めてはいるが、放っておいても勝手に自滅するような小物だ。


 だからこれ以上口を挟まない。このまま黙って従っておこう、そうすれば、明日を生きられるだけの金と食料が貰える。


 黒頭巾と烏乃助の関係とは、その程度の間柄だ。烏乃助は自分が生きられるのであれば、後の事は本当にどうでもいいと思っている人でなしであった。


 そうこうしている内に二人は出雲大社の境内の中に入っていた。


 見た感じ誰も居ないように見える。みんな隠れているのか、それとも逃げたのだろうか。


 逃げたとしても、今の出雲には何処にも逃げ場所なんてないと思われるが。


「誰も居ませんねぇ、奥の方でしょうか?」


「……いや、()()


 と、烏乃助は刀の鞘の鯉口に手を当てながら、出雲大社の中から出てきた人物を警戒していた。


 その男は日本では見ないような、どこかの民族衣装を着崩した出で立ちをし、前髪で顔を隠した奇妙な男であった。


 その左手には普通と違う装飾が施され、鞘に納まった状態の刀が握られていた。


「……戦いの素人であるワタシでも分かります。あの男は()()ですね」


 黒頭巾も思わず身構えてしまう程の剣気を発する男が目の前に居る。


「護神隊三百人が霞んで見える程の強さを肌で感じ取れます。きっと彼が出雲、いや神子を守る最後の(とりで)でしょう」


 その男の強さを感じながら、その男はこちらへとゆっくり近付いていき、ある程度近付いた距離で立ち止まり言葉を発した。


「……雇われの身ではあるが、オレもかつては戦士だった。だから名乗らせて貰おう。オレは『(あかつき) 黎命(れいめい)』と言う者。そちらの黒い剣士、名は?」


 暁と名乗ったその男は、凄まじい威圧感を発しながら烏乃助に名を聞いてきた。


「『黒爪 烏乃助』。別に覚えなくて良いぞ。俺もお前の事、覚える気もないし」


 相手の威圧感に対し、烏乃助もそれに対抗するために強烈な殺気を相手に向けた。


 今、二人の気は拮抗していた。二人ともまだ剣を抜いていないのに、もうすでに戦っているようであった。


 烏乃助は表情には出さなかったが、それでも驚いていた。今まで出会ったどの武芸者よりも格段に強い部類だと。


 この男と戦って生き残れるのか? 初めてであった。そんな事を考えさせられる相手に遭遇したのは。


「なるほど、黒爪 烏乃助。お前ほどの剣士が何故盗賊ごときに従っているのかは知らないが、ここより先は誰も通すわけにはいかん。黙って死んでくれ」


「お前が死ねよ。俺は生きる」


 そして、遂に二人の剣が衝突し、目映い火花を発した。いや、最早火花とは呼べない。『閃光』、直視すれば失明してしまうような鋭い光が周囲を一瞬だけ包み込み、それが晴れた頃には二人は激しく斬り結んでいた。


 そんな二人の戦いを背に、黒頭巾はいつの間にか暁の後ろに周り込んで、出雲大社の方へと走り出していた。


「っ!?」


 暁は目を疑った。烏乃助だけでなく、あの黒頭巾も視界に入れて警戒していた筈なのに、いつの間に背後を取られ、出雲大社本殿への侵入を許してしまったのか。


「こっち見ろ馬鹿が!!」


 そんな事を気にする事を許さずに、烏乃助は暁に向けて逆袈裟斬りを放った。


「『(つばめ)』!!」


 それに応じて、暁は強力な水平斬りを使った。


「『一閃』!!」


 そして再び、二人の剣は閃光を発し、戦いは激化していった。


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