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新説こころあつめる~心烏への旅路~  作者: 心乃助(未熟者)
第零章「こころあらそう」
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第一話『神の子』

 宝永八年(1771年)


 戦乱の世が終わり、泰平の世が広がる日本。


 ここはそんな日本の中でも神聖な土地『出雲(いずも)』。


 その出雲の中でも大きな社『出雲大社』。


 そこにはまだ十三にも満たない幼い子供がおり、その子供は出雲大社の中では『神子』として奉られており、年に一度の奉納の際に神子が神前で神楽を舞、参列者と共に神々に祈りを捧げる事があるそうな。


 とても大事な儀式。にも関わらず、奉納直前で肝心の神子の姿が見当たらなくなってしまっていた。


 大社内は大慌てであった。まさか()()出てしまったのではないのかと神官達は焦りを募らせていた。


 あの子を外に出してはならぬ、あの子の()がバレてはならぬ。


 それだけで日本が再び戦乱の世になりかねないからだ。


 神官達は血眼になって探し回った。


 そんな大騒動が起きている事を知ってか知らずか、例の神子なる子供は出雲大社の中でも立ち入り禁止となっている廊下の向こうをのうのうと歩いていた。どこか上機嫌な様子である。


「ふんふふんふ~ん♪」


 神子は喜んでいた。手に持っている物を再度確認して顔が笑顔へと変わる。


 誰も立ち寄ってはいけない廊下の奥に進むと、突き当たりに大きな扉があり、大量の鎖と南京錠で縛られていて、開けることすら叶わない扉が目の前にあった。


「『あそび』! 今日も会いに来たよ!」


 神子はその扉に向かって呼び掛けた。中に誰かいるようだ。すると扉の中から声が聞こえてきた。


「               」


 聞き取れない。何を言ってるのか理解できない。だが、その声はとても澄んでいて、聞く者に安らぎを与えてくれるような。どこか不思議な声の持ち主であった。


「うん、言われた通りの物を持ってきたよ!」


 どうやら神子にはこの声を聞き取り、理解できるようだ。


 そのまま二人の会話が続く。


「        」


「うん、わかってるよ! これをこうして、こうして……できた!」


 ゴトンッ、と重たそうな金属音が廊下に響き渡る。すると扉を縛っていた大量の鎖が一斉に床へと落ちた。ずっと扉を縛っていた力を失ったかのように、鎖は床へと転がる。


「よかったぁ、これで『あそび』は外に出られるんだよね? お父様達って酷いよね。『あそび』は私とお話してくれる良い子なのに、こんな所に閉じ込めておくなんて可哀想だよ」


 神子は喜んでいるが、扉の向こうからは誰も出てこない。扉の封印は解けたのに、何故だろう。


 そのことが気になった神子が扉に手をかけて、中の様子を伺おうとしたら――


「『うずめ』! ここで何をしている!!」


「わっ!?」


 背後から急に襟を掴まれて物凄い力で引き寄せられて神子は尻餅をついた。


 今のでお尻を打ってしまったのか、お尻を擦りながら顔を上げると、そこには神官の格好をした父が立っていた。


「あ、お父様」


「うずめ! ここには来るなと前にも言ったはずだ! なのに何故来た!? 何故扉の鍵を開けている!」


 とても険しい表情で神子こと『うずめ』の父親はうずめを叱り付けた。それでもうずめは抗議した。


「だ、だって、あの扉の向こうには『あそび』って子が居て…」


「この中に居る者はとても危険だと教えたはずだ! だからこうして封印しておると言うのに……。それより何故()なのだ? もうすぐ奉納が始まるこの時に」


「そ、それは、『あそび』にも、私の神楽を見てもらいたかったから……」


 平手打ち。父は我が子に平手打ちをした。


 普段は決して手を出さない父に頬を叩かれた。怒らせてしまった。かなり怒らせてしまった。これはいけない、すぐに謝るべきだ。そう思ったうずめを尻目に父はこう続けた。


「……過ぎた事はもうよい、扉の再封印は他の者に任せる。うずめ、お前は早く着替えて神楽の準備をしなさい」


「……………………………………はい」


 これ以上怒られることはなかった。ただ呆れられてしまった。


 この扉を見付けたその時から耳にタコができるほど『近付いてはならない』『開けてはならない』と言い聞かせられていたのに開けてしまったからだ。


 しかし、何度聞かされても、うずめには理解できなかった。『あそび』が父の言うとおり危険な存在だとは、とても思えなかったからだ。



 冬が終わり、春が訪れ、桜が芽吹く時期。


 出雲大社の境内にて、巫女装束に身を包んだうずめが神楽鈴を手に持って神楽舞を披露していた。


 とても見事な舞であった。見る者の心を落ち着かせ、神にその全てを奉納する良き舞である。


 だが、その時であった。


「火事だー!!」


「なに!?」


 一人の神官が声を上げたのだ。神聖な儀式の最中に火事が発生したらしい。


 すると、うずめの父はその神官を問い詰めた。


「場所はどこだ!」


「は、はい、本殿の裏手です! は、早く消火しないと危険です!」


 それを聞いたうずめの父はすぐさま、その場に居る者達に指示を出した。


「男は他に出火場所がないか手分けして探せ! 女はすぐに出雲大社の外へ避難を! 現在判明している出火元には私とうずめが向かう! 皆の者、身の安全を第一に行動せよ!」


 その指示の下、各々がすぐさま行動に移り、うずめは父と共に出火場所へと向かった。



「こ、これは……」


 火の勢いが想像していたよりも激しく、そして広範囲に渡っていた。


 それを見たうずめの父は驚愕はしたが、迅速にうずめに命じた。


「うずめ! 『喜風(きかぜ)』と『哀水(かなしみず)』の二つを使って消火せよ!」


「はい!」


 そのように指示をされると、うずめは両手を広げて深呼吸してから両手を燃え盛る炎に向けて突き出した。


「はぁぁぁぁぁ!!」


 すると、うずめの手のひらから大量の水が溢れ出て、それが激流の如き勢いで炎に放たれ、更には火がこれ以上燃え広がらせないかのように、炎を包むように大きな竜巻が発生した。


 水と風と炎の煙が上空へと舞い上がり、それらが消えた頃には激しかった炎もまた消え失せた。


「う、くぅ、はぁ……はぁ……」


 うずめは、この不思議な力を使ったせいなのか、膝が崩れて地面に倒れそうになったところを父によって、その小さな体は支えられた。


「見事だうずめ、すまぬな、一度に二つの『神通力(じんつうりき)』を使わせてしまって、私も気が動転して無茶な事を言ってしまった……」


「はぁ……はぁ……だ、大丈夫、お父様がそばに居てくれたから、私も頑張れたから……」


「そうか……」



 火事騒ぎから数十分後、本殿以外の火の手は一つもなく、無事に騒ぎは収束された。


 だが、うずめの父は不審に思っていた。


 明らかに火元がない場所で何故火事が発生したのかと。


 これは誰かが意図的に火を付けたと見て間違いないだろう。しかし、誰が何の為に……。


 そう考えてる中、神子であるうずめを遠くから見つめる怪しき影が一つ。


「いやはや、あれが()()()()()を自在に操れる神子の力ですか、いやー見ちゃいましたねー。()()しましたねー。あれはなんとしても手に入れたいですねー。イヒ、ヒヒ」




 ヒハハハハハハハハハハハ!!


 

 明確なる悪意が、うずめを狙っていることを、まだ誰も知らない。

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